ニュース 2019.11.12. 14:02

いまさら聞けない「子どもにとってバランスのよい食事とは?」飽食時代の栄養不足に注意!

無断転載禁止

※サカイクより転載



多くのトップアスリートが、日々のトレーニングと同じくらい毎日の食事に気を遣っていることが広く知られるようになりました。サカイクでも、食事と栄養はとても重要なテーマと考えていて、これまでも「健康と食育」というテーマでたくさんの記事を配信しています。

子どもたちの食事が大切!と聞いて、「そんなのどうでもいい」という人はいないと思います。でも、具体的に何をどう食べたらいいのか? 毎回の食事で何に気をつけたらいいのかを答えられる人は少ないのではないでしょうか?

「何となくわかっているけど詳しい話は難しそう」
「気をつけたいと思っているけど、毎日は無理」

そんな声にお答えして、食事や栄養のこれだけはおさえておきたい基本のキをわかりやすく、みなさんの身近にある疑問やお悩みにできるだけ寄り添ってお届けしようと思います。

今回お話しいただくのは、栄養学や食育の専門家で、ご自身もサッカーキッズを育てた経験を持つ柳生百々子さん。サッカーをプレーする子どもを持つお父さんお母さんなら、だれもが気になる食事と栄養についてお聞きしました。

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足りているのに足りていない? 飽食の時代に栄養不足


「いま、子どもたちの栄養が足りていない」

もし、こんな話を聞いたらどう思うでしょう? 子どもたちの肥満、メタボ、かつては"成人病"と呼ばれていた生活習慣病にかかる子どもさえいると言われる飽食の時代に、栄養が足りていないなんてあり得ないと思いますよね。でもこれ、どうやらわたしたちが考えるより深刻な問題のようです。

「こんなに豊かな世の中ですが、子どもたちに栄養が足りていないというのは本当なんです」

食事と栄養について話をする大前提として柳生さんが教えてくれたのは、わたしたちの多くが誤解しているカロリーと栄養素の関係でした。

「お腹がいっぱいになることと、十分な栄養が身体に行き渡ることは違います。お腹がいっぱいになれば、カロリーは十分に足りていると言えるかもしれません。でも、栄養が足りているかというと、それはまったく別の話です」

ダイエットや健康食品ブームの影響か、"カロリー"という言葉はずいぶん身近なものになりました。カロリーとはわたしたちが身体を動かすために必要な熱量のこと。エネルギーの元です。栄養素とは、タンパク質・脂質・炭水化物の三大栄養素や、ビタミン、ミネラル、食物繊維などのこと。

食事の量が十分でカロリーは足りていても、食事に含まれる栄養素が乏しいため、身体をつくり機能させるための栄養が不足しているということもあり得るわけです。

カロリーと栄養素は別モノ


「食事のことを考えるときに、まず心がけることは"カロリーと栄養を分けて考えること"です」

柳生さんによれば、このことが食事と栄養を考える上でもっとも簡単で、とても重要な考えかたになると言います。

「カロリーばかり摂りすぎて肥満になっていても、必要な栄養素が不足している。そんな子どもが増えているんです。極端な例ですが、こんな献立を想像してください。朝食は子どもの喜ぶ菓子パンと糖分いっぱいのジュース。昼食はインスタントラーメンやハンバーガー、おやつはスナック菓子。これでは栄養バランスがとれないことは、一目瞭然ですよね。子どもたちに必要なビタミンやミネラルは見当たりません」

カロリー過多なのに栄養不足。最近お腹や二の腕のお肉が気になってきたというお母さんや下っ腹のせいでベルトの穴をずらしたというお父さんもドキッとするフレーズですよね。カロリー制限中心のダイエットは、食事の全体量が減り、ただでさえ足りていない栄養素がさらに不足することに繋がります。これは大人にとってもすごく危険なことなんです。

「大げさに驚かせたり、ある側面だけを取り上げて不安を煽るつもりはありませんが、食事の量と質を考えるときに、『いまの時代は、食べ過ぎ、摂り過ぎなことはあっても、足りない、栄養失調なんてあり得ない』という先入観は持たないほうがいいと思います」

カロリーではなく、栄養素を中心に考える大切さについてはわかっていただけでしょうか。では、柳生さんの考える"子どもたちにとってよい食事"とはどんなものなのでしょう。


