――ご両親がなんらかのスポーツをやっていたご家庭も多いですね。
「親が楽しそうにプレーしているのを見て、自分も(その競技を)やりたいと思うようになったというのも大きいと思います。男子卓球の張本(智和)選手はご両親も卓球選手。親が卓球をする姿を見ていて楽しそうだとか、親と一緒にいたいという気持ちで、2歳から卓球を始めたそうです。
張本選手は小学校4〜5年のときに、全国模試で全国1位を4回獲っています。それはお母さんに、『卓球をやってもいいけど、その前に勉強をやろうね。勉強してからなら好きなだけ卓球をやっていいよ』と言われて、卓球がしたくて勉強も頑張った結果なんですね。
イチロー選手(マリナーズ)も中学時代には東大受験をすすめられるほど成績が良かったそうです。学校の成績がいいトップアスリートが多いのは、勉強ができるかどうかというよりも、集中力があって、何を学べば自分の役に立つという判断も、きちんとできているからなんですね」
――スポーツが好きになったら集中力が高まって、勉強もできるようになるなんて一石二鳥ですね!
「常に正しいことを判断できないと、スポーツもうまくならないですから。そこでもし、親が運動することを遊びと捉えて、『遊んでばかりいないで勉強しなさい!』なんて言ったら、勉強も運動も楽しくなくなってしまいますよね」
―――確かに、本に出てきた選手たちは、運動も勉強もやらされている感がありませんでした。
「勉強も、『覚えなきゃ!』というよりもゲーム感覚です。できなかったことができるようになる楽しさや達成感を味わうと、何事も楽しくなりますから。
もうひとつ大事なのは、自分で考える癖をつけさせることです。親がすぐに答えを与えないで、『あなたはどう思うの?』と問いかける。さきほどの杉山愛さんのお母さんのように。
もしも子どもから『あれはやりなくない』って言われたら、『どうしてやりたくないの?』と理由を尋ねる。『休みたい』って言われたら、『どうして休みたいの?』と聞き、『お腹が痛い』って言われたら、『どうしてお腹が痛くなったの?』と会話しながら、自然に答えを引き出す。じれったいやりとりなのですが、取材した親御さんたちは、そのじれったさをクリアしていましたね」
――トップアスリートの親御さんたちは、子育てに必要なことをよくわかっていらっしゃったんですね。
「子育ての方法がわかれば、いつ何をすればいいかもわかります。子どもの運動神経が最も発達する9〜11歳を“ゴールデンエイジ”と呼びますが、ここでしっかり体を鍛えると運動能力もアップします。ですから、この時期に技術をたくさん教えるためにも、その前の段階で好きなことに目覚めさせるのです。『野球が好き!』、『自分はサッカーをやる!』というふうに。大谷選手はそのルーティーンにぴったりとはまって、9〜11歳で基礎的な野球のスキルをしっかり学んだので、高校では応用ができればいいというレベルだったそうです」
――一冊目の本を出した2000年代前半は、まだ「ゴールデンエイジ」という言葉が一般的ではありませんでした。
「脳科学や幼児教育の先生が研究を重ねてくださったおかげで、今では広く知られるようになりました。ゴールデンエイジの手前、子どもが10歳になるまでの10年間は、子どもの一生を左右する大事な時期です。だから、親が仕事を最優先にしている場合ではないのです。子どもの一生がここで決まってしまうのですから」
吉井妙子さん
