■ジュニア育成「2つの方針」
野球界を見ると、小中学生のチームが一つになり、普及育成活動をすることは簡単なことではありません。実施できたとしても熟考を重ねることが多く、軟式・硬式の違いや、連盟の違いなどもあり複雑です。ラグビーのこのスピード感に驚かされますが「競技人口が少ないからできるんだと思います」と川合さん。コンタクトスポーツであるラグビーは周りの大人たちが「子どもの安全を守る」というところに最大の軸を置いています。指導者の考えにも、野球とは根本的な違いがあるようです。
川合さん「ラグビーは大人がやるプレーと、子どもがやるプレーはルールが違うんです。小学2年生以下はタックル禁止で、タグをつけてする『タグラグビー』から全体のゲーム構造を教えます。コンタクトできるのは3年生からで、そこからプレーの人数が少しずつ増えていきます。大人と同じ15人でラグビーをするのは高校生からです。指導者には『子どもたちの身体の安全が第一』という大前提があるため『勝利は目指すけど、何が何でも勝つ』というテンションではありません。またラグビーは競技人口が少ないので、ラグビーを好きになってくれた子を辞めさせたくないという思いもあります。よって、指導者も選手を選抜していくというというよりは、下記の2つを心がけています。
(1) 何かいいところが1個でもあったら、その長所を褒めて伸ばし、ラグビーを大好きにさせる。
(2)ラグビーをやめさせない。
ラグビーはコンタクトがあるので、プレーヤーの完成時期が晩熟型のスポーツです。子どものときの活躍や能力はあてになりません。身体の成長などでガラッとプレーパフォーマンスが変わるからです。ですので小学生、中学生の頃にあまり活躍できていないプレーヤーには自分の可能性に限界を感じさせないような言葉がけや配慮が必要になります」
あるポジションで能力が高くても、他のポジションだとレギュラーになれないことがあるラグビー。「いい意味で、いろんな種類の能力を持ったプレーヤーが必要なので、誰でも、何かしらのポジションにはまるんですよね」。指導者には子どもの長所を見抜く力が必要だと続けます。太っている子どもがいたり、足の速い子どもがいたり。ラグビー日本代表を見てもわかるように、身長体重はバラバラです。ただチームにはポジションに合わせて役割があるので、「まずは自分に与えられた役割を全うするということに集中する」という意識が芽生えるそうです。「体格が小さい子どもでも、将来は体格や能力は変わる。だから、全員にすべてのスキルをまんべんなく教えることが指導者に求められる。それが育成時代のラグビー指導者の役割なのです。」と力説します。
後編では、ライセンスに基づいた「指導ポリシー」についてお話していただきます。(取材・写真:樫本ゆき)
プロフィール
川合レオ(かわい・れお)一般社団法人ラグビーパークジャパン代表理事/メインコーチ
1974年、神奈川県生まれ。45歳。玉川学園高等部から玉川大学でセンターとして活躍。大学3年のときにニュージーランドに1年留学。卒業後、NECグリーンロケッツに入部。日本代表としてフランス、アイルランド遠征に参加(キャップ1)。2002年日本選手権優勝。2003年社会人大会優勝後、引退。筑波大学大学院体育研究科卒。2010年よりJRFU普及育成委員会コーチング部門長として現在に至る。