僕もマツダさんに問いかけられたんですね。「20年後、どうなっていたい?」って。そう質問された時、すぐには答えが出てきませんでした。20年後の自分の姿なんて「考えたこと」がなかったんです。自分自身のことなのに、どうして考えたことがないのだろう?と不思議な感覚でした。
最初はそうした質問に答えることも嫌だったんです。
指導はじめの頃にも子どもたちに聞かれたことに対して、「わからない」と答えることが怖かった時期がありました。「こいつは何も知らない」と思われるのではないかと。自分にコンプレックスというか、自分ってしょうもないなぁと感じることも多かったんです。
ただ、次第に「もっと自分のことを知りたい」「自分の知らない自分」を発見することが楽しくなってきていて、20年後どうしてる?と聞かれてそれについて考えて…を繰り返して。そうしていくうちに自分の中で思考と行動に変化が起きてきたことを実感しました。
例えばまだ10歳の子どもたちに「30年後」と言っても想像しづらいかもしれません。ですので、例えば近い大会の未来について想像する時間を作ります。2人1組になって、「インタビュー役」と「答える役」にわかれるんです。
ルールが3つあって、1つは「すでに起こったこととして答える」2つめは「インタビューに0.2秒で答える」3つめは「最高にうまくいっている自分になって答える」です。
「この大会が終わったときをイメージして(子ども同士で)質問し合ってね」と子どもたちに促すんです。そうすると「今どんな気持ちですか?」とか、ヒーローインタビューっぽく、子どもたちに勝手に質問してもらうんです。その中で「最高の姿」を聞くと、子どもたちは「優勝しました!」って言うんですよ。
でも、普段の練習などのやりとりの中で、監督に「目標どうするんだ」と言われると、その「最高の姿」のことは子どもたちは言えないんですよね。それは監督に「一度も勝ったことないのに、よく全国優勝とか言えるな」「身の程わきまえろよ」と言われちゃう現実があるからなんです。「目標は?って言われたから言っただけなのに・・・」と、これではせっかくの子どもたちの純粋な願いが消えてしまいます。
その子どもたちの純粋な「優勝したい」というモチベーションがある時に、僕たち大人ができることというのは、「そこに辿りつくまでにどうする?」といった実現するための行動を一緒に考えることです。
例えば、「優勝するためには、前回チャンピオンチームに勝って、隣の強豪チームにも勝たなきゃいけない。ちょっと大変かもしれないけれど、でも勝つためにはどうしよう?優勝チームの練習見に行ってみる?」と聞くと子どもたちは「行く!」と答える子もいます。
実際に優勝チームの見学に行くと、自分たちのチームとの違いを子どもたちなりに感じるわけです。技術的なことだけでなく、雰囲気や取り組む姿勢などの違いにも気づくかもしれません。目指す最高の姿から、自分たちに出来ることを見つけていこうとすると、今までとは違ったアイデアが出てくるんですよね。それに、最高の姿を(優勝チームをみることで)疑似体験すると、それを達成したいというモチベーションも湧いてきます。それは僕たち大人も一緒ですよね。
そういう意味で、「どうなりたいか?」という自分の本当の願いと向き合うことが何より大切ですね。本当は自分はこう思ってるんだ、とか、こんなことを実現したいと思っているんだなぁ、というのを認識するということです。
現実的なことを教えるのもとても大切なことだと思いますが、それを最終的に判断するのは彼ら、子どもたちです。そうじゃないと、言い訳にすることもできてしまいす。
「お父さんが目標は優勝にしろって言ったじゃん。僕はやる気なかったのに。」のように。
そうなってしまわないためにも、最終的な選択、決断をするのは彼らにゆだねて、それを見守れるスタンスをとるというのが、大人にとって重要かなと思いますね。(撮影:編集部、取材:浅野有香)
次回は「親御さん、指導者のみなさん、そして子どもたちへ」についてをお送ります。