学校生活を通して最も大変なのは、定期テストと大会時期がかぶることだ。
「春は県大会の終盤に中間テスト、夏の大会前は期末テスト。特に夏は大変ですね。練習も追い込んで体が疲れていて、その中で勉強をしないといけないので。特に2年生になると、進学について真剣に考えるようになってテストが重要だとあらためて気づかされました」。
得意な教科は数学だ。どれだけ難しい問題でも答えがスパッと出た時のうれしさがあった。数字を見て答えを出すためにあれこれ考えることは、相手データを見て分析する野球にも生きる要素は多い。そして有馬が数字以上にこだわるのが人間観察。捕手は相手の表情を見ながら、様々なことを予測しなくてはならない。“人を見る”ことは普段の生活でも同じだ。
「クラスメートと話す時も、顔を見て相手の気分などを観察します。表情やしぐさ、動作など、特に最近はずっと一緒にいる子は見ていて何を考えているのか分かるようになりました」。
カッコ良さに惹かれて始めたキャッッチャー。でも今はキャッチャーとしての役割を認識し、違った角度で外見を意識するようになった。
「キャッチャーは、自分のことだけではなくピッチャーのことを考えないといけないのでやることが多いですね。試合では自分はピッチャーの表情をよく見るようにしています。普段見せない表情を見せた時は特に気をつけます」。
エースの林優樹の場合は無表情になるといつもと違う心境であることが分かるという。夏の甲子園の金足農(秋田)戦はまさにそうだった。9回のピンチでも顔がこわばっていて、タイムを取ってもすぐに立ち直る雰囲気ではなかった。
「林はおだてたら前向きになる方なんですけれど、あの空気ではさすがに......。でもこの秋、エースになって責任感が出てきたので、なだめ方が変わりました。今までは『後ろが守ってくれるから』とよく声を掛けていましたが、今は余計なことは言わず、『打たれるな!』としか言いません。そう言うことで本人も気合いが入るみたいです。もう最上級生だし、少し厳しく言わないと林も成長できないと思うので」。
有馬と林は対照的なキャラクターだ。しっかり者の有馬は、天真爛漫な林にまるで兄のように声を掛け、時には一緒に笑う。1年の時に2歳上の先輩もリードしてきた経験値もどこかに生きているのかもしれない。1年生が3年生をリードするとなるとどうしても遠慮がちになるが、試合では上下関係の垣根を取っ払って自分の意見を発してきた。
「ピンチでタイムをかけたときも“自分はこう思います”って、いくつか意見を提示して選択肢を敢えて作りました。自分の意見は押し付けません。先輩の意見もあるので、もちろん聞きます。でも、先輩でもここでこのボールを投げたら打たれるとか、ずっと受けてきて分かることもあるので、そのあたりも含めて自分の考えは言っていました」。