そして今回のセミナーではそんな立花さんが、巧緻性を高めるために新たに開発したという『野球太極拳』が披露された。太極拳と言うと、中国の公園で高齢者がゆったりとした動きで行うラジオ体操のようなものをイメージするかもしれないが、今回野球とコラボしたのはあくまで武術としての太極拳である。
講師を務めるのは2010年のアジア大会で銀メダルも獲得している、日本の武術太極拳のトップとして活躍してきた市来崎大祐さんだ。市川シニアの選手の前でまずは演技のデモンストレーションが行われたが、アクションスターさながらの動きに大きな拍手が起こった。特に圧倒されるのがその動きのキレとしなやかさだ。野球のトップ選手も力強さだけでなく、柔らかさ、しなやかさを兼ね備えているが、まさにその点は太極拳も野球も共通しており、立花さんが目をつけこともよく理解できた。
選手への指導で最初に行ったのがストレッチだったが、その時も市来崎さんが意識して声をかけていたのが目で見た動きを考えて同じ姿勢をとること。市来崎さんとは柔軟性が違うため選手は全く同じ姿勢をとることはできず、理解することも難しいケースもあったが、そのことに対してもしっかり頭を使って考えて再現するような声がよく聞かれた。ただ柔軟性を高めるだけでなく、まさに巧緻性を高めるうえでもプラスになることは間違いないだろう。
後編では野球太極拳の具体的な動きについて紹介します。
(取材・文/写真:西尾典文)
立花龍司さんプロフィール
1964年生まれ。大阪府出身。浪商高校(現大体大浪商)、大阪商業大でプレーし、大学時に学生コーチに転向。天理大でスポーツ医学の単位を取得し、1989年に近鉄バファローズのトレーニングコーチに就任。その後ロッテ、ニューヨーク・メッツ、楽天でもコーチを務めた。現在は大阪と千葉で『タチリュウジム』を開設して後進の指導に当たりながら、全国各地で講演活動も行い、note(https://note.mu/tachiryu89)でもこれまでの経験をもとに様々なことをテーマに発信している。筑波大学大学院修士課程修了、阪堺病院内SCA主宰、日本野球科学研究会会員、筑波大学野球研究班研究員。
市来崎大祐さんプロフィール
1987年生まれ。大阪府出身。6歳より武術を始めると14歳で武術太極拳のジュニア代表に選出され、17歳で日本チャンピオンに。高校卒業後は大阪体育大に進学し、2010年のアジア大会では銀メダルを獲得するなどの実績を持つ。現在は普及活動のために全国各地でイベントや演武活動を行い、活躍の場を広げている。