野球漫画『MAJOR』の編集者である宮坂保志さんが神奈川県川崎市宮前区の少年野球チーム『水沢ライナーズ』で行った画期的な改革。子どもの野球人口減少の要因の一つと考えられる“悪しき慣習”を取り払い、チームの再建に成功したのは約5年前。今回は改革をサポートした岩崎正人部長と中尾幸靖マネージャーにお話を伺い、試合を行うことすらままならなかった状況から部員が増えた要因をシリーズで聞いていきます。今回は2つ目の改革、「子どもの身体を守るための取り組み」についてお話を伺いました。
――水沢ライナーズは子どもの身体を思いやる取り組みが目立ちます。その中でもとりわけ目立つのが”ある機器”と“ある防具”です。
岩崎 「AED(自動体外式除細動器)」と子どもたちが付けている「胸部保護パッド」ですね。これも元監督の宮坂さんが監督に就任されてから導入したものです。宮阪さんは野球に関する知識が豊富な方なので“野球の危険さ”を他人より理解していました。
――過去に「野球のボールが胸に当たり心臓震とうを起こした高校生がAEDで救命された」という報道もありましたね
岩崎 ボールが身体に当たった時の衝撃は大きいですから。ましてや幼い子どもは胸郭がやわらかく、衝撃が心臓に伝わりやすいので危険性は増します。保護パッドがあっても守り切れない可能性もあるので、AEDは必要だと思います。今ではグラウンドや公園に設置されることも増えましたが、河川敷のグラウンドでは近くにないケースがほとんどですから。探している間に容態が急変してしまう恐れもあるので、思い切ってチームで購入することを決めました。
――AEDをリースする企業もあるようですが、チームで購入したわけですね。ちなみに値段はおいくらだったのでしょうか?
中尾 確か30万円くらいしましたね。レンタルもありますが、長年使うことを前提にトータルで計算をすると購入した方が安いケースもありますよ。
――30万円という大金はどのように捻出したのでしょうか?
岩崎 少しづつ蓄えた部費から捻出しました。ただ、改革の時はチームの存続すら危ぶまれていたので「そんな高価なモノを買うのが正しいのか?」という議論もありました。ただ、最終的に子どもたちの命を思う気持ちの方が強かったです。
中尾 幸いまだ使ったことはありませんが、購入することで子どもたちの身体を守る意識が強くなりましたね。AEDの講習もチームに関わる大人全員が受けました。
岩崎 代が変わるとまた使い方がわからない親御さんが入ってくるので定期的に講習会を受けなくてはなりません。練習や試合だけではなく、チームとして地域の行事に参加するときも常に当番の人が持ち歩いています。チームでAEDを所持しているのは確かにあまり聞きませんね。
――ほかにも子どもの身体を考えて球数制限を導入したと聞いていますが。
岩崎 これも宮阪さんの発案で始めました。5、6年生は1日70球。それより下の子どもは1日50球。連投をさせることもありません。ただ、ライナーズが始めた頃は他チームはまだ行っていませんでしたから、エースの子が投げていて途中までいい試合をしても、力の劣ってしまう子どもが投げて負けてしまうこともありました。宮前区でも今年(春季大会)から投球制限を始めました。
中尾 「なんでエースの子をずっと投げさせないのか?」という保護者の声も最初はありました。あと、うちは捕手が投手にボールを返すのも「球数」にカウントしているので、捕手の子が試合途中でマウンドに上がるといった少年野球でよくある光景もありません。
岩崎 少年野球は上手い子が投手と捕手をやりますから。でも、捕手も投げていることには変わりないですからね。
――実際に球数制限をして子どもたちのケガは減りましたか?
