守備練習の意外な目的と狙い
この時期の本庄ボーイズのグラウンドでは、プロ野球の春季キャンプのようにグラウンド全体に流行りの音楽が絶えず流れている。「11月〜1月の間は練習中に子どもたちの好きな音楽を流しっぱなしです。子どもたちもリラックスしてやっていますよ。誰かしら子どもたちがスマホをつないでかけています」と横堀監督。練習始めのウォームアップは個人個人バラバラに行われ、最後の一周だけみんなで声合わせて走る。
「みんなで同じウォームアップをしたって一人一人の体格も体力も違うわけですから、体が温まった子、足りない子、温まりすぎな子、バラバラになります。ですから、アップは一人一人自分たちで行うように言っています」
自分の体の状態を把握し、自分に適した量のウォームアップを行う。ここでも「自分で考える」が実践されている。
新チーム結成の8月から年内の練習の中心は守備。この日の午前中もずっと守備練習が行われていた。
まずは「セブンノック」と呼ばれる内野ノック。決まった7つの基本パターンにノッカーがポンポンと打っていき、学年ごとにピンク、オレンジ、黄色に色分けされた背番号をつけた選手たちがきびきびと動く。このノックの狙いはこの後に行われるシートノックに入る前に体を動かし「体と頭を目覚めさせる」ことだ。
シートノックでは監督からノッカーを務めるコーチに一つだけ注文を出しているという。それは強い打球を打たないこと。「強い打球はボールへの恐怖心を生むだけでそれはノッカーの自己満足」だからなのだそうだ。
シートノックの最後には「連続10アウト」と呼ばれる、文字通り10球連続でアウトにできないと終われないノックが行われた。この練習で重視しているのは捕球や送球といった技術ではない。「失敗した時の頭の切り替えができるかどうか」を見ているという。
例えば、9球連続でアウトにした後の10球目は選手たちにもプレッシャーがかかる。それをエラーした選手は責任と負い目を感じる。そしてエラーした原因を頭の中で整理ができないと「また同じようなボールが来たらどうしよう」と漠然とした不安を抱えたままプレーを続けることになる。そういったことから頭を切り換え、「次のボールにすぐに集中できているかどうか」、横堀監督はそこを見ている。
「状況を考える力、自分たちで考える力を養うためにいいんじゃないかなと思ってやっています」と説明してくれたのはサインプレーの練習。
細かなプレーの精度を高めて試合で勝つ確率を高めることが目的なのかと思っていたのだが、この練習の目的は「選手同士で話し合う場を作ること」なのだという。いくつかあるサインプレーの確認を通じて選手たちが状況を確認し合い、会話を重ねる。サインが分からなければ「ごめん、分からない」ときちんと言えるか? それも大事なポイントなのだそうだ。そういった選手同士の会話の積み重ねが「状況を考える力、自分たちで考える力」につながるという、横堀監督ならではの深い考えだ。