■野球で『デュアルタスク』が求められるプレー
大まかに言えばどんなプレーもある程度の知的判断が伴うとは思うのですが、知的判断によって大きく行動が異なる、つまり『デュアルタスク』がより要求されるのは「走塁」だと思います。
例えば「2アウト走者2塁」の場面で打席に立ったとします。そこでセンター前にヒットを放ちました。ここで状況判断を行うために必要な情報は「(A)打球の速度」「(B)中堅手の送球の角度」です。
(A)打球の速度
ここで放った打球の速度が速くて2塁走者が3塁ベースを回る前に中堅手が補球した場合、本塁に生還できる可能性は低いので、打者走者も一塁までしか進塁できない可能性が高いです。しかし打球が遅ければ本塁生還を狙った走者を刺すために中堅手は本塁への送球を試みる可能性が高まり、送球の間に打者走者が2塁を陥れることができる可能性が出てきます。
(B)中堅手の送球の角度
本塁生還を狙った2塁走者を刺すために中堅手が送球を試みた時、その送球が低い角度で返球された場合には内野手にカットされる可能性が高くなります。打者走者は安易に2塁を狙うと封殺される可能性がありますが、送球の角度が高い場合には本塁送球の間に2塁を陥れることができる可能性が高くなります。
これらの状況判断をランナーコーチャーからの指示よりも早く、正確にできれば2塁に進塁できる可能性が高くなり、その選手は「走塁が上手い選手」という評価を得ることになります。
■『デュアルタスク』を遂行するために必要なこと
私は野球選手が『デュアルタスク』を遂行するためには2つの要素が必要だと思います。
(1)2つ以上のオプションを常に持つこと
前述の例の場合、「センター前ヒットは1塁までしか行けない」と思っている選手は相手がエラーでもしない限り2塁まで進塁することはできません。「2塁を狙う場合もある」ということが頭に入っていることが最低限の条件となります。
(2)オプションを選択する「基準」を持つこと
通常、センター前ヒットで2塁を狙うことは非常に難しいです。しかし「走者2塁」「本塁に送球する可能性が高い」「内野手にカットされる可能性が低い」という判断ができれば、その選手は躊躇なく2塁を狙うことができます。
野球には「作戦に対して忠実に行動する場面」と「瞬時に自分が判断してプレーしなければならない場面」があります。後者には必ず「状況判断」と「状況判断に基づいた行動」を瞬時に行う必要があります。野球に限らず「自らが判断し、指示待ちにならず主体的に行動できる人」に成長するためにも『デュアルタスク』に取り組むことは必要なのではないかと思います。
「廣川さん」プロフィール
廣川寿(ひろかわ ひさし)1969年生まれ。愛媛県出身。全国約7,000人の野球指導者及び保護者から絶大な支持を得ているFacebookページ「少年野球指導者のひとり言」管理人。
【球歴】
えひめ西(現松山)、リトルリーグ、愛媛県立松山北高等学校、甲南大学(阪神大学野球連盟)、リクルート(社会人野球東京支部)
【受賞歴】
■リトルリーグ
-四国大会優勝
■高校野球
-愛媛県中予地区新人戦優勝
-秋季愛媛県大会準優勝(四国大会出場)
-第59回選抜高等学校野球大会出場
■大学野球
-阪神大学野球連盟2部リーグ最優秀投手賞
(→1部昇格)
-阪神大学野球連盟特別賞(3度)
・1試合最多奪三振記録樹立(18個/当時)
・通算最多奪三振記録樹立(351個/当時)
・通算最多登板記録樹立(57試合/当時)
-学生日本代表候補選手選出 など
【野球指導歴】
-学童野球コーチ
-中学硬式野球チームコーチ・監督
-その他高校・社会人野球臨時コーチなど多数。