スポーツジャーナリスト。宮城県出身。朝日新聞社に13年勤務した後、1991年よりジャーナリストとして独立『帰らざる季節中嶋悟F1五年目の真実』(文藝春秋)で1991年度ミズノスポーツライター賞受賞。スポーツに限らず人物ノンフィクションを手掛け、経済や芸術の分野でも幅広く執筆。『天才は親が作る』『天才を作る親たちのルール』(ともに文藝春秋)、『松坂大輔の直球主義』(朝日新聞社)、『神の肉体清水宏保』(新潮社)、『トップアスリートの決断力』(アスキー)など著書多数。
「天才は親が作る」(文春文庫)
天才と呼ばれる選手の親は特殊な才能の持ち主ではない。ただ、子供への愛情のかけ方や接し方がちょっとだけ違っていたのである
松坂大輔、イチローなど10人の天才の親に、彼らが育ったお茶の間で「子育て」について徹底取材した画期的ノンフィクション。天才たちを育てたのは普通の親だった。そこには一つのルールがあった―。幼い娘が靴紐を結び終えるまで30分待った杉山愛の母など目からウロコの実例の宝庫。子育て中の親必読。
松坂大輔(野球)、イチロー(野球)、清水宏保(スケート)、里谷多英(スキー)、丸山茂樹(ゴルフ)、杉山愛(テニス)、加藤陽一(バレー)、武双山(相撲)、井口資仁(野球)、川口能活(サッカー)
「天才を作る親たちのルールトップアスリート誕生秘話」(文藝春秋)
日本を代表するトップアスリートは、家庭でどのような教育を受けたのか。
親がしたこと、しなかったこと。12家族から見えるそのルール。
世の中には「天才」と称されるスポーツ選手が何人もいる。天才って何? 大量の汗とともに磨かれる技、そして肉体と精神、その上に成り立っている競技スポーツに生きる選手に対して、「天才」という曖昧模糊とした言葉には違和感がある。その疑問から始まった、トップアスリートの親へのインタビュー集。多くの読者に好評を博した2003年刊の同テーマ書籍に続く第二弾。
萩野公介(水泳)、白井健三(体操)、桐生祥秀(陸上)、永井花奈(ゴルフ)、石川佳純(卓球)、木村沙織(バレー)、井上尚弥(ボクシング)、竹内智香(スノーボード)、藤浪晋太郎(野球)、宇佐美貴史(サッカー)、宮原知子(フィギュアスケート)、大谷翔平(野球)の親へ取材。
それぞれ育て方には個性がありながら、数え切れないほどの共通項もあった。筆者がそこで導き出す、天才の作り方とは。
「親が楽しそうにプレーしているのを見て、自分も(その競技を)やりたいと思うようになったというのも大きいと思います。男子卓球の張本(智和)選手はご両親も卓球選手。親が卓球をする姿を見ていて楽しそうだとか、親と一緒にいたいという気持ちで、2歳から卓球を始めたそうです。
張本選手は小学校4〜5年のときに、全国模試で全国1位を4回獲っています。それはお母さんに、『卓球をやってもいいけど、その前に勉強をやろうね。勉強してからなら好きなだけ卓球をやっていいよ』と言われて、卓球がしたくて勉強も頑張った結果なんですね。
イチロー選手(マリナーズ)も中学時代には東大受験をすすめられるほど成績が良かったそうです。学校の成績がいいトップアスリートが多いのは、勉強ができるかどうかというよりも、集中力があって、何を学べば自分の役に立つという判断も、きちんとできているからなんですね」
――スポーツが好きになったら集中力が高まって、勉強もできるようになるなんて一石二鳥ですね!
