ニュース

「エンジョイ・ベースボール」の慶應義塾高校元監督に球数制限について聞いてみた(後編)

無断転載禁止
上田誠氏は、慶應義塾高校の硬式野球部監督として、2005年春、2008年春、夏、2009年春にチームを甲子園に導き、2度準々決勝まで進出させた。チームを強くしただけでなく、現代に即した新しい高校野球のあり方を模索した指導者としても知られる。指導者としての考え方は「エンジョイ・ベースボール(NHK出版)」という著書となり、広く読まれている。「球数制限」に対する考え方と、高校野球のあるべき姿について聞いた。




■「転校する」という選択肢も


「球数制限」を導入したら優秀な選手が集まる私立が有利になって、選手がいない公立が不利になるといいます。私立の選手が公立へ転校できるようにするのも一つの方策ではないかと思います。
今の高野連のルールでは、転校した子は1年間、公式戦に出られませんが、それを取っ払って学校間の移動を自由にするのも考える余地があると思います。もちろん高野連だけでなく文科省や教育委員会のリードが必要ですが。日本はその辺のルールがものすごく厳格すぎて、例えばその学校に合わない子は(例えばいじめなどで)転校という作業が大変困難です。部員が多くて出場機会のない選手が学校間を移動するのも日本のスポーツ界に求められている事かもしれません。それを公立高校でも行ってみるのも一つの手だと思います。スタンドで「チームの為に」と応援を続けるだけがいいとは思いません。

アメリカではトランスファーといって、簡単に転校をします。元の学校の指導者が「お前、この学校じゃ才能が活かせないから転校しろ」という。転校した子が次の日には違うユニフォームで投げているのもよく見られる光景です。



■問題は「高校野球の文化」


「球数制限」をしたら、「待球作戦」をする学校が出てくるということをいう人もいます。
確かに打者には、追い込まれたら、2ストライクアプローチで変化球に振らされないようにポイント設定をぐっと近くにして、右打者なら一塁側のベンチに打つようにしろと指示をします。しかしそれは、好球を待つための作戦です。
それに、皆が指示通りに思うようにできるわけではありません。できるのはバットコントロールがよくて何でもできる連中です。高校生がみんな「待球作戦」ができるなんてことはありません。しかし何よりもそのような指導をする指導者は子供に本当の教育ができるのでしょうか? 普段はきれいごとを言って「挨拶」だとか「礼儀」を重視し「うちは人間教育が第一です」と言っているのに一番大事な「スポーツマンシップ」を忘れているのではないでしょうか。
「球数制限」がある国際大会で、日本のチームが「待球作戦」をすることがあります。日米大学野球でも見られますが、アメリカの指導者は「日本のような野球はおかしい」と言ってきます。スポーツマンシップに反するから、そういう野球はやめましょうとなぜ強く皆が言えないかが不思議です。

今年の春の選抜では「サイン盗み」も問題になりました。指導者の中には「それが作戦だ、頭を使うベースボールだ」という人もいますが、世界の野球の常識から考えればやってはいけないこともたくさんあります。
前述したように、東京六大学ではサイン盗みはありません。そういう伝統なのだと思います。高校時代にそういう野球をしていた選手も大学に入ればそういう野球はしなくなる。
投球過多を考えると、私は慶應義塾大学野球部のコーチもしていますが、今年の2月、3月の試合を見るとどこの大学も、投手の登板間隔を空けている上に、5回は投げないですね。どんな優秀な投手でも3月半ばで5回投げたら「よく投げさせるなあ」という感じなんです。
それを見てから、甲子園のセンバツ高校野球を見ると、延長戦で130球を高校生が一人で投げている。これは明らかに異常ですよね。
問題は「高校野球の文化」なんですね。つまり、高校野球が良しとしている事を見直さなければならないと思います。
ツイート シェア 送る

もっと読む

連載・コラム
カラダづくり
練習
お役立ち
チーム紹介
TOPICS