日本野球が伸び悩むのは、過酷な長時間練習で故障してしまう子が多いこと、そうした練習で子どもの発育に影響が出る可能性があることに加えて、「子どものころから大人の野球をしすぎる」ことも原因だ。
アメリカで生まれたリトルリーグでは、小学校のレベルでは離塁がなく実質的に盗塁がない。当然牽制球もないし、厳密なセットポジションのルールもない。バントもほとんどない。子どもたちは打って、投げて、走って、シンプルに野球を楽しむ。大人が変化球を教えることもない。これがアメリカのスタイルだ。
しかしボーイズリーグ(小学部)は6回制であることと、ダイヤモンドが小型である以外は、大人のルールがほぼ適用される。盗塁も振り逃げもある。
そもそもボーイズリーグは、リトルリーグの「お子様向けルール」を飽き足らなく思った南海ホークスの大監督鶴岡一人氏らが、リトルリーグから独立して、大人のルールに近い少年野球を創設したものだ。
この成功の後、リトルリーグから分かれたリトルシニアもほぼ同じルールで少年硬式野球を普及させた。
またボーイズリーグからはヤングリーグも派生した。この3つのリーグが少年硬式野球人口の大半を占める。
これらのリーグは、日本の野球のすそ野を広げるうえで、大きな貢献をしてきた。しかし、その野球のスタイルは、少年野球の国際化が進展する中で、世界標準からかけ離れたものであることが、明らかになってきた。
ボーイズ、リトルシニア、ヤングなど、日本の少年硬式野球では、指導者の高齢化が表面化している。
ベテラン指導者の中にも、最新の野球指導書、コーチング論を学んでいる人もいるが、一方で自分たちが教わった「昭和の野球」をそのまま教えている人もいる。「昭和の野球」とは、「つなぐ野球」だ。子どもたちには「ボールをよく見ていけ」という。そしてバットを振り回さず「当てていけ」という。走者が出ればバントを使う。盗塁もさせる。また投手には変化球も教える。良い部分もあるが、世界の少年野球の傾向から比べるとかなり異質だ。
こうした日本流の「小さな野球」は小中学校のレベルでは世界で強みを発揮する。そもそも打って、走って、投げるだけの他国にはそういう発想がないのだから。
結果として日本は勝つが、他の国の指導者は小さいころからそんな野球をやっていても、打つ、投げる、走るなどの基本的な能力がしっかり伸びないし、スポーツマンシップに照らしてもよいとは思えないから、日本の野球を真似しようとはしない。
海外の指導者は「何のために子どもに野球を教えているのか」をはっきり理解している。それは「大人になった時に立派なスポーツマン、立派な野球選手になってほしいから」なのだ。だから、小手先の技ではなく、ベーシックな野球の能力をしっかり身につけさせようとする。そして体を大きく成長させ、怪我をさせないために練習時間や内容に注意を払うのだ。
しかし日本の指導者は「目の前の勝利を追いかける」ことを第一に考えている。そのために、今行われている試合で、あらゆる手を使って勝とうとする。
そこにも理屈はある。「勝利に対する執念をもつこと」そして「苦しみに耐えて頑張ること」は、精神力を鍛え、人間を強くすると考えているのだ。
苦しい練習も、自己を犠牲にしてつなぐ野球に徹するのも、せんじ詰めれば「精神を磨く」という観念論に集約されるのだ。
しかし、日本的な指導法は、精神力は鍛えられたとしても、他の「野球をする能力」を身につけさせる上では、他の国に比べて効率が悪いし、効果的でもない。怪我や故障のリスクも高い。
そのために、成人に近くなると、だんだん野球の基本的な能力で、他の国に見劣りするようになるのだ。
減少したとはいえ、日本は4000校弱、15万人近くの高校生が野球に打ち込む、屈指の野球大国だ。そこから勝ち抜いてきた代表選手のレベルは極めて高いはずだ。
すそ野の大きさだけで言えば、全国に80校しか硬式野球部がない韓国や、200校の台湾に負けるはずがないのだ。
それが負けてしまうのは、金属バットなどのハンディキャップもあるが、それとともに野球に対する考え方が世界標準と乖離し始めているからだ、と考えるべきなのだ。
野球の競技人口は、減少しつつあるが、まだメジャースポーツであるうちに野球の指導法を根本的に見直して、「未来につながる野球」を志向すべきだ。(広尾晃)
