群馬県館林市の慶友整形外科病院、整形外科部長・慶友スポーツ医学センター長の古島弘三医師は、トミー・ジョン手術なども手掛ける日本を代表するスポーツドクターだ。早くから野球少年の健康被害について警鐘を鳴らし、群馬県内を中心に大規模な検診や講演会を行ってきた。その席上で「球数制限」の必要性について訴えかけてきた。
さらには、この春から少年硬式野球チームの「館林慶友ポニーリーグ」を立ち上げた。医師としてだけでなく、指導者としても野球の改革に取り組む古島医師に話を聞いた。
少年野球の指導者の中には、野球障害の知識を学ぶ気持ちが足りていません。「球数制限」の話をしても「ふーん」とうなずくだけです。「そんな制限をしたら野球が楽しくなくなるじゃないか」と反論する人もいます。率直に言って指導者のインテリジェンスの問題もあると思います。
少年野球に通わせる多くの親は、プロに行かせたいと思っている人が多いと思います。決してそう思うことは悪いわけではありません。でも、子供がケガをするまで、自分たちが我が子に何をさせていたのか、が理解できない。
ケガをして、我が子が長期間野球ができなくなって初めて気が付き、後悔するわけです。
よく、小学校で野球をしていた子供が、中学で野球をやりたくない、指導者が厳しい、怖い、殴るからというのを聞きますが、暴力を振るう指導者が、子供のひじを守ろうなんて思うはずがありません。それに、子供の目の前でタバコを吸うことも子供を守る意識に欠けていると思います。タバコは子どもの体にとって相当な害ですから。タバコの煙が子どもに降りかかっていることすら気づかないのです。
先日、診察に来た子は小学6年生で、4年生から投手として投げてきました。球数制限はなくて、大会が始まると毎回土日に連投してきた。
疲れても「休みたい」と言い出せる雰囲気ではなくて「親も子供もチームのために頑張れ」という状況です。
痛みは出ていませんが、レントゲン上は骨が大きく剥がれてしまっていて、痛みを伴ってしまったら相当な重症例の子です。
その子に「何のために投げているの?」と聞くと「チームが勝つため」と答える。その気持ちが悪いわけではありませんが、そういう意識になっているのがまずいですね。はっきり言って、子どもが自分の肘を犠牲にしてチームのために頑張ってしまう状況を大人が作り出してしまっています。
私は2019年4月に、少年硬式野球チームの「館林慶友ポニーリーグ」を立ち上げました。
当院には、肘や肩を故障をした野球少年がいっぱいやってきます。そういう子には「君の肩やひじは今故障しているから少し休養が必要だね」と言います。
子供や親にいろいろ聞いていくと結局、指導者が目先の勝利のために選手に長時間練習させて、試合でもたくさん投げさせているから、こんなに故障が多いのだということがよくわかります。指導者の意識を変えないことには解決しない、と思いました。
でも、お母さんに「こんなに練習したら、子供が壊れるからと監督に言ってくださいね」と言っても指導者に面と向かっては言えないんですね。
だから10年前に「慶友野球セミナー」をはじめて、指導者向けの講演をはじめました。でも聴きにやってくるのは、もともと理解のある人達だけです。本当に聴いてもらいたい人は来ない。
毎年セミナーを続けていると、スポーツ少年団の会長がたまたま聴いていてくれてその後に講習で話してくれないかという依頼がありました。年に2回講習会をして、県内の約800人いる学童野球指導者がどちらかの講演を必ず聴くということにしました。会長は全員に絶対聞いてほしいということで、指導者ライセンス制にしてくれました。講演を聴かないとベンチに入れないようになりました。
これで、多くの指導者に私の思いが伝わるようになりました。でも、話していると一部の指導者の視線が厳しいんですね。そのときは受講者が敵だらけに見えたのです。でも、障害のために投げられなくなった子どもたちを毎日のように診察していると、ここで私がひいてはいけない、悪いのはどっちだ、と言い聞かせて頑張ろうと思いました。わかってくれる人もいましたが、全員に浸透させるのは難しいと感じました。
これは、いつか見本となるチームを作るしかないと決心したのです。言ってもダメなら行動するしかないと至りました。
私達が設立した、根本的に子供に故障させないチーム、勝つためだけを目的としないチーム、短時間練習で長期的育成目標のチームがもしも勝ってしまったら、おもしろいだろう、と言う思いがありました。
我々のチームがポニーリーグを選んだのは、指導理念がしっかりしているからです。「目先の勝利」ではなく「子どもが主役」で「子どもの未来」を考えているからです。
総合的に考えれば、指導者や親の意識改革が一番重要でしょう。
指導者や親が「子どもたちを守る」ことを第一に考えるようになれば、究極に言えば「球数制限」なんてルール化は必要ありません。そう考えている大人ならば無理させることはありませんから。
