7か所のフリーバッティングで打撃強化
「次は、絶対に打ってみろよ!」
「任せろ!」
「オッケー、ナイスバッティン!」
7箇所で行うフリーバッティングの最中、投手と打者の間で気合いを入れあう声が飛びかっていた。スイングのあとには、「よっしゃ!」と大きな声で叫ぶ打者。「打ったら絶叫」がチームの約束事になっている。
「ようやく、自分たちから声が出るようになってきました。いつも言っているのは、『明るい雰囲気を作らないと勝てない』。前向きに取り組むようになっています」
東京・江戸川区立上一色中学校――。
2006年に西尾弘幸監督が就任してから、めきめきと実力をつけ、2015年に全中ベスト4、翌2016年には全中準優勝。高校野球で活躍する選手も多く、専大松戸、日大三、関東一、札幌第一などで甲子園の土を踏んだ。
学校は学年3クラスの中規模校。江戸川区は「学校選択制」を取り入れていて、「上一色中で野球をやりたい!」と電車やバスで通学する選手が多い。2年生は19名いるが、もともとの学区に住む選手はひとりだけだ。
西尾監督の信念は「高校野球で通じる選手を育てる」「打ち勝つチームを作る」だ。平日はおよそ2時間半の練習があるが、はじめの30分をアップとキャッチボール、残り2時間をバッティングにあてる。
「平日はボールを打つだけで300球、土日は600球打っています。やっぱり、バットを振って、数多くのボールを打たなければ、打てるようにはなりません」
取材当日は7カ所のフリーバッティングと、2か所のロングティーが行われていた。フリーバッティングは体育館(ネットで囲まれていて、防球対策はばっちり)に向かって打つ独特のスタイルだ。グラウンドは練習試合ができない狭さのため、このやり方でしかフリーバッティングができないのだ。
バッティング練習中、打席を待つ選手はバットでタイヤを叩いたり、2メートルの長い棒でスイングしたりと、ボーッと待っている選手が誰もいない。
練習で意識するのは、「ストライクを強く振る」ということ。以前、江戸川区大会でのファーストストライクスイング率を調べてみたところ、驚異の7割7分。とにかく積極的に振る。この試合はスタンドインが2本飛び出した。「待ち」の野球では、高校に行ったときに通用しない。
「3年前に竹バットを取り入れてから、振る力もミート力もついてきました。それによって、高校で活躍する卒業生が増えています」
竹バットは900グラム、800グラム、の2種類があり、体の力に応じて使い分けている。12月から2月はティーバッティングでもフリーバッティングでも、竹バットだけを使い、パワーと技術を養っていく。
「軟式の選手を見ていると、『バットの芯でボールをとらえる』という技術がなかなか身に付かないように思います。そのまま高校に行くと、バッティングで苦労してしまう。芯のエリアが狭い竹バットで練習することで、芯でとらえる感覚を養っています」