今回の質問
「三塁手の息子がイップスになりました...」
5年生からサードのレギュラーとして活躍していた息子。もともと守備は上手かった方なのですが、新学年になり、あまり守備の上手くない子がファーストのレギュラーになったため、息子がサードから全力で投げたボールをファーストが取れないという場面が多くなりました。それから息子が送球の加減を調整し始めてからスローイングがおかしくなりました。ボールを叩きつけるようになり、まともにファーストに投げられなくなりました。
それからは、投げるときに恐怖感が出て体が開いてしまったり、体が開くから肘が出てこなかったりとか、今まで無意識にできていたことができなくなってしまいました。
「イップスは親指の離れが悪いことが原因」と聞き、バスケットゴールをめがけて少し上にボールを投げる練習をさせて改善も試みたのですが、確かに叩きつける事は少なくなりましたが、今度は親指の離れを意識し過ぎて送球のすっぽ抜けが多くなりました。
しばらく外野をやらせて、「あ、いい感じになった」と思って内野に戻しても、キャッチボールで1球暴投投げたら全部リセットされて・・・その繰り返しです。
外野にコンバートすれば解決するのかもしれませんが、田舎の弱い軟式チームで息子の他に内野ができそうな子もおらず、また息子はあまり足が速くないので、この先を考えると外野は厳しいと思っており、イップスを小学生の間に治しておきたいと思っています。何か対処法などがあれば教えてください」(40代男性)
廣川さんの答え
今回のご相談は「イップス」について。
プロ野球選手でさえイップスが原因で引退してしまう選手もいるくらい、対処が難しい問題です。
スローイングにおけるイップスは「制球難」や「悪送球」に対する恐怖心から本来のフォームを見失ってしまったり、頭ではわかっていても体が思うように動かないといった現象に陥ります。ここから申し上げることはあくまでも私の経験論で、全てのケースに当てはまるものではないという前提でお読みいただければと思います。
私が今まで見てきた「イップス」に陥る選手にはある「傾向」があります。
右投げの選手であれば、
【1】投球・送球時に「左足の踏み込み」が弱い選手
【2】体を前傾し、「腰が引けたような投げ方」をする選手
このどちらかに当てはまる選手がイップスに陥るケースが多いように思います。
この2つのタイプに共通するのは「投げるボールの強度を『腕の振りの速さ』で調節すること」です。
前方向に体重移動をしても転ばないのは、右投げの選手であれば踏み込んだ左足で踏ん張るから倒れることなく体勢を保つことができます。当然ながら強度の高い送球は左足に強い負荷がかかり、弱い送球はかかる負荷も弱くなります。送球が上手な選手は「腕の振りの速さ」と「左足の踏み込みの強さ」のバランスが取れています。
【1】のタイプは左足の踏み込みが弱いため、送球の強度を腕の振りの速さだけで調整しようとします。当然ながら手足を動かすタイミングがずれたり、送球時に体のバランスを崩しやすい傾向があります。
【2】の場合は腰が引けることで上半身と下半身の動きが分断されてしまうため、仮に左足を強く踏み込んでも、下半身の動きが上半身に伝わらず同じようにタイミングがズレたり、バランスを崩しやすいです。
こういう選手はイップスまではいかなくても、悪送球を犯す確率が高くなります。
これらが要因で最適な送球のバランスを見失うことでイップスに陥ってしまい、悪送球への不安から重度が増していくケースが多いように思います。
あくまでも私見ですが、イップス自体は運動障害と言われますが、「元々送球に技術的な課題を持っていた選手」に多く発生するように思います。私は一時期、バント処理の三塁への送球が苦手でした。左投手が三塁側のバントを急いで三塁に送球しようとするとどうしても腰が引けてしまい、上半身と下半身の動きが分断されてタイミングを崩し、悪送球になることが多かったからです。
以下で申し上げる方法はあくまでも軽度の場合に効果が期待できる方法ですが、必ずしも効果を保証するものではありませんのでご了承ください。
上記で挙げた「踏み込みの弱さ」「腰の引け」を克服するためには、送球時に「体の開きを抑えること」がとても重要になります。そのために
「サイドステップ→少しだけインステップ気味に踏み込んで送球」
といった動作を取り入れるのも良いかと思います。サイドステップで体の開きを抑えながら踏み込み勢いを作り、インステップは腰の引けを抑制する効果があるので有効な場合があります。
私の場合は前述の三塁送球の時にインステップ気味に踏み込み、アンダーハンド送球することで腰の引けを矯正しました。
重度の場合には自力で克服することが難しいので、専門の機関に相談することをお勧めします。
私は「送球が不安定な選手」は誰でもイップスに陥るリスクはあると思います。そして「送球の不安定さ」は必ず技術的な原因があります。「投げる方向に左足を踏み込む」をおろそかにせず、丁寧にキャッチボールを行うことが安定したスローイングを維持するためには大切だと思います。
「スローイングは足から!」です。
*「ご用件」に「少年野球質問箱」と書いて、廣川さんに教えて欲しい悩みや疑問をお送りください。
【球歴】
えひめ西(現松山)、リトルリーグ、愛媛県立松山北高等学校、甲南大学(阪神大学野球連盟)、リクルート(社会人野球東京支部)
【受賞歴】
■リトルリーグ
-四国大会優勝
■高校野球
-愛媛県中予地区新人戦優勝
-秋季愛媛県大会準優勝(四国大会出場)
