話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、7月12日の巨人-ヤクルト戦で、勝敗を左右した巨人・パーラ選手による「守備妨害」をめぐるエピソードを取り上げる。
新型コロナウイルス感染防止のため、無観客試合が続いていたプロ野球ですが「上限5000人まで」という限定付きで、観客がまたスタンドに戻って来ました。解禁初日の7月10日は、開催5試合のうち、何と3試合でサヨナラホームランが飛び出すというドラマティックな展開に。
試合後、選手たちが口を揃えたのは「お客さんがいると、やはり雰囲気が全然違う」。飛沫感染防止のため、試合中に観客が大声を出すことは禁止されていますが、好打やナイスプレーには自然と拍手が起こりますし、選手も張り合いがあるというものです。
ただし、「ちょっと張り切り過ぎたかも?」というプレーが飛び出したのが、12日、ほっともっとフィールド神戸で行われた巨人-ヤクルト戦です。首位・巨人は、雨天中止を挟んで3連敗中。かたやヤクルトは3連勝中で、首位に半ゲーム差の2位に浮上。この試合に勝てば、巨人に代わって単独首位、という状況でした。
2-3と、巨人1点ビハインドで迎えた6回ウラ、巨人は1死一・三塁のチャンスをつくります。バッター・炭谷は、三遊間深めのゴロ。ヤクルトの遊撃手・エスコバーは、6-4-3の併殺を狙って二塁へ送球し、一塁走者・パーラはアウトになりました。ところが……二塁手・山田哲人は、滑り込んで来たパーラと激しく交錯。山田はボールを持ったまま転倒し一塁に送球できず、その間に三塁走者・亀井がホームイン。併殺崩れで同点……のはずでした。
しかし、ヤクルト・高津監督がパーラのスライディングについて「守備妨害ではないか?」とリクエストを要求。審判団がリプレー検証した結果「併殺崩しを狙った、危険なスライディングだった」と判断され、「守備妨害」を取られたのです。この場合、パーラだけでなく、打者走者の炭谷もアウトとなりますので、ダブルプレーでチェンジ。同時に、亀井のホームインも取り消され、この回、巨人は無得点となったのです。
結局、試合はヤクルトがそのまま継投で逃げ切り4連勝。半ゲーム差で首位に立ちました。対照的に巨人は開幕以来、維持していた首位の座を陥落。結果的にこの守備妨害は、巨人にとって非常に高く付きました。
もしパーラが普通に滑りこんでいたら、山田が一塁へ投げても間に合わないタイミングでしたし、併殺崩れで同点となっていたでしょう。味方の得点をアシストしようという走塁がラフプレーと見なされ、逆にアダとなってしまいました。
ところでこの場面、中継を観ていたファンから「守備妨害にならないのでは?」という意見がツイッターに数多く寄せられました。「パーラはベースに向かって真っ直ぐスライディングしており、走路を変えていない。山田と交錯したのは不可抗力であり、足を狙って故意に送球を妨げたわけではないから、得点は認めるべきだ」というもので、一時「守備妨害」というワードがトレンド入りしたほどです。
筆者もあらためて、リプレーで確認してみました。一塁方向からの映像だと、山田はパーラのスライディングで転倒したように見えますが、外野方向からの映像をよく見ると「山田はパーラとの交錯を予測し、避けようとジャンプ。そのまま送球を試みたが、避けきれずに転倒した」ように見えます。
この動きは審判団もリプレー検証の際に確認できたでしょうし、ならば不可抗力のはずですが、なぜ「守備妨害」になったのでしょうか? リプレー検証が終わった直後、審判による場内への説明アナウンスはこうでした。
「パーラ選手のスライディングに対し、“ボナファイド”を適用します。バッターランナーの炭谷選手もアウトです。パーラ選手には警告を与えます」
「ボナファイド」という聞き慣れない言葉が出て来ましたが、試合後、このプレーの責任審判である丹波塁審から、報道陣に向けてあらためて説明がありました。
