毎年12月29日に開催される広陵高校野球部のOB会に、昨年末は350人近くの教え子たちが集まった。同時期にプロ野球OBの選手たちが集まって近年の恒例行事になっているのが野球教室だ。14年8月に広島で土砂災害があった年から始まり、野球道具を流された子どもたちのために何かできないかと中井監督が発案。声を掛けたOBのプロ野球選手が集まり、ボランティアでボール遊びの楽しさを教える。昨年7月には西日本豪雨で広島県東部を中心に甚大な被害も受け、昨年末は呉方面の子どもたちも含めて350人以上の野球少年たちが集まった。広陵OBが監督を務める少年野球チームも招待。
「僕がずっとその場におったら勧誘と誤解されるけん、その時は遠目で見ているだけ」と中井監督は冗談交じりに笑うが、これだけのOBがいるからこそできる取り組みは、これからも続けていきたいと思っている。
真っすぐな瞳、そして屈託のない素直な子どもたちが今年も甲子園の土を踏む。伝統校ならではの機敏な動き、元気良いプレーを見ていると他の強豪校と遜色はないが、中井監督は教え子たちを眺めながらこう話す。
「広陵の子はイマドキではないですよ。どちらかというと“昭和の子”ですかね。広陵で厳しくされてきたから、大学に行って失敗したり頭打ちしたり、こんな世界もあるのか、と流されることもあると思うんです。でも、失敗しても逃げないでほしい。帰省した時は堂々と(広陵グラウンドに)帰ってきて欲しいとは思いますよね。私に怒られると思ってなかなか出てこれない子もいますけれど、私はそこまで言わないですよ。反省して、次に生かしてくれたらいいんです」。
そう言って見せた中井監督の表情は、監督でも先生でもなく、紛れもない温かい父親の表情だった。(取材・写真:沢井史)