岩崎 う~ん、実はそこは難しいところで、気をつけていてもケガというのは起きてしまいます。私たちが子どもの頃と今の子どもたちはまず基礎体力が昔と違います。昔は運動能力の高い子ばかりが集まって野球を行っていましたが今はそうではありません。平日は家でゲームをして、土日だけ野球をやる子どもが年々増えています。そうなると基礎体力がないものですから、普通の練習をしていてもケガをしてしまう子もいます。
中尾 うちのチームには(接骨院を営む)岩崎さんという身体の専門家がいますので、子どもの異変というものへの気づきは速いかと思います。
岩崎 身体のケアについて細心の注意はしていますが、ただ、グラウンド以外に関しては各家庭に委ねるしかありません。満足な睡眠を取ることもスポーツをする上で重要ですし、練習がある日にはちゃんと朝食を取らなければ力はでません。これから暑くなる時期では特に熱中症対策としてそういった点に注意をしていかなければいけないですね。(取材・細川良介/写真・編集部)
次回「水沢ライナーズが行なった4つの改革(その3)|結果ではなく子どもの成長を優先」に続きます。
――水沢ライナーズは子どもの身体を思いやる取り組みが目立ちます。その中でもとりわけ目立つのが”ある機器”と“ある防具”です。
岩崎 「AED(自動体外式除細動器)」と子どもたちが付けている「胸部保護パッド」ですね。これも元監督の宮坂さんが監督に就任されてから導入したものです。宮阪さんは野球に関する知識が豊富な方なので“野球の危険さ”を他人より理解していました。
――過去に「野球のボールが胸に当たり心臓震とうを起こした高校生がAEDで救命された」という報道もありましたね
岩崎 ボールが身体に当たった時の衝撃は大きいですから。ましてや幼い子どもは胸郭がやわらかく、衝撃が心臓に伝わりやすいので危険性は増します。保護パッドがあっても守り切れない可能性もあるので、AEDは必要だと思います。今ではグラウンドや公園に設置されることも増えましたが、河川敷のグラウンドでは近くにないケースがほとんどですから。探している間に容態が急変してしまう恐れもあるので、思い切ってチームで購入することを決めました。
――AEDをリースする企業もあるようですが、チームで購入したわけですね。ちなみに値段はおいくらだったのでしょうか?
中尾 確か30万円くらいしましたね。レンタルもありますが、長年使うことを前提にトータルで計算をすると購入した方が安いケースもありますよ。
――30万円という大金はどのように捻出したのでしょうか?
岩崎 少しづつ蓄えた部費から捻出しました。ただ、改革の時はチームの存続すら危ぶまれていたので「そんな高価なモノを買うのが正しいのか?」という議論もありました。ただ、最終的に子どもたちの命を思う気持ちの方が強かったです。
中尾 幸いまだ使ったことはありませんが、購入することで子どもたちの身体を守る意識が強くなりましたね。AEDの講習もチームに関わる大人全員が受けました。
岩崎 代が変わるとまた使い方がわからない親御さんが入ってくるので定期的に講習会を受けなくてはなりません。練習や試合だけではなく、チームとして地域の行事に参加するときも常に当番の人が持ち歩いています。チームでAEDを所持しているのは確かにあまり聞きませんね。
――ほかにも子どもの身体を考えて球数制限を導入したと聞いていますが。
岩崎 これも宮阪さんの発案で始めました。5、6年生は1日70球。それより下の子どもは1日50球。連投をさせることもありません。ただ、ライナーズが始めた頃は他チームはまだ行っていませんでしたから、エースの子が投げていて途中までいい試合をしても、力の劣ってしまう子どもが投げて負けてしまうこともありました。宮前区でも今年(春季大会)から投球制限を始めました。
中尾 「なんでエースの子をずっと投げさせないのか?」という保護者の声も最初はありました。あと、うちは捕手が投手にボールを返すのも「球数」にカウントしているので、捕手の子が試合途中でマウンドに上がるといった少年野球でよくある光景もありません。
岩崎 少年野球は上手い子が投手と捕手をやりますから。でも、捕手も投げていることには変わりないですからね。
――実際に球数制限をして子どもたちのケガは減りましたか?
岩崎 う~ん、実はそこは難しいところで、気をつけていてもケガというのは起きてしまいます。私たちが子どもの頃と今の子どもたちはまず基礎体力が昔と違います。昔は運動能力の高い子ばかりが集まって野球を行っていましたが今はそうではありません。平日は家でゲームをして、土日だけ野球をやる子どもが年々増えています。そうなると基礎体力がないものですから、普通の練習をしていてもケガをしてしまう子もいます。
中尾 うちのチームには(接骨院を営む)岩崎さんという身体の専門家がいますので、子どもの異変というものへの気づきは速いかと思います。
岩崎 身体のケアについて細心の注意はしていますが、ただ、グラウンド以外に関しては各家庭に委ねるしかありません。満足な睡眠を取ることもスポーツをする上で重要ですし、練習がある日にはちゃんと朝食を取らなければ力はでません。これから暑くなる時期では特に熱中症対策としてそういった点に注意をしていかなければいけないですね。(取材・細川良介/写真・編集部)
次回「水沢ライナーズが行なった4つの改革(その3)|結果ではなく子どもの成長を優先」に続きます。