「常に正しいことを判断できないと、スポーツもうまくならないですから。そこでもし、親が運動することを遊びと捉えて、『遊んでばかりいないで勉強しなさい!』なんて言ったら、勉強も運動も楽しくなくなってしまいますよね」
―――確かに、本に出てきた選手たちは、運動も勉強もやらされている感がありませんでした。
「勉強も、『覚えなきゃ!』というよりもゲーム感覚です。できなかったことができるようになる楽しさや達成感を味わうと、何事も楽しくなりますから。
もうひとつ大事なのは、自分で考える癖をつけさせることです。親がすぐに答えを与えないで、『あなたはどう思うの?』と問いかける。さきほどの杉山愛さんのお母さんのように。
もしも子どもから『あれはやりなくない』って言われたら、『どうしてやりたくないの?』と理由を尋ねる。『休みたい』って言われたら、『どうして休みたいの?』と聞き、『お腹が痛い』って言われたら、『どうしてお腹が痛くなったの?』と会話しながら、自然に答えを引き出す。じれったいやりとりなのですが、取材した親御さんたちは、そのじれったさをクリアしていましたね」
――トップアスリートの親御さんたちは、子育てに必要なことをよくわかっていらっしゃったんですね。
「子育ての方法がわかれば、いつ何をすればいいかもわかります。子どもの運動神経が最も発達する9〜11歳を“ゴールデンエイジ”と呼びますが、ここでしっかり体を鍛えると運動能力もアップします。ですから、この時期に技術をたくさん教えるためにも、その前の段階で好きなことに目覚めさせるのです。『野球が好き!』、『自分はサッカーをやる!』というふうに。大谷選手はそのルーティーンにぴったりとはまって、9〜11歳で基礎的な野球のスキルをしっかり学んだので、高校では応用ができればいいというレベルだったそうです」
――一冊目の本を出した2000年代前半は、まだ「ゴールデンエイジ」という言葉が一般的ではありませんでした。
「脳科学や幼児教育の先生が研究を重ねてくださったおかげで、今では広く知られるようになりました。ゴールデンエイジの手前、子どもが10歳になるまでの10年間は、子どもの一生を左右する大事な時期です。だから、親が仕事を最優先にしている場合ではないのです。子どもの一生がここで決まってしまうのですから」
(取材・江原裕子/写真:編集部)
インタビュー後編に続きます。
プロフィール
吉井妙子さん
スポーツジャーナリスト。宮城県出身。朝日新聞社に13年勤務した後、1991年よりジャーナリストとして独立『帰らざる季節中嶋悟F1五年目の真実』(文藝春秋)で1991年度ミズノスポーツライター賞受賞。スポーツに限らず人物ノンフィクションを手掛け、経済や芸術の分野でも幅広く執筆。『天才は親が作る』『天才を作る親たちのルール』(ともに文藝春秋)、『松坂大輔の直球主義』(朝日新聞社)、『神の肉体清水宏保』(新潮社)、『トップアスリートの決断力』(アスキー)など著書多数。
紹介した著書
「天才は親が作る」(文春文庫)
天才と呼ばれる選手の親は特殊な才能の持ち主ではない。ただ、子供への愛情のかけ方や接し方がちょっとだけ違っていたのである
松坂大輔、イチローなど10人の天才の親に、彼らが育ったお茶の間で「子育て」について徹底取材した画期的ノンフィクション。天才たちを育てたのは普通の親だった。そこには一つのルールがあった―。幼い娘が靴紐を結び終えるまで30分待った杉山愛の母など目からウロコの実例の宝庫。子育て中の親必読。
松坂大輔(野球)、イチロー(野球)、清水宏保(スケート)、里谷多英(スキー)、丸山茂樹(ゴルフ)、杉山愛(テニス)、加藤陽一(バレー)、武双山(相撲)、井口資仁(野球)、川口能活(サッカー)
「天才を作る親たちのルールトップアスリート誕生秘話」(文藝春秋)
日本を代表するトップアスリートは、家庭でどのような教育を受けたのか。
親がしたこと、しなかったこと。12家族から見えるそのルール。
世の中には「天才」と称されるスポーツ選手が何人もいる。天才って何? 大量の汗とともに磨かれる技、そして肉体と精神、その上に成り立っている競技スポーツに生きる選手に対して、「天才」という曖昧模糊とした言葉には違和感がある。その疑問から始まった、トップアスリートの親へのインタビュー集。多くの読者に好評を博した2003年刊の同テーマ書籍に続く第二弾。
萩野公介(水泳)、白井健三(体操)、桐生祥秀(陸上)、永井花奈(ゴルフ)、石川佳純(卓球)、木村沙織(バレー)、井上尚弥(ボクシング)、竹内智香(スノーボード)、藤浪晋太郎(野球)、宇佐美貴史(サッカー)、宮原知子(フィギュアスケート)、大谷翔平(野球)の親へ取材。
それぞれ育て方には個性がありながら、数え切れないほどの共通項もあった。筆者がそこで導き出す、天才の作り方とは。