ニュース 2018.12.29. 12:35

【少年野球質問箱】球速、球威がアップする練習、トレーニングを教えてください(後編)

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今回の質問・お悩み



「球速、球威がアップする練習、トレーニングを教えてください」

中学1年の息子が硬式野球をやっています。ピッチャーです。
あまり強くないチームですが現在3番手か4番手くらいです。

息子はコントロールはまずまず、スピードはそんなになく、変化球はあまり曲がってるとは思えないカーブを投げます。たまに登板する試合では結構打たれます。紅白戦でも結構打たれます。
監督やコーチからは「もう少し球速がないと」「もう少し球威が欲しい」などと言われています。

息子もそれらの課題を克服するために、平日はチームから課されている体幹トレとランニング以外にもシャドーを行なったり、たまに近所のチームメイトを相手に投球練習もしています(筋トレはチームで禁止されているのでやっていません)。

しかし、チームからは「監督、コーチが見ていないところでの一切の投球練習は禁止。シャドーも禁止」と言われてしまいました。理由は見てないところでピッチング練習をするとフォームを崩す恐れがあるからとのことです。それ自体には納得はできるのですが、土日しか行われない練習では1日50球という球数制限があり、満足に投げ込みを行うことができません。

体が未発達であったり、ピッチングフォームの崩れからくる故障など、息子の体と将来を危惧していただいているのはわかるのですが、同時に「エースになりたい!そのためにはもっと練習したい!もっと投げたい!」という息子の気持ちもわかります。

そもそもですが「球速アップ、球威アップ」のためには投げ込みは必要ないのでしょうか?
また、平日に行なえる練習で「球速アップ、球威アップ」につながる練習、トレーニングメニューにはどんなものがあるのでしょうか?


廣川さんの答え

ここまで1回目は球速が上がるメカニズム、2回目は「技術的なポイント」について説明してきました。今回はこれらを実現するためのトレーニングについて説明します。

質問者のご子息は中学1年生です。
ちょうど私が普段指導している選手と同じ歳頃ですね。
この年代の選手をトレーニング指導する時に私が最も重視していることは「スピードアップ」です。「スピード」と言っても「球の速さ」や「スイングスピード」ではなく「動きの速さ」です。

野球は傍目に見ているとゲームの動きが遅く、ゆったりした感じに見えますが、技術自体には瞬発力が求めらる競技です。助走なしでスタートして急激に停止して次の動作に切り替える。球を投げる時にはリリース時に力を集め、打撃の時にはインパクトに集中します。ここで「よいしょっ!」とゆっくり力を入れても大きな出力は出ないので、素早く動く事を重視します。

これはうちのチームでこの冬に取り組んでいるトレーニングです。
この冬は4種目のタイム向上を目標に取り組んでいます。

【1】27mシャトル走



図のように9m、18m、27m地点にラインを引いてシャトル走を行います。ポイントは「復路はバック走でスタート地点まで戻る」ということです。バック走はつま先で蹴らないとタイムが上がらないので、踵を浮かせて走ります。そのことで大腿筋とふくらはぎの筋肉が鍛えられます。そしてこの種目は「足が速い」よりも「順走→バック走の切り替え」と「バック走の速さ」でタイムが決まります。足の遅い子でも上記の動作が上手になれば意外と良いタイムを出します。

【2】9mシャトルステップ



図のように3m、6m、9m地点にラインを引きます。
これをサイドステップでシャトル走と同じ要領で行います。野球は「横の動き」が多いのも競技の特徴です。投手も投球初期の動作は「軸足から踏み出す足への体重移動」という横の動きから始まり、この動きが速ければ投球時に大きな力が上半身に伝達されます。これも「右→左」「左→右」の動作の切り替えの速さがタイムを決める重要なポイントです。体幹の弱い選手は上手く止まれないです。動きの速い内野手や球の速い投手は必ず良いタイムを出します。

【3】5mT字ステップ



「順走」「バック走」「サイドステップ」3つの動きを組み合わせた種目です。5mごとにめまぐるしく変わる動きを素早く切り替えながら行います。これも「動作の切り替えの速さ」「体重移動の上手さ」がタイムを決める重要な要素です。これも球速の速い投手は良いタイムを出します。
次々と切り替わる動作に備えて体の使い方を工夫することがスムースな投球動作を身につける上でとても役にたつと思います。

【4】5mサークル走×3周



直径5mの円を3周走ります。5mの円はなかなか急なのでトップスピードで走るとかなりの遠心力がかかります。それを体幹の力で円の中心方向に体を倒しながら走ることで体幹を鍛えます。ボールを投げる時にも下半身を回転させる時に遠心力がかかりますが、その時に体幹の弱い選手は体の軸がズレて球速が出なかったり、制球を乱すことがあります。安定した軸を作るためには体幹の力で遠心力を抑え込むことが必要です。これは投球だけでなく、走塁の練習にも役立ちます。


寒い時期なのでボールを使わない、下半身強化のトレーニングを中心に紹介しました。
中学生の時期には下半身の力を効果的に使って「腕力に頼らない投げ方」を身につけて欲しいです。特にクラブチーム出身の選手は中学時代の「休日のみ練習」から高校で「部活動で毎日練習」にサイクルが変わることで故障を発生するケースもよくあります。だからこそ「力に頼らない投球」に対する意識を強く持って欲しいと思います。




*「ご用件」に「少年野球質問箱」と書いて、廣川さんに教えて欲しい悩みや疑問をお送りください。

「廣川さん」プロフィール

廣川寿(ひろかわ ひさし)1969年生まれ。愛媛県出身。全国約7,000人の野球指導者及び保護者から絶大な支持を得ているFacebookページ「少年野球指導者のひとり言」管理人。

【球歴】
えひめ西(現松山)、リトルリーグ、愛媛県立松山北高等学校、甲南大学(阪神大学野球連盟)、リクルート(社会人野球東京支部)

【受賞歴】
■リトルリーグ
-四国大会優勝

■高校野球
-愛媛県中予地区新人戦優勝
-秋季愛媛県大会準優勝(四国大会出場)
-第59回選抜高等学校野球大会出場

■大学野球
-阪神大学野球連盟2部リーグ最優秀投手賞
(→1部昇格)
-阪神大学野球連盟特別賞(3度)
 ・1試合最多奪三振記録樹立(18個/当時)
 ・通算最多奪三振記録樹立(351個/当時)
 ・通算最多登板記録樹立(57試合/当時)
-学生日本代表候補選手選出 など

【野球指導歴】
-学童野球コーチ
-中学硬式野球チームコーチ・監督
-その他高校・社会人野球臨時コーチなど多数。(図1)


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