■コーチングの基本はポジティブ
『足し算のコーチング』でも触れましたが、コーチングの基本的な感情はポジティブである必要があります。ポジティブシンキングということは、『何々したい』という成功が前提にあります。一方でネガティブシンキングは『何々してはいけない』という失敗が前提になるんですね。日本ではどうしてもこの失敗が前提になっていることが多いです。
これはスポーツに限らず子育てでもそうです。日本の場合は大人に怒られないようにという考え方、アメリカでは大人に褒められようという考え方が多いです。例えば子どもが外に出て一人で街を歩くとします。車にひかれないようにと思う親の気持ちは同じです。こういう時に日本は「道路に飛び出したらダメだよ」と言うことが多いと思いますが、アメリカでは「道路を渡る時は左右をしっかり見るようにね」と言うことが多いです。一方は行動を禁止している、一方は行動を促しているということがよく分かりますよね。
野球でも同じような例があります。例えば高めのボールが速いピッチャーで、そこを打ってしまうとアウトになる確率が高いというデータがあります。そういう時に日本では「高めのボールに手を出すな」と指示することが多い。そうするとどうなるか? 選手は逆に高めのボールに手が出たり、中途半端なスイングになることが多くなります。そうではなくて、「低めのボールを狙え」と言われたらどうでしょう? 選手は前向きになりますよね。このように考え方を『してほしくない』ではなく『してほしい』という風に変えて、それにあった言葉遣いを選ぶだけで大きく変わってくると思います。(取材:西尾典文)
次回「『楽しい!』という経験がその後の努力に繋がる」に続きます。
立花龍司さんプロフィール
1964年生まれ。大阪府出身。浪商高校(現大体大浪商)、大阪商業大でプレーし、大学時に学生コーチに転向。天理大でスポーツ医学の単位を取得し、1989年に近鉄バファローズのトレーニングコーチに就任。その後ロッテ、ニューヨーク・メッツ、楽天でもコーチを務めた。筑波大学大学院修士課程修了。筑波大学野球研究班研究員、日本野球科学研究会会員。
2001年より大阪堺市阪堺病院内SCA(ストレングス&コンディショニングジム)を設立主宰。現在は大阪と千葉で『タチリュウジム』を開設して後進の指導に当たりながら、全国各地で講演活動も行い、note(https://note.mu/tachiryu89)でもこれまでの経験をもとに様々なことをテーマに発信している。