――当時はどんな指導スタイルだったのでしょうか?
「簡単に言えば昔ながらの怒鳴る指導ですよね。勝ちたい気持ちを前面に出していたので、子どもたちは恐かったと思います。でも、ある練習試合の時に気づいたんです。ミスをすると子どもたちが私のことをチラチラ見てくる。『またタイムアウトの時にキツイこと言われる』『私ミスをしたからまた怒鳴られる』そう思いながら毎日プレーをしていたのでしょう。それに気づいた時『好きなバスケットを楽しむのではなく、ミスをしたら私に怒られると思いながらプレーをするようになってしまった……』と後悔しましたね。
――そこから指導スタイルを変えたということですね。
「当時は私の言ったことに対して子どもたちは『はい』と『いいえ』でしか答えませんでした。そこをしっかり会話することから始めました。半年くらい経つと『なんであのプレーを選択したの?』と聞くと『こう思ったからしました』と自然と返すようになりました。『わかった。でもこっちのプレーの方が良くないか?』と私が言うと『ああ、なるほど。わかりました』と、会話が一方通行にならず両者が納得するように変化しました。
――ミスをただ怒るのではなく、ミスが起きた原因を指導者と選手で考える作業をしたわけですね。
「会話をすることに慣れると、試合中でもベンチとコートで上手くコミュニケーションが取るようになります。タイムアウトを取らなくても『次の作戦はこうしてみないか?』と私が声をかけると『わかりました、やってみます!』とアイコンタクトで意思疎通ができるようになる。そういったことができるようになるとプレーもスムーズになり、怒られる不安もないので子どもたちがノビノビと動き始めました。歯車がかみ合い、全国大会にも出場し、あれよあれよという間に日本一になることができました」。
――子どもたちとコミュニケーションを取ることが、指導者にとっていかに大切なことなのか彼女たちが教えてくれたんですね。
「八王子の前任の監督である池添法生さんは僕の高校の先輩でありましたし、松が谷中学校時代には野球部の教え子を進学させていたので面識はありました。ただ、畑違いのスポーツで結果を残し『あいつは何か持っている』と評価されたのは事実です。彼女たちが頑張ったおかげで昔からの夢であった高校野球の指導者になることができました。他競技を指導して気づいたことは今でも私の指導の基礎になっていると思います」。
(取材・写真:細川良介)