-第59回選抜高等学校野球大会出場
■大学野球
-阪神大学野球連盟2部リーグ最優秀投手賞
(→1部昇格)
-阪神大学野球連盟特別賞(3度)
・1試合最多奪三振記録樹立(18個/当時)
・通算最多奪三振記録樹立(351個/当時)
・通算最多登板記録樹立(57試合/当時)
-学生日本代表候補選手選出 など
【野球指導歴】
-学童野球コーチ
-中学硬式野球チームコーチ・監督
-その他高校・社会人野球臨時コーチなど多数。
プロ野球選手でさえイップスが原因で引退してしまう選手もいるくらい、対処が難しい問題です。
スローイングにおけるイップスは「制球難」や「悪送球」に対する恐怖心から本来のフォームを見失ってしまったり、頭ではわかっていても体が思うように動かないといった現象に陥ります。ここから申し上げることはあくまでも私の経験論で、全てのケースに当てはまるものではないという前提でお読みいただければと思います。
私が今まで見てきた「イップス」に陥る選手にはある「傾向」があります。
右投げの選手であれば、
【1】投球・送球時に「左足の踏み込み」が弱い選手
【2】体を前傾し、「腰が引けたような投げ方」をする選手
このどちらかに当てはまる選手がイップスに陥るケースが多いように思います。
この2つのタイプに共通するのは「投げるボールの強度を『腕の振りの速さ』で調節すること」です。
スローイングにおける「強度調節のメカニズム」
スローイングは「体を前方向に体重移動する行為」を伴う運動です。前方向に体重移動をしても転ばないのは、右投げの選手であれば踏み込んだ左足で踏ん張るから倒れることなく体勢を保つことができます。当然ながら強度の高い送球は左足に強い負荷がかかり、弱い送球はかかる負荷も弱くなります。送球が上手な選手は「腕の振りの速さ」と「左足の踏み込みの強さ」のバランスが取れています。
イップスに陥りやすい要素
【1】のタイプは左足の踏み込みが弱いため、送球の強度を腕の振りの速さだけで調整しようとします。当然ながら手足を動かすタイミングがずれたり、送球時に体のバランスを崩しやすい傾向があります。
【2】の場合は腰が引けることで上半身と下半身の動きが分断されてしまうため、仮に左足を強く踏み込んでも、下半身の動きが上半身に伝わらず同じようにタイミングがズレたり、バランスを崩しやすいです。
こういう選手はイップスまではいかなくても、悪送球を犯す確率が高くなります。
これらが要因で最適な送球のバランスを見失うことでイップスに陥ってしまい、悪送球への不安から重度が増していくケースが多いように思います。
あくまでも私見ですが、イップス自体は運動障害と言われますが、「元々送球に技術的な課題を持っていた選手」に多く発生するように思います。私は一時期、バント処理の三塁への送球が苦手でした。左投手が三塁側のバントを急いで三塁に送球しようとするとどうしても腰が引けてしまい、上半身と下半身の動きが分断されてタイミングを崩し、悪送球になることが多かったからです。
イップス克服のための練習方法
私はイップス治療の専門家ではないので重度のイップスに関する治療はできません。以下で申し上げる方法はあくまでも軽度の場合に効果が期待できる方法ですが、必ずしも効果を保証するものではありませんのでご了承ください。
上記で挙げた「踏み込みの弱さ」「腰の引け」を克服するためには、送球時に「体の開きを抑えること」がとても重要になります。そのために
「サイドステップ→少しだけインステップ気味に踏み込んで送球」
といった動作を取り入れるのも良いかと思います。サイドステップで体の開きを抑えながら踏み込み勢いを作り、インステップは腰の引けを抑制する効果があるので有効な場合があります。
私の場合は前述の三塁送球の時にインステップ気味に踏み込み、アンダーハンド送球することで腰の引けを矯正しました。
最後に
今回はとても難しく、ナーバスな問題です。重度の場合には自力で克服することが難しいので、専門の機関に相談することをお勧めします。
私は「送球が不安定な選手」は誰でもイップスに陥るリスクはあると思います。そして「送球の不安定さ」は必ず技術的な原因があります。「投げる方向に左足を踏み込む」をおろそかにせず、丁寧にキャッチボールを行うことが安定したスローイングを維持するためには大切だと思います。
「スローイングは足から!」です。
*「ご用件」に「少年野球質問箱」と書いて、廣川さんに教えて欲しい悩みや疑問をお送りください。
「廣川さん」プロフィール
廣川寿(ひろかわ ひさし)1969年生まれ。愛媛県出身。全国約7,000人の野球指導者及び保護者から絶大な支持を得ているFacebookページ「少年野球指導者のひとり言」管理人。【球歴】
えひめ西(現松山)、リトルリーグ、愛媛県立松山北高等学校、甲南大学(阪神大学野球連盟)、リクルート(社会人野球東京支部)
【受賞歴】
■リトルリーグ
-四国大会優勝
■高校野球
-愛媛県中予地区新人戦優勝
-秋季愛媛県大会準優勝(四国大会出場)
-第59回選抜高等学校野球大会出場
■大学野球
-阪神大学野球連盟2部リーグ最優秀投手賞
(→1部昇格)
-阪神大学野球連盟特別賞(3度)
・1試合最多奪三振記録樹立(18個/当時)
・通算最多奪三振記録樹立(351個/当時)
・通算最多登板記録樹立(57試合/当時)
-学生日本代表候補選手選出 など
【野球指導歴】
-学童野球コーチ
-中学硬式野球チームコーチ・監督
-その他高校・社会人野球臨時コーチなど多数。