でも、現実はほど遠く、そうなっていないから「球数制限」というルールを導入せざるを得ないということだと思います。(取材・写真:広尾晃)
さらには、この春から少年硬式野球チームの「館林慶友ポニーリーグ」を立ち上げた。医師としてだけでなく、指導者としても野球の改革に取り組む古島医師に話を聞いた。
指導者の問題が大きい
少年野球の指導者の中には、野球障害の知識を学ぶ気持ちが足りていません。「球数制限」の話をしても「ふーん」とうなずくだけです。「そんな制限をしたら野球が楽しくなくなるじゃないか」と反論する人もいます。率直に言って指導者のインテリジェンスの問題もあると思います。
少年野球に通わせる多くの親は、プロに行かせたいと思っている人が多いと思います。決してそう思うことは悪いわけではありません。でも、子供がケガをするまで、自分たちが我が子に何をさせていたのか、が理解できない。
ケガをして、我が子が長期間野球ができなくなって初めて気が付き、後悔するわけです。
よく、小学校で野球をしていた子供が、中学で野球をやりたくない、指導者が厳しい、怖い、殴るからというのを聞きますが、暴力を振るう指導者が、子供のひじを守ろうなんて思うはずがありません。それに、子供の目の前でタバコを吸うことも子供を守る意識に欠けていると思います。タバコは子どもの体にとって相当な害ですから。タバコの煙が子どもに降りかかっていることすら気づかないのです。
先日、診察に来た子は小学6年生で、4年生から投手として投げてきました。球数制限はなくて、大会が始まると毎回土日に連投してきた。
疲れても「休みたい」と言い出せる雰囲気ではなくて「親も子供もチームのために頑張れ」という状況です。
痛みは出ていませんが、レントゲン上は骨が大きく剥がれてしまっていて、痛みを伴ってしまったら相当な重症例の子です。
その子に「何のために投げているの?」と聞くと「チームが勝つため」と答える。その気持ちが悪いわけではありませんが、そういう意識になっているのがまずいですね。はっきり言って、子どもが自分の肘を犠牲にしてチームのために頑張ってしまう状況を大人が作り出してしまっています。
見本となるチームを作るしかない
私は2019年4月に、少年硬式野球チームの「館林慶友ポニーリーグ」を立ち上げました。
当院には、肘や肩を故障をした野球少年がいっぱいやってきます。そういう子には「君の肩やひじは今故障しているから少し休養が必要だね」と言います。
子供や親にいろいろ聞いていくと結局、指導者が目先の勝利のために選手に長時間練習させて、試合でもたくさん投げさせているから、こんなに故障が多いのだということがよくわかります。指導者の意識を変えないことには解決しない、と思いました。
でも、お母さんに「こんなに練習したら、子供が壊れるからと監督に言ってくださいね」と言っても指導者に面と向かっては言えないんですね。
だから10年前に「慶友野球セミナー」をはじめて、指導者向けの講演をはじめました。でも聴きにやってくるのは、もともと理解のある人達だけです。本当に聴いてもらいたい人は来ない。
毎年セミナーを続けていると、スポーツ少年団の会長がたまたま聴いていてくれてその後に講習で話してくれないかという依頼がありました。年に2回講習会をして、県内の約800人いる学童野球指導者がどちらかの講演を必ず聴くということにしました。会長は全員に絶対聞いてほしいということで、指導者ライセンス制にしてくれました。講演を聴かないとベンチに入れないようになりました。
これで、多くの指導者に私の思いが伝わるようになりました。でも、話していると一部の指導者の視線が厳しいんですね。そのときは受講者が敵だらけに見えたのです。でも、障害のために投げられなくなった子どもたちを毎日のように診察していると、ここで私がひいてはいけない、悪いのはどっちだ、と言い聞かせて頑張ろうと思いました。わかってくれる人もいましたが、全員に浸透させるのは難しいと感じました。
これは、いつか見本となるチームを作るしかないと決心したのです。言ってもダメなら行動するしかないと至りました。
私達が設立した、根本的に子供に故障させないチーム、勝つためだけを目的としないチーム、短時間練習で長期的育成目標のチームがもしも勝ってしまったら、おもしろいだろう、と言う思いがありました。
我々のチームがポニーリーグを選んだのは、指導理念がしっかりしているからです。「目先の勝利」ではなく「子どもが主役」で「子どもの未来」を考えているからです。
総合的に考えれば、指導者や親の意識改革が一番重要でしょう。
指導者や親が「子どもたちを守る」ことを第一に考えるようになれば、究極に言えば「球数制限」なんてルール化は必要ありません。そう考えている大人ならば無理させることはありませんから。
でも、現実はほど遠く、そうなっていないから「球数制限」というルールを導入せざるを得ないということだと思います。(取材・写真:広尾晃)