ニュース 2019.04.24. 17:30

「甲子園という病」の著者に聞く、野球界の問題点と改善案(後編)

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スポーツジャーナリストの氏原英明さんインタビューの後編。長年高校野球の現場を取材し、多くの問題点を指摘した『甲子園という病』(新潮新書)を昨年出版した氏原さんに、現在の野球界が抱える問題点、解決策などを聞いた。




――能力のある1年生が入ってきても伸びない、故障してしまう。そして甲子園での連投などが問題視されるようになりましたが、昨年の夏は金足農の吉田輝星投手(北海道日本ハム)が秋田大会、甲子園の決勝の途中まで一人で投げぬくということがまた起こりました。
「原因はやっぱり『その時に』勝ちたいからなのだと思います。監督の立場から言えば一番力のあるエースを出して負けたら批判はされないという思いもあるのではないでしょうか。しかし、指導者に信念があればそういう使い方はしないと思うのです。去年の吉田選手は地方大会でも甲子園でもあれだけ投げているのに、甲子園終了後に行われたU18日本代表でも『吉田で負けたら仕方ない』という使い方をされていたように思います。
甲子園の準々決勝の時も頭を抱えている記者もいました。明らかに使い方がおかしいのに世間は“金農フィーバー”で盛り上がっている。それに水を差せない空気になっていました。『なぜ一生懸命投げている選手を批判するのか?』という声も大きかったですからね」

――どうしても感動に水を差しづらい雰囲気はありますよね
「吉田の前に済美の山口(直哉)投手の件もありました。ずっと一人で投げてきて、延長で大逆転(タイブレークでの逆転サヨナラ満塁ホームラン)で勝ったから、みんなその感動を伝えようとして、なかなか山口選手の投げ過ぎについては触れないんですよ。現場でその話に触れた記者は僕ともう一人だけでした。だから済美がその後に山口選手の先発を回避した時は少し遅いと思いましたけど、あえて称える記事を書きました。変わってきたという話もありますけど、まだまだ変わっていない部分も多いですね」

――「選手本人が望んでいるから、完全燃焼させてやればいいんじゃないか!」「止める権利が大人にあるのか!」という意見もありますが?
「この滑り台を滑ったら絶対怪我する、というのが分かっていたら止めるじゃないですか? それと同じことです。これ以上投げたら潰れてしまうかもしれない。選手がそういう状況にあるのを止めるのが大人の役目です。そこで潰れてしまうのを黙認していたら、大人の存在価値って何なのか? という話だと思います」

――指導者はどうしても中学3年間、高校3年間で「全国大会に出る!」「優勝する!」といった短期目標は子どもたちに示しますが、その先の長期目標を示せているケースは少ないように思います。
「甲子園を最終的なゴールにしていることが間違いだと思います。もちろん目標の一つであることは確かだと思いますが、もっと先のこと、将来的にやりたいこと、そのための一つとして甲子園があるという風に大人が示してあげるべきだと思います。甲子園を否定しているわけではありません。そこに出たことが自信にもなりますし、上手くいかなかったこと、目指したけど行けなかったことも財産になります。ただそれが全てになってしまうことがいけないと思います」

――小中学生のチームを取材しても、「高校野球で活躍できるように」という話があっても、その先まで考えているというのはなかなかないですよね。見ているこちらからすると、大学でも続けないのはもったいないと感じることも多いです。
「本当にそう思います。その子に才能がないって、誰がどの段階で決めるのか? という話です。あまり勉強していない指導者や周囲の大人が勝手に決め過ぎだと思います。この子は大学では続けないから潰れてもいいなんて虐待ですよね。もともと運動は健康のためというのが本来の目的じゃないですか。それが、先で続けないから潰れて選手生命が終わってもいいというのは本末転倒だと思います」

――ここまでは問題点を色々と伺いましたが、氏原さんが考えるここをもっとこうした方が良いのでは? という改善案も教えてください。
「まず甲子園の影響力が一番大きいのでそこが変わらないと他も変わらないと思います。甲子園で3連投、4連投しないといけないからそのためにそういう練習をしよう、という話になるじゃないですか。だから高野連、関係者は甲子園の影響力がいかに大きいかということをまず考えるべきだと思いますね」

――具体的にはどんな点を改めると良いとお考えですか?
「高校野球の指導者って甲子園に出たか? 甲子園で何勝したか? だけで評価されるじゃないですか。それはおかしいですよね。サッカーでは選手が移籍した時の移籍金が直前に所属していたクラブだけでなく、その前に所属していたアマチュアチームまで還元される仕組みがあります。野球でいえば大谷翔平(エンゼルス)のポスティングのお金が日本ハムだけじゃなくて花巻東や中学のチーム、岩手県の連盟まで配分されるイメージですね。一つの例ですけど、そうなればもっと将来のことを考えるチーム、指導者が増えてくると思います」

――試合や大会の運営方法などについてはいかがでしょう?
「まず中高生に負けたら終わりのトーナメントの試合ばかりというのが辛いと思います。そうなるとどうしてもその時に勝てる選手で戦おうとするじゃないですか。それがリーグ戦であれば色んな選手で戦えるようになります。
あとサッカー関係者に、リーグ戦の良さについて聞いたことがあるのですが、トップレベルの強化というよりも、例えば8部とか下のレベルでも勝つことで成功体験を得られるというのが大きいと話していました。そういうことでまたサッカーが好きになる子が増える。野球もそうすることで、先を考えられる子が増えていくのではないでしょうか。最後の夏はトーナメントでいいと思いますが、秋と春にリーグ戦をやれば、もっとピッチャーを試すことができて、安楽や去年の吉田のような、連投や投げすぎはなくなると思います」

――最近よく言われる「勝利至上主義」についても色んな考え方があるようですけど、氏原さんの考えを聞かせてください。
「試合をして勝つことを目指すというのは当然のことです。勝利を目指すこと、そのこと自体は勝利至上主義ではないですよね。勝利至上主義というのは、『勝つこと以外に価値を見つけない』ことだと思います。勝つためには選手を潰してもいい、勝つためにはサイン盗みをしてもいい、勝つためには相手を怪我させてもいい、それが勝利至上主義だと思います。試合は『試し合い』ですから、負けることから得られることも多いはずですけど、勝利至上主義はそれを認めないことですよね。先ほどの話になりますけど、トーナメントばかりだとやはりそのような考え方になりがちなのかなと思います」

――最後にヤキュイク世代の小中学生、またその保護者や指導者の方にぜひこうしてもらいたいというメッセージがあればお願いします。
「まず指導者や保護者の方は、子どもが楽しそうに野球をやっているか、ということを一番の基準にしてもらいたいですね。勝った時ももちろん嬉しいと思いますが、嫌な顔をしながらやっている子どもを見たら嬉しくないんじゃないかなと。選手に対しては、もっと自分の人生を考えてほしいです。自分の意見を持って、将来像を描けている高校球児はまだまだ少ないと思います。投げさせ過ぎという話がありますけど、これからは選手自身がこれ以上投げたらダメだと自分で言えるようになってもらいたいです。そのためには指導者から言われたことをやらされるだけではなく、自分でしっかり勉強をして、自分で考えて成長できるようになってもらいたいですね。それが将来の人生のためだと思います」

そういう選手が当たり前の野球界になってもらいたいですね。貴重なお話、ありがとうございました!

(取材:西尾典文/写真:編集部)

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