難しい練習も「やろう!」と思う気持ちが大事
これまで2回の野球教室を経て、自ら考え理解して行動することが徐々に身についてきた小金原ビクトリーの子どもたち。「盗塁」や「スクイズ」のサインを子どもたちだけで確認したり、練習を理解するための質問が増えたと、高橋監督はその変化を実感しています。そして最終回となる第3回は、練習→練習試合→座学という盛りだくさんの内容で行われました。
はじめは第2回と同様に川島浩史トレーナーが主導して、『姿勢を低くするため』のラダートレーニングを実施。「野球は低い姿勢で素早く動くスポーツ。トレーニングもなるべく野球の動きに繋げた方が効果的」と言う川島トレーナーは、苦戦する子にも優しく語りかけ、良くなったところをたくさん褒めて、やる気を引き出す声かけも印象的でした。
続いて仁志さんが見守るなか、普段の練習ではやっていないというシートノックに挑戦。難しい練習でも挑戦する気持ちが成長には不可欠で、たとえ難しいことでも可能な限り考えて準備することで、出来るようになることを子どもたちに感じて欲しい、そういった仁志さんの想いがありました。子どもたちは集中した表情で取り組み、練習試合へと挑みました。
反省点を克服した練習試合
練習試合では、ピンチの場面でのピッチャーへの声掛けや、仲間同士で支えあう声が多く聞かれただけでなく、第1回の練習試合で反省点に挙がっていた簡単なプレーでのミスが大きく減り、締まった試合展開となりました。また、次のバッターが相手ピッチャーのタイミングに合わせバットを振って準備するなど、子どもたち自身で考えた行動も多く見られました。残念ながら試合には負けてしまったものの、仁志さんも高橋監督も温かい目で子どもたちのはつらつとしたプレーを見守っていました。
『野球を楽しむということとは?』
その後、4~5人ずつのグループに分かれて、『野球を楽しむということとは?』というテーマについてディスカッションを行いました。一見難しそうなテーマですが、子どもたちは各グループで様々な意見を出し合います。第2回でのディスカッションが良い経験になったのか、それぞれの意見を互いに理解したうえで、グループごとに意見をまとめました。そのなかに『達成感』というキーワードがありました。
仁志さんは、「好きな野球でも練習や試合では辛いと感じるときがあるはず。でも何か目的を成し遂げたときに『達成感』が待っている。この『達成感』を味わったときに心の底から野球が楽しい!と感じるのではないか?」と楽しむことの根源に迫ります。
「『達成感』を得られるまでには3つのステップがあります。
一つ目は、準備(練習する、目標を立てるなど)。
二つ目は、目標に向かうこと(試合の反省を次に生かすこと)。
三つ目は、目標達成(達成感を感じ、「楽しい」と思う)。
このことを忘れずに、頑張ってください」。
語りかける仁志さんを、まっすぐな目で見つめていた子どもたち。言葉だけで伝えるのは難しい内容ですが、3回の野球教室を通じて、ともに濃い時間を過ごしたからこそ、仁志さんの言葉がすっと子どもたちにも伝わったのかもしれません。
そして普段の生活に関しても「『ちょっとならサボってもいいか』ではなく『ちょっとでもやっておこう』と考えてみましょう。野球が上手くなるだけが成長ではありません」と話し、「いつか立派に成長した皆さんと再会できることを楽しみにしています」と気持ちのこもったメッセージに、会場は拍手で包まれました。
最後に、子どもたちが使ったポカリスエットのスクイズボトルに仁志さんがサインをプレゼント。すると子どもたちはサプライズとして、感謝の気持ちを集めた寄せ書きを用意しており、これには仁志さんもビックリ!しばらくの間、とてもうれしそうな表情で眺めていました。
野球の素晴らしさを次世代に伝えるために必要なこと
3回の野球教室を終えて仁志さんは、「考える習慣が身につき始めたのか、徐々に自分の意見を積極的に言えるようになった。座学に時間を多く割いた理由も、子どもたちの心の中に元々持っている本音を引き出したかったから。野球少年にありがちな指導者に答えさせられるような言葉ではなく、本当の言葉を相手に伝えることが人生において大切だと気づいてほしかったので、大人になった時に野球のおかげで成長できたと感じてくれると嬉しいですし、彼らが野球の素晴らしさを次の世代に伝えてくれたら幸せですね」と感想を語りました。
子どもたちは今回の野球教室を「楽しかった」と笑顔で振り返り、「練習だけではなく、チームメイトと話し合って本音が聞けたこと」も楽しかったことの一つに挙げていました。また、見守っていた保護者の方々も「親が先回りしないように、我慢することの大切さに気づいた」「意見交換の必要性を感じたので、より子ども主体とした環境づくりを作っていきたい」と子どもとの向き合い方や今後のチームのあり方について新たな気づきがあったようです。
高橋監督は「少年野球の時期は、心も肉体も一番成長するタイミング。指導者が間違ったことを伝えてはいけません。子どもたちも振り返りシートやカードを使って自分の考えを整理したり、相手の意見を聞く能力が養われたと思う」と充実した表情で答えていました。
小金原ビクトリーに新たに加わった『考える習慣』。プレイヤーとして、そして一人の人間としてこれ以上大切なことはないのかもしれません。このような子どもたちを後押しする取り組みが、今後増えていくことに期待したいです。
(取材:ヤキュイク編集部、写真:小倉直樹)
野球愛教室 ダイジェスト
仁志 敏久 プロフィール
常総学院高校では甲子園準優勝1回含む3年連続出場。その後、早稲田大学から日本生命へとキャリアを積み、1995年ドラフト2位で読売ジャイアンツに入団。主に二塁手として、華麗な守備と俊足強打でファンを魅了。4年連続でゴールデングラブ賞に輝いた。2007年に横浜ベイスターズに移籍し、2010年には米独立リーグでもプレー。2010年に現役引退。
引退後はメディアでの解説・評論活動を中心に活躍の幅を広げ、2013年からは侍ジャパンの内野守備・走塁コーチやU-12の監督を務めた。1971年10月4日生まれ。