■「大人のルール」を導入したボーイズリーグ
アメリカで生まれたリトルリーグでは、小学校のレベルでは離塁がなく実質的に盗塁がない。当然牽制球もないし、厳密なセットポジションのルールもない。バントもほとんどない。子どもたちは打って、投げて、走って、シンプルに野球を楽しむ。大人が変化球を教えることもない。これがアメリカのスタイルだ。
しかしボーイズリーグ(小学部)は6回制であることと、ダイヤモンドが小型である以外は、大人のルールがほぼ適用される。盗塁も振り逃げもある。
そもそもボーイズリーグは、リトルリーグの「お子様向けルール」を飽き足らなく思った南海ホークスの大監督鶴岡一人氏らが、リトルリーグから独立して、大人のルールに近い少年野球を創設したものだ。
この成功の後、リトルリーグから分かれたリトルシニアもほぼ同じルールで少年硬式野球を普及させた。
またボーイズリーグからはヤングリーグも派生した。この3つのリーグが少年硬式野球人口の大半を占める。
これらのリーグは、日本の野球のすそ野を広げるうえで、大きな貢献をしてきた。しかし、その野球のスタイルは、少年野球の国際化が進展する中で、世界標準からかけ離れたものであることが、明らかになってきた。
■世界の野球は日本を真似しない
ボーイズ、リトルシニア、ヤングなど、日本の少年硬式野球では、指導者の高齢化が表面化している。
ベテラン指導者の中にも、最新の野球指導書、コーチング論を学んでいる人もいるが、一方で自分たちが教わった「昭和の野球」をそのまま教えている人もいる。「昭和の野球」とは、「つなぐ野球」だ。子どもたちには「ボールをよく見ていけ」という。そしてバットを振り回さず「当てていけ」という。走者が出ればバントを使う。盗塁もさせる。また投手には変化球も教える。良い部分もあるが、世界の少年野球の傾向から比べるとかなり異質だ。
こうした日本流の「小さな野球」は小中学校のレベルでは世界で強みを発揮する。そもそも打って、走って、投げるだけの他国にはそういう発想がないのだから。
結果として日本は勝つが、他の国の指導者は小さいころからそんな野球をやっていても、打つ、投げる、走るなどの基本的な能力がしっかり伸びないし、スポーツマンシップに照らしてもよいとは思えないから、日本の野球を真似しようとはしない。
■何のために野球を教えているのか
海外の指導者は「何のために子どもに野球を教えているのか」をはっきり理解している。それは「大人になった時に立派なスポーツマン、立派な野球選手になってほしいから」なのだ。だから、小手先の技ではなく、ベーシックな野球の能力をしっかり身につけさせようとする。そして体を大きく成長させ、怪我をさせないために練習時間や内容に注意を払うのだ。
しかし日本の指導者は「目の前の勝利を追いかける」ことを第一に考えている。そのために、今行われている試合で、あらゆる手を使って勝とうとする。
そこにも理屈はある。「勝利に対する執念をもつこと」そして「苦しみに耐えて頑張ること」は、精神力を鍛え、人間を強くすると考えているのだ。
苦しい練習も、自己を犠牲にしてつなぐ野球に徹するのも、せんじ詰めれば「精神を磨く」という観念論に集約されるのだ。
しかし、日本的な指導法は、精神力は鍛えられたとしても、他の「野球をする能力」を身につけさせる上では、他の国に比べて効率が悪いし、効果的でもない。怪我や故障のリスクも高い。
そのために、成人に近くなると、だんだん野球の基本的な能力で、他の国に見劣りするようになるのだ。
■なぜ日本の高校が世界で勝てないのか?
減少したとはいえ、日本は4000校弱、15万人近くの高校生が野球に打ち込む、屈指の野球大国だ。そこから勝ち抜いてきた代表選手のレベルは極めて高いはずだ。
すそ野の大きさだけで言えば、全国に80校しか硬式野球部がない韓国や、200校の台湾に負けるはずがないのだ。
それが負けてしまうのは、金属バットなどのハンディキャップもあるが、それとともに野球に対する考え方が世界標準と乖離し始めているからだ、と考えるべきなのだ。
野球の競技人口は、減少しつつあるが、まだメジャースポーツであるうちに野球の指導法を根本的に見直して、「未来につながる野球」を志向すべきだ。(広尾晃)