■スポーツの持つ本来の意味
最後に高橋監督に監督をしていてもっとも印象深かったことを聞いてみました。
「数年前、6年生が10人いて最後の試合を迎えたんです。うちはポジションも打順もすべて子ども達が決めるのですがキャッチャーがいつも決まらないんです、人気がなくて(笑)。するとある子が『最後の試合だからオレがやる』と率先して手を挙げてくれました。また、どうしても一人はベンチになるのですが、ある子が『自分が1番練習を休んだからベンチでいいよ』と言ったんです。そしたらセカンドの子が『だったら途中で自分と代わろう』と言ってくれて。ずっと大事にしてきた『競争よりも協力』ということを子ども達が実践してくれましてね。それが指導者をやっていて一番印象深かったですね」
『あのプロ野球選手の小学生時代』(花田雪/宝島社)という本があります。その中で柳田悠岐選手(福岡ソフトバンクホークス)は少年野球の指導者に向けてこう言っています。
「一番は、子どもたちを笑顔にさせてくださいということですね。子どもたちがいかに野球を楽しめる環境を作るか。『教える』というより『サポートする』くらいのほうが、少年野球には合っていると思います。野球が楽しければ、自然とうまくなりたいと思うようになって、勝手にいろいろ聞いてくると思うんですよね。教えるのはその時でいい。少年野球の指導者と子どもの関係性って、そのくらいがちょうどいいのかなと思います」
柳田選手はまた「小学生のころは、怒られた記憶がない」「試合でミスをしても何かを言われたことはなかった」とも語っています。柳田選手の小学生時代に所属した少年野球チーム(西風五月が丘少年野球クラブ)もまた「選手に野球を好きになってもらう」ことを大前提に活動しているチームだったそうです。
スポーツという言葉の本来の意味は「気晴らしや遊び、楽しみ、休養」です。
少子化の8倍のスピードで少年野球人口が減少している現在、スポーツが本来持つ意味について、少年野球の現場はもう一度考えてみる必要はないでしょうか?
熊谷ドリームスの子ども達の笑顔を見ていると、そんなことを思わずにいられませんでした。
【取材後日談】
取材原稿を高橋監督にチェックしてもらった数日後、「どうしても載せて欲しいことがある」と連絡をいただきました。
高橋監督のお人柄がよく表れているので、追加で頂いた文面をそのまま掲載させていただきます。
「熊谷ドリームスの自慢、それは今ここにいる子ども達はもちろんですが卒団していった全ての子どもたちです。
それから人としてもコーチとしても心から信頼している森稔幸コーチ、齋藤彰宏コーチです。このお二人のおかげで今までチームを続けてくることができました。チームの自慢とともにとても感謝しています」
(取材・文・写真:永松欣也)