この中学2年生の選手の例から、改めてコーチの重要性についての話が続いた。
「今、例で話した中学生の選手はひょっとしたらそこで嫌になって野球を辞めていたかもしれません。ちなみに彼はその後も高校、大学、社会人でプレーして一流の選手になりました。このようにコーチによって選手の将来は大きく変わります。暴力やパワハラが問題になっている間はレベルが低いです。アメリカ人が日本の少年野球を見て『マフィアが野球を教えているのか?』と言ったという話がありますが、実際に(ロッテの監督だった)ボビー・バレンタインに少年野球の現場を見せた時、彼は日本語をよく知っていますからマフィアではなく『ヤクザが野球を教えているみたいだ』と言っていました。
その場では何が行われていたかというと、ボールを怖がる子どもに対してプロテクターをつけさせて、壁の前に立たせて至近距離でノックを打っていました。虐待ですよね。でもまだこんなことをしている指導者は少なくないと思います。
意味のない大声も丸坊主も野球にとっては不要です。必要な時に声が通らなくなりますし、髪の毛は熱中症から頭を守るためにも必要です。でもよく指導者の方になぜ坊主なのか聞くと、別に坊主というルールではないと言います。これは言ってみれば選手が指導者に忖度(そんたく)していますよね? そういう忖度された状態の指導者が組織をダメにしていくと思います。そうならないためにはどうするか? コーチが様々なことを勉強し続けるしかありません。勉強すればするほど腹も立たなくなります。そういう指導者が一人でも増えて、プロ野球だけでなく野球界全体が良くなってもらいたいと思って日々取り組んでいます」
この後は具体的に野球のプレーでポイントとなる股関節、体幹、肩甲骨、肩のインナーマッスル、握力(野手)と指力(投手)、肘の内側の筋肉について選手、保護者に対してもトレーニング法などの講習が行われた。
良くないコーチングの例として『伝えた練習を選手がせずに指導者が怒る』というケースがあるが、立花さんはそうならないために、なぜその部位とトレーニングが重要かということを、時に選手たちに質問を投げかけながら一つ一つ丁寧に説明していた。まさに理想的なコーチングの実践と言えるだろう。
度々話の中にも出てきた通り、日本の野球の現場ではまだまだ『コーチング』についての意識が低いように感じることが多い。将来の日本の野球界、スポーツ界、社会のためにも、立花さんの話すような意識の高いコーチングが浸透していくことを望みたい。
(取材・写真:西尾典文)
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