「(守備妨害の判定は)“ボナファイド”のガイドラインに沿ったものです。ベースに向けてスライディングをしていますが、近くから行って、勢いをつけてベースを越えていますので」
さきほどから再三出て来るこの「ボナファイド」という言葉、野球規則に出て来る用語で、正確には「bona fide slide」。訳すと「正しいスライディング」という意味です。守備側が併殺を成立させようとする際、ランナーは野球規則が定める「ボナファイド」のガイドラインに沿って走塁を行わないと、守備妨害を取られてしまうのです。
では、守備妨害にならない「正しいスライディング」とは、どういうスライディングなのでしょうか? 最新版の「公認野球規則」を参照すると、6.01「妨害・オブストラクション・本塁での衝突プレイ」の(j)「併殺を試みる塁へのスライディング」の項に、こう記されています。
(1)ベースに到達する前からスライディングを始め(先に地面に触れる)、
(2)手や足でベースに到達しようとし、
(3)スライディング終了後は(本塁を除き)ベース上にとどまろうとし、
(4)野手に接触しようとして走路を変更することなく、ベースに達するように滑り込む。
……この4条件をすべて満たしていれば、ランナーは「そのスライディングで野手に接触したとしても、本条によりインターフェア(=守備妨害)とはならない」とあります。
もう1度映像を見てみると、パーラ選手は二塁に滑り込む際、勢い余って二塁ベースを乗り越えています。つまり(1)(2)(4)の条件はクリアしていますが、(3)の「ベース上にとどまろうとし」が満たせず、守備妨害を取られてしまったわけです。これは故意か不可抗力かは関係ありません。野球のルールは厳格なのです。
試合後、「パーラも悪気はないけれど、ベースを越えて行った。今後、そのことは当然注意する」と渋い顔で語った原監督。野球はルールが複雑だと言われますが、こういう“事件”があるたびにルールブックを参照してみると、さらに野球が面白くなります。「公認野球規則」は毎年、最新版が市販されていますので、1冊お手元に備えてみてはいかがでしょうか?
新型コロナウイルス感染防止のため、無観客試合が続いていたプロ野球ですが「上限5000人まで」という限定付きで、観客がまたスタンドに戻って来ました。解禁初日の7月10日は、開催5試合のうち、何と3試合でサヨナラホームランが飛び出すというドラマティックな展開に。
試合後、選手たちが口を揃えたのは「お客さんがいると、やはり雰囲気が全然違う」。飛沫感染防止のため、試合中に観客が大声を出すことは禁止されていますが、好打やナイスプレーには自然と拍手が起こりますし、選手も張り合いがあるというものです。
ただし、「ちょっと張り切り過ぎたかも?」というプレーが飛び出したのが、12日、ほっともっとフィールド神戸で行われた巨人-ヤクルト戦です。首位・巨人は、雨天中止を挟んで3連敗中。かたやヤクルトは3連勝中で、首位に半ゲーム差の2位に浮上。この試合に勝てば、巨人に代わって単独首位、という状況でした。
2-3と、巨人1点ビハインドで迎えた6回ウラ、巨人は1死一・三塁のチャンスをつくります。バッター・炭谷は、三遊間深めのゴロ。ヤクルトの遊撃手・エスコバーは、6-4-3の併殺を狙って二塁へ送球し、一塁走者・パーラはアウトになりました。ところが……二塁手・山田哲人は、滑り込んで来たパーラと激しく交錯。山田はボールを持ったまま転倒し一塁に送球できず、その間に三塁走者・亀井がホームイン。併殺崩れで同点……のはずでした。
しかし、ヤクルト・高津監督がパーラのスライディングについて「守備妨害ではないか?」とリクエストを要求。審判団がリプレー検証した結果「併殺崩しを狙った、危険なスライディングだった」と判断され、「守備妨害」を取られたのです。この場合、パーラだけでなく、打者走者の炭谷もアウトとなりますので、ダブルプレーでチェンジ。同時に、亀井のホームインも取り消され、この回、巨人は無得点となったのです。
