ニュース 2018.11.26. 13:53

【少年野球質問箱】球速、球威がアップする練習、トレーニングを教えてください(前編)

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今回の質問・お悩み



「球速、球威がアップする練習、トレーニングを教えてください」

中学1年の息子が硬式野球をやっています。ピッチャーです。
あまり強くないチームですが現在3番手か4番手くらいです。

息子はコントロールはまずまず、スピードはそんなになく、変化球はあまり曲がってるとは思えないカーブを投げます。たまに登板する試合では結構打たれます。紅白戦でも結構打たれます。
監督やコーチからは「もう少し球速がないと」「もう少し球威が欲しい」などと言われています。

息子もそれらの課題を克服するために、平日はチームから課されている体幹トレとランニング以外にもシャドーを行なったり、たまに近所のチームメイトを相手に投球練習もしています(筋トレはチームで禁止されているのでやっていません)。

しかし、チームからは「監督、コーチが見ていないところでの一切の投球練習は禁止。シャドーも禁止」と言われてしまいました。理由は見てないところでピッチング練習をするとフォームを崩す恐れがあるからとのことです。それ自体には納得はできるのですが、土日しか行われない練習では1日50球という球数制限があり、満足に投げ込みを行うことができません。

体が未発達であったり、ピッチングフォームの崩れからくる故障など、息子の体と将来を危惧していただいているのはわかるのですが、同時に「エースになりたい!そのためにはもっと練習したい!もっと投げたい!」という息子の気持ちもわかります。

そもそもですが「球速アップ、球威アップ」のためには投げ込みは必要ないのでしょうか?
また、平日に行なえる練習で「球速アップ、球威アップ」につながる練習、トレーニングメニューにはどんなものがあるのでしょうか?


廣川さんの答え

そもそも投げ込みは何のために行うのか?
「投げ込み」というのは「繰り返しボールを投げる練習」で反復練習の一種です。
私は反復練習の効果は大きく分けて2種類あると思います。

【1】繰り返し特定の部位を鍛えることによる筋力アップ
【2】繰り返し同じ動作を行うことによる動作精度アップ

【1】について特定部位の筋力を鍛えるだけであれば、投げ込みよりも動作効率の高いトレーニングを行った方が効率よく筋力を鍛えられると思います。質問者のご子息は中学1年生ということですが、私は「小・中学生の間は筋力で球速を高める時期ではない」と思います。

では【2】の場合はどうか?持っている筋力を最も効率的に出力に換えられる「効率的な投球動作」はある程度あります。しかし投球動作というのは一見同じように見えて「同じ動作を繰り返す」というのは意外と難しいものです。最初は少ない球数の中で「効率的な投球動作」を学びながら徐々に球数を増やしていくことで「動作の再現性」を高めていくことは、投球技術向上のためにはある程度必要だと思います。

では平日を含めてどんな練習が効果的か?
それには球速が上がるメカニズムから理解した上で取り組むことが重要かと思います。
今回は「球速を生むメカニズム」について説明します。

◼︎球速が上がるメカニズム

「球速」は投手が捕手に向けて投げたボールの移動速度です。ボールが移動するためにはエネルギーが必要で、より高いエネルギーを与えれば速度は上がります。エネルギーには「位置エネルギー」「運動エネルギー」があります。

●位置エネルギー
物体が低いところから高いところに持ち上げられると「位置エネルギー」を持つことになります。位置エネルギーは「高さ」と「物体の質量」に比例して大きくなります。ボールを高い位置で離せば当然ながら位置エネルギーは高くなります。もうひとつ位置エネルギーを高める要素があります。それは「足」です。右投げ投手の場合、投球時に左足を高く上げると体の上部に質量が移動するので、位置エネルギーが向上します。では「背の高い投手」が必ず「背の低い投手」よりも球速が高いか?と言われると必ずしもそうではありません。足を上げるよりもクイックモーションの方が球速が上がる投手もいます。それは「位置エネルギー以外の要素」で球速を高めていると考えられます。

●運動エネルギー
位置エネルギー以外に投球速度を高めるのは「運動エネルギー」です。
捕手方向に向かう強い推進力が運動エネルギーとなって球速を生みます。この推進力は「腕の振りの速さ」だけではありません。「骨盤の移動」「骨盤の旋回」「背筋」「腕の振り」「手首」「指先」の動作を順番に、かつ効率的に行うことでボールに強い運動エネルギーが加わります。体格に恵まれなくても高い運動エネルギーを生むことができれば、球速を上げることは可能です。しかし小さい体で大きな運動エネルギーを生むことは体への負担も大きくなるので、「体が小さくてボールが速い投手」は大柄の投手以上に故障などに対する注意が必要です。

私は中学生くらいの場合は「運動エネルギーを効率よく産み出せる投球動作を身につける」程度に留めた方が良いと思います。ウエイトトレーニングなどによっても球速は上がりますが、ウエイトトレーニングは高校生になってからで良いと思います。

次回は「高い運動エネルギーを生み出す投球動作」について説明したいと思います。




*「ご用件」に「少年野球質問箱」と書いて、廣川さんに教えて欲しい悩みや疑問をお送りください。

「廣川さん」プロフィール

廣川寿(ひろかわ ひさし)1969年生まれ。愛媛県出身。全国約7,000人の野球指導者及び保護者から絶大な支持を得ているFacebookページ「少年野球指導者のひとり言」管理人。

【球歴】
えひめ西(現松山)、リトルリーグ、愛媛県立松山北高等学校、甲南大学(阪神大学野球連盟)、リクルート(社会人野球東京支部)

【受賞歴】
■リトルリーグ
-四国大会優勝

■高校野球
-愛媛県中予地区新人戦優勝
-秋季愛媛県大会準優勝(四国大会出場)
-第59回選抜高等学校野球大会出場

■大学野球
-阪神大学野球連盟2部リーグ最優秀投手賞
(→1部昇格)
-阪神大学野球連盟特別賞(3度)
 ・1試合最多奪三振記録樹立(18個/当時)
 ・通算最多奪三振記録樹立(351個/当時)
 ・通算最多登板記録樹立(57試合/当時)
-学生日本代表候補選手選出 など

【野球指導歴】
-学童野球コーチ
-中学硬式野球チームコーチ・監督
-その他高校・社会人野球臨時コーチなど多数。


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