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「甲子園という病」の著者に聞く、野球界の問題点と改善案(前編)

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近年、様々なことが問題として取り沙汰されている高校野球。今年の選抜ではサイン盗み(伝達)が話題となり、大きな波紋を呼んだ。そこで長年高校野球の現場を取材し、多くの問題点を指摘した『甲子園という病』(新潮新書)を昨年出版したスポーツジャーナリストの氏原英明さんに、高校野球を中心に現在の野球界が抱える問題点、解決策などを聞いた。




――氏原さんが高校野球の問題点を感じられたきっかけがあれば教えていただけますか。
「色々あるのですが、一つ目は高校野球の取材をずっとしていて、知り合いになった監督から『今年1年生にいい選手が入ったから見に来てよ』ということがよくあったんです。実際に見に行くと確かにいい選手なんです。それで翌年の春になると『いい1年生が入ったから見に来てよ』とまた同じ監督が言うんです。当時は奈良にいたのですが、私立だけじゃなくて公立の学校でもそういうことがよくありました。そんなことが繰り返しあり、(去年)入ってきたときに良かった1年生はどこに行ったのか? と疑問を持つようになりました。結局、高校に入ってから伸びていないんです。もしくはピッチャーだと早くから投げさせ過ぎて故障させてしまっている。そういうケースが大半だったんです。それで高校野球の指導者はちゃんと指導できているのかな? と思ったことがきっかけですね」

――確かにどこでも良く聞くような話ですね。
「甲子園の現場では2008年夏の決勝戦、大阪桐蔭と常葉菊川の試合で常葉のエースだった戸狩投手(聡希)が肘を故障していたため、(本来そうではない)サイドスローにしながら投げていました。それを見て明らかにおかしいのに現場では誰も声をあげない。指導者もそれが悪いと思っていない。それで当時、決勝戦の記事を書いたのですが、最後の3行くらいに『この状況を変える何かが必要だ』と書いたんですね。でも他の媒体の担当者にその話をしたら、『そんなことを書いても高校野球は変わらないから無駄です。そんな時間があったらスーパースターになる選手を追いかけてください』と言われました。
翌年は花巻東の菊池雄星投手(シアトル・マリナーズ)が出てきたのですが、負けた試合のインタビューで『これで野球人生終わってもいい』と言っていました。それはダメだと思いましたね。でも編集の人が言うように当時の世の中はそういう風潮だったと思います。大きく変わったのは2013年春の済美高校の安楽(智大/東北楽天)投手ですよね。アメリカのメディアが異常だと叩いたことが大きかったと思います。それでやっと日本のメディアも動いたと思います」

――ここまでは高校生の話ですが、小中学生の現場も問題が多いと言われていますが、そちらについても当時から問題を感じられていましたか?
「先ほどの話と同じくらいの時期に堺ビッグボーイズという大阪のチームを取材させてもらいました。代表の瀬野竜之介さんからも中学年代から潰れている選手が多いという話は聞いていました。
(堺ビッグボーイズ出身の)筒香(嘉智/横浜DeNA)選手が高校3年の時の中学2年生が森友哉選手(埼玉西武)だったのですが、ちょうどその時に堺ビッグボーイズの方針がガラッと変わりました。それまで厳しくしていた方針を放任にして、子どもたちが自分で考えるようになりました。
その後、森選手は厳しい環境の大阪桐蔭に進学してドラフト1位でプロに入りますが、堺ビッグボーイズに所属した中学時代の過程があったことが良かったのではないでしょうか」

――問題は高校野球だけではなく、その前の段階にもあったと気づかれたわけですね。
「正直に言うと小中学生のことを知ったのは後からで、高校に取材に行っているうちに気づいた感じですね。高校の監督の話では、中学時代に既に故障していて、ピッチャーで入ってきたのに高校では1球も試合で投げられなかった子もいるそうです。そうなると高校以前の問題も大きいですよね」

――少しずつですが、世論が変わってきたな、というのはどういうところで感じられますか?
「僕に対する非難が減りましたね(笑)。安楽投手の同級生に立田(将太/北海道日本ハム)投手がいて、立田投手は連投しないような環境(大和広陵高校)を自ら選びました。そのため、安楽投手と比較され『甲子園には出たけれど勝ってないじゃないか』という声が多かったです。
夏に浦和学院の小島(和哉/千葉ロッテ)投手が熱中症でふらふらになりながら投げていることをSNSなんかで発信すると、(僕を)否定する声が多かったです。それが徐々にではありますけど、否定する声も減ってきたと思います」

――『甲子園という病』はそのような世論でようやく本になったというわけですね。
「最初はこういうテーマで本にしようと思っていたわけではなかったんです。夏の100回大会に向けて、履正社の安田(尚憲/ロッテ)選手や大阪桐蔭の根尾(昂/中日)選手みたいな勉強もしっかりしている凄い球児もいるというのが『NEWSPICKS』の連載の最初の記事でした。
そうして連載を進めていく中で、木更津総合の千葉(貴央・当時桐蔭横浜大)投手を取材した記事の反響が一番大きかったんですね。右肩を痛めたままマウンドに上がって100キロくらいのボールしか投げられなかった。彼のその後を取材した記事を書いたら、コメント数が凄かったんです。その後に松坂(大輔/中日)投手についての記事も出したのですが、千葉選手の記事の方が圧倒的に反響が多かったんです。その反応を見て、甲子園の問題点を本にした方がいいのではないかということになりました」

――潜在的に甲子園、高校野球がおかしいと思っている人は増えていたわけですね。
「そうだと思います。千葉選手のような、言ってみれば一般の人には無名の選手でも、こういうことになっている現実がある。そういう事実をもっと伝えていかないといけない。それで冒頭に言ったようなスーパー1年生だったり、早熟の選手の話だったりをまとめて、問題提起するような本にしようという路線になりました」

 

後編では問題点の根本にあるもの、そしてそれをどう変えていくべきかといった話をお届けします。(取材:西尾典文/写真:編集部)

 

氏原英明(うじはら ひであき)
スポーツジャーナリスト。1977年、ブラジル、サンパウロ生まれ。奈良新聞社勤務を経て2003年にフリーランスに。プロ野球、アマチュア野球幅広く取材し、高校野球の問題点を提起した『甲子園という病』(新潮新書)を2018年8月に上梓。菊地雄星(マリナーズ)についても長年取材を続けており、今年3月に発売になった『メジャーをかなえた 雄星ノート』(文藝春秋)の構成を担当した。
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