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――親が子どもに与える影響は、やっぱり大きいのでしょうか?「子は親の履歴書。親の言動からしか、子どもは形作られません。小さい頃にどういう言葉をかけてもらって、どういう環境で育ったかによって、子どもの脳が発達しますから、親の人生観が子どもに現れます。
それと、取材をさせていただいた親御さんたちは、外で子どもの自慢をしないような方達でした。また、家族仲がいい、夫婦仲がいいのも特徴的だと思います。
親ができるだけ子どもと一緒にいる時間を作って、子どもの時間に合わせることで、子どもは自分が親に愛されていることを感じられる。親に愛されているから、人を愛することができて、人に対する思いやりや気配りを学べる。すると、自然と周りに支援者が集まってきて、協力体制を作ってくれるようになるんですね」
――井口資仁監督(ロッテ)も、その運動センスに気づき、野球をすすめたのはご近所の方たちだったそうですね。
「そうそう。井口監督は高校を卒業する頃まで、自宅の横の敷地でティーバッティングやシャトル打ちの練習を夜遅くまでしていたらしいのですが、住宅街だったにも関わらず、一度も近所の方から苦情を言われたことはなかったそうです。
トップになるには、自分の力だけではなく周りの支援や助けが必要です。それも計算尽くではなくて、『あの子、一生懸命やっているから応援したくなっちゃう』という感じにですね」
――トップアスリートの親御さんの中で、特に野球選手の親御さんの共通点でいうと、特徴的なことはありますか?
「お父さんがみんな野球好きということですね。経験者ではなかったとしても。また、夕食を家族で食べ、野球がみんなの楽しい話題になっているのも共通していました。お父さんが、昼間の子どもの良かったプレーの話をお母さんにしたりして、それを聞いて子どもは鼻が高くなる。子どもには本能的に承認欲求があって、大人に褒められると素直にうれしいですし、本気になります」
――褒めることは大切ですが、ただ褒めればいいだけではないそうですね?
「結果よりもプロセスを褒めてあげることが大切ですね。結果ばかりを褒めてしまうと、次から達成しやすい目標ばかりを選んでしまうようになりますから。
それから、ときどき伸びた鼻をへし折ってあげることも大切です。ちゃんと褒めてあげつつ、浮ついてきたと思ったらパキッと鼻を折る。そのバランスと、へし折るタイミングが重要です。たとえば、地域の大会で優勝して、周りの人に『すごいね』って言われていたとしたら、『県大会にはもっとすごい選手が集まっているよ』という風に。県大会で勝ったら、『全国大会はもっともっとレベルが上がるんだよ』と」
――ちょっとのところで満足せずに、もっと上に行きたいという気持ちにさせるのですね、強制ではなく。
「強制的にやらされた子は、ほとんど潰れてしまいます。楽しいからとか、お父さんやお母さんが喜ぶからとか、やりたい理由があって進んでやることが大切です。
それと、ご家庭の中で野球が、“お父さんと息子の野球”じゃなくて、“家族みんなの野球”になっていることですね。大谷翔平選手(エンゼルス)一家がその典型で、練習を見に行くのはお父さんだけではなくて、お母さんも家事が終わるとお姉ちゃんと一緒にグラウンドに行っていました。また藤浪晋太郎選手(阪神)一家は、彼が中学から硬式野球をやっていたので、最後の家族旅行が小6のときだったらしいのですが、大会について行って全国を訪ねたのが家族旅行でレジャーになったと親御さんが言っていました」