栄養素が関係しあって働くことは意外と知られていない


「食事に対してかけられる時間は人によってさまざまだと思います。手間をかけて気合いの入った手作り料理をつくる人もいれば、共働きのため毎回手作りの料理というわけには行かない人、どちらかというと料理が苦手で出来合いのものの割合が多い人。いつも同じおかずになってしまう人。いろいろな人がいると思います」

「手間暇をかけた手作りの料理が毎食できたら苦労しないでしょ」と思ったそこのあなた、柳生さんは「時間や手間をかけた手作りの料理が子どもたちにとって必ずしもいい料理とは言えない」と言います。十分な知識がある場合は、食材の持つ栄養素などのバランスを理解して材料やメニューを選べるというメリットがありますが、せっかく時間をかけてつくった料理も、栄養素のバランスが取れていなければ、その食事から得られる栄養は十分ではないというのです。もちろん、お母さんの手作りのご飯を家族みんなで食べることはとてもいいことなので、その点は誤解しないでくださいね。

栄養素のバランスと聞いて、みなさんはどんなことを思い浮かべるでしょうか? 食事について"バランス良く"というのは、ずいぶん昔から強調されてきたことですが、柳生さんは、栄養素を摂取する際にバランスが必要な理由をこう説明します。

「食事に関する情報を見ていると、○○にはこんな栄養素が効きます。これを摂れば食生活が改善しますという対処療法的なものが多いですよね。でも、栄養素ってなにかひとつだけを摂ればいいというものではないのです。ちょうどサッカーみたいなもので、チームワークで働くものなんです」

栄養素は単体で摂っても意味がない!? これはちょっと驚きの事実です。専門的に言うと、こうした研究はパントテン酸や葉酸を発見したロジャー・ウィリアムス博士が提唱した"生命の鎖"という考えかたに基づいています。

「人間の細胞を健全に代謝させるためには、40数種類の栄養素をチームとして働かせる必要がある」

ウィリアムス博士の理論を簡単に説明すると、「バランスよく取るとよい働きが期待できる」ということではなく「ひとつでも足りないものがあるとうまく機能しない」ということなのです。

バランス良く栄養を摂ることの本当の意味


「ビタミンCやビタミンB1、カルシウム、亜鉛、葉酸......、これら一つひとつの栄養素が、鎖をつくっている小さな輪だと考えてください。この一つひとつの輪がつながって、生命を守る鎖になります。栄養素がしっかりとつながった生命の鎖は、ネックレスのように"環"になって、私たちの健康を守っています。でも、その中のどれか一つでも、弱かったり欠乏すると鎖は切れてしまいます。ですから、どれも同じ強さでなければ元気な体にはなりません。バランスのとれた毎日の食事が、"生命の鎖"を太く強くしなやかにするのです」

柳生さんはさらに続けます。



「縦長の板を組み合わせた"桶"を思い浮かべてみてください。この桶の板が一枚でも短かったらどうなるでしょう? 水を張ろうとしても、短い板の部分から水がこぼれてきますよね。一枚一枚の板を栄養素と考えてみてください。栄養素もどれかひとつが足りていないと、そこまでしか栄養を摂ることができなくなるのです」

ビタミンなしではミネラルが働かず、ミネラルなしではビタミンが働かない。特定の栄養素がたくさん含まれた食事でも、足りていない栄養素がひとつでもあれば、それに足を引っ張られるようにして、効果が低下してしまうのです。

栄養素がそれぞれ相互に関係しあって働くことは意外と知られていません。栄養という視点から見ると、これまでの食事と栄養に関する常識が少しずつ変わっていきます。

今回はイントロダクションとして、カロリーと栄養素の違い、バランス良く栄養を摂ることの本当の意味を教えてもらいました。次回はもう少し具体的に効果的な栄養素の摂取のメカニズムや、普段の生活に役立つ栄養の知識をご紹介します。

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監修:柳生百々子
食育インストラクター・健康管理士一般指導員。
自身もサッカーキッズを育てた経験を持つ。二人の子どもを育てる中で食育に目覚め、健康管理士の資格を取得。文部科学省が推進する「早寝早起き朝ごはん」の活動にも参加。小学校や中学校などで生徒向け・保護者向けの食育勉強会を多数行ってきた。
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