■「野球教室」の腕前も抜群の新潟医療福祉大学
室内練習場では、新潟医療福祉大学および県内高校の硬式野球部員が、小学生に野球の基本を教える「野球教室」を行っていた。
新潟医療福祉大学は、歴史は浅いが中日の笠原祥太郎投手を輩出するなど近年実力うなぎのぼりの大学だ。しかしこの大学で注目すべきは競技だけではない。選手たちは、野球指導者になるための座学やトレーニングもしっかり受けているのだ。
多くの大学では子どもへの「野球教室」は、競技の「余技」だが、新潟医療福祉大学では「子どもへの指導、普及活動」も大事な「本業」なのだ。
選手たちは子どもたちの目線で一つ一つのステップを丁寧に指導していく。「◯◯しなさい」という命令口調ではなく、「さあ、やってみよう」という呼びかけ口調で、子どもたちをのせていた。子どもたちに野球を教える経験は選手自身の成長にもつながる。
また会場では付添の保護者に、同大学総監督の佐藤和也教授がトレーニングの意図、目的を説明していた。
ウォームアップからキャッチボールの仕方、ポジション別の守備の基本などがしっかり教えられていた。
子どもたちは笑顔を見せながら、次々とカリキュラムをこなしていたが、この日の教室で野球への理解は飛躍的に上がったはずだ。
■「新潟モデル」を全国に
ベースボールフェスタには2日間で1500人の子どもが参加した。
このイベントは、子どもを野球障害から守るだけでなく、新潟県の野球界が一体となってともに未来を考える機運を醸成する機会になっていると感じられた。
様々な経緯を経て、昨年末、新潟県高野連は翌年4月の県大会での「球数制限」の試験的導入を打ち出した。これがきっかけとなって日本高野連は「投手の障害予防に関する有識者会議」を開催するに至るのだ。
ベースボールフェスタ1日目のイベントの終了後、関係者を対象にこの有識者会議のメンバーだった東京明日佳病院の渡邉幹彦院長による講演が行われたが、渡邉院長は新潟県の取り組みを「新潟モデル」と呼び、このやり方を全国に広めていくべきだと訴えた。
新潟県の取り組みから見えてくるのは「野球離れ」が深刻になる中、必要なのは「野球界が一体となって『野球の未来』を考える」ということだ。
「私たちのゴールは野球人口を増やすことではなく、今この多様な時代に野球を選んでくれた子どもたちを大切に育て、野球を通じて大きく成長してくれるように医科学の面からサポートすることです。」
山本医師は強調する。野球手帳は今まで繋がらなかった野球現場と医療を繋ぎ、野球の未来を開く架け橋になるかもしれない。(取材・文/写真:濱岡章文)