ニュース 2019.10.11. 17:06

球児のためになっている? 日本の金属バットの品質を考える

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■日本で開発された金属バット


金属バットとは、アルミニウム合金のパイプを成型して作るバットだ。アメリカでも金属バットは開発が進んでいたが、世界で初めて金属バットの実用化に成功したのは日本だ。電気工学者、工学博士でのち芝浦工大学長になった大本修(1925ー2008)が1960年代に開発したとされている(異説もある)。

当時、日本では高校野球ブームが到来し、全国の高校に野球部が創設された。木製バットは高価なうえに折れやすく、部費が乏しい野球部にとっては悩みの種になっていた。

そこで、大本は耐用性に優れた金属製のバットの開発に着手した。大本は電気工学者だったが、大の野球ファンで、木製バットの反発係数の測定なども行っていた。金属バットを丈夫で木製とあまり差がない使用感にするために、様々な素材が試されたが、アルミニウムに銅と亜鉛、マグネシウムなどを加えた合金が最も良いとされ、この素材が金属バットに使用されるようになった。大本修はこの功績で2012年に野球殿堂入りしている。

金属バットはこのアルミニウム合金のパイプの内側を削って厚みを調整する。パイプの厚みは均一ではなく、ボールが当たる部分は厚く、グリップ部分は薄くなるように削られる。そののちにバットの寸法にカットされ、本体の成型加工を行い、ヘッド部分の加工、焼き入れ(熱処理による強度の調整、普通は2回)、グリップエンドの溶接という工程で製造される。

■高校野球を一変させた金属バット


金属バットを硬式野球の公式戦に使用するのは時期尚早という見方があったが、日本の高校野球では1974年の夏の甲子園から正式採用された。ただしこの時点で公認されたのは、アメリカ、イーストン社製の金属バットだけだった。

この大会では、篠塚利夫(銚子商のち巨人)が2本本塁打を打つなど、11本塁打が飛び出したが、前年も10本塁打だから大きな変化はなかった。まだ木製バットを使う高校の方が多く、影響は限定的だったのだ。

しかし1979年の夏の甲子園では大会新の27本塁打。香川伸之(浪商のち南海・ダイエー)など強打者の登場もあったが、金属バットの普及とともに本塁打数は確実に増えていった。

さらに1982年夏には徳島代表、池田高校が金属バットの特性を活かした「やまびこ打線」で優勝。大会通算では32本塁打。このころから金属バットによる本塁打は急増した。

金属バットで最初に問題になったのは、打球音だ。甲高い金属音を連続的に聞くことになる捕手や審判の聴覚障害の危険性が指摘され、1991年には甲高い音が出ない消音バットが導入されている。

金属バットの方が打球が伸びるといわれるのは、素材の差もあるが、それ以上に金属バットの方が素材の密度が均質で、木製よりも「スイートスポット」が大きいからだとされる。このために、金属バットの導入以後、ミートを心がける打者よりも振り回す打者が多くなったとも言われている。

当初はイーストンなどアメリカ製のバットが主流だったが、21世紀にはいるとミズノなど国産メーカーのバットが多く使用されるようになる。研磨技術や、振りやすさを追求した形状設計などによって、日本製バットが高校野球界の主流になった。

■アメリカで金属バットの規制が進む


1990年代後半、アメリカでは金属バットの打球による事故が相次いだことから、アマチュア野球でも金属バットの品質が見直されるようになる。そしてBESR(Ball Exit Speed Ratio)という品質基準が設けられた。このため、アメリカの金属バットメーカーは製造を縮小するようになる。イーストンはもともと金属バットの専業メーカーだったが、1999年から木製バットの製造も開始している。

日本の高校野球では金属バットによる打球速度を抑制するために、2001年には金属バットの重さを900gにする規制をかけた。しかし、大会での本塁打数は増加し続け2017年の夏の大会では68本もの本塁打が飛び出している。

アメリカでは従来の金属バットの使用規制が進み、2012年からはBESRに代わってBBCOR(Batted Ball Coefficient of Restitution)という新しい基準が打ち出された。これは、金属バットの反発係数を木製バットと同等にするという厳しいもので、アメリカの金属バットメーカーは再び大打撃を受けたが、従来のバット素材の再利用を行うことで、この危機を切り抜けた。

現在ではアメリカでBBCOR仕様以外の金属バットを製造しているメーカーはない。ミズノもアメリカではBBCOR仕様のバットを製造販売している。

アメリカでは金属バットの打球速度の規制が進んでいたが、日本では軟式野球でウレタン素材を使用した飛距離が伸びるバットが開発されるなど、真逆の方向での進化が見られた。
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