結局、試合はヤクルトがそのまま継投で逃げ切り4連勝。半ゲーム差で首位に立ちました。対照的に巨人は開幕以来、維持していた首位の座を陥落。結果的にこの守備妨害は、巨人にとって非常に高く付きました。
もしパーラが普通に滑りこんでいたら、山田が一塁へ投げても間に合わないタイミングでしたし、併殺崩れで同点となっていたでしょう。味方の得点をアシストしようという走塁がラフプレーと見なされ、逆にアダとなってしまいました。
ところでこの場面、中継を観ていたファンから「守備妨害にならないのでは?」という意見がツイッターに数多く寄せられました。「パーラはベースに向かって真っ直ぐスライディングしており、走路を変えていない。山田と交錯したのは不可抗力であり、足を狙って故意に送球を妨げたわけではないから、得点は認めるべきだ」というもので、一時「守備妨害」というワードがトレンド入りしたほどです。
筆者もあらためて、リプレーで確認してみました。一塁方向からの映像だと、山田はパーラのスライディングで転倒したように見えますが、外野方向からの映像をよく見ると「山田はパーラとの交錯を予測し、避けようとジャンプ。そのまま送球を試みたが、避けきれずに転倒した」ように見えます。
この動きは審判団もリプレー検証の際に確認できたでしょうし、ならば不可抗力のはずですが、なぜ「守備妨害」になったのでしょうか? リプレー検証が終わった直後、審判による場内への説明アナウンスはこうでした。
「パーラ選手のスライディングに対し、“ボナファイド”を適用します。バッターランナーの炭谷選手もアウトです。パーラ選手には警告を与えます」
「ボナファイド」という聞き慣れない言葉が出て来ましたが、試合後、このプレーの責任審判である丹波塁審から、報道陣に向けてあらためて説明がありました。
「(守備妨害の判定は)“ボナファイド”のガイドラインに沿ったものです。ベースに向けてスライディングをしていますが、近くから行って、勢いをつけてベースを越えていますので」
さきほどから再三出て来るこの「ボナファイド」という言葉、野球規則に出て来る用語で、正確には「bona fide slide」。訳すと「正しいスライディング」という意味です。守備側が併殺を成立させようとする際、ランナーは野球規則が定める「ボナファイド」のガイドラインに沿って走塁を行わないと、守備妨害を取られてしまうのです。
では、守備妨害にならない「正しいスライディング」とは、どういうスライディングなのでしょうか? 最新版の「公認野球規則」を参照すると、6.01「妨害・オブストラクション・本塁での衝突プレイ」の(j)「併殺を試みる塁へのスライディング」の項に、こう記されています。
(1)ベースに到達する前からスライディングを始め(先に地面に触れる)、
(2)手や足でベースに到達しようとし、
(3)スライディング終了後は(本塁を除き)ベース上にとどまろうとし、
(4)野手に接触しようとして走路を変更することなく、ベースに達するように滑り込む。
……この4条件をすべて満たしていれば、ランナーは「そのスライディングで野手に接触したとしても、本条によりインターフェア(=守備妨害)とはならない」とあります。
もう1度映像を見てみると、パーラ選手は二塁に滑り込む際、勢い余って二塁ベースを乗り越えています。つまり(1)(2)(4)の条件はクリアしていますが、(3)の「ベース上にとどまろうとし」が満たせず、守備妨害を取られてしまったわけです。これは故意か不可抗力かは関係ありません。野球のルールは厳格なのです。
試合後、「パーラも悪気はないけれど、ベースを越えて行った。今後、そのことは当然注意する」と渋い顔で語った原監督。野球はルールが複雑だと言われますが、こういう“事件”があるたびにルールブックを参照してみると、さらに野球が面白くなります。「公認野球規則」は毎年、最新版が市販されていますので、1冊お手元に備えてみてはいかがでしょうか?