じっくり子供たちを育てたい
「都立や県立などの高校は、数年おきに転勤があります。いろんな経験ができるのも良いかもしれませんが、僕としては一つの野球部をじっくり指導したかった。奈良女子大附属は国立ですから基本的にありません。それに中高一貫なので、中学から6年かけて野球部を強くすることができる。そう思って試験を受けて採用されました」
どの地方でも同じだが、国立大学の付属高校はその地域屈指の進学校になる。奈良女子大附属も同様だ。偏差値はトップクラス。子供たちは勉強をするために入学している。
「去年のキャプテンは京都大学、その前の2人は神戸大学に進んでいます。彼らは塾にも行っていましたし探究活動なんかもやっている。僕の高校時代は野球漬けでしたから違うなあと思いました」
部活は平日は午後6時まで、しかも運動部活動のガイドラインに則り平日に1日、週末に1日オフを設けている。
「私立の強豪校のような練習はできないんですから、その真似をするのではなく効率的に練習しないといけません。時間を区切って5分ごとにティー、素振り、バッティングと移っていく。20分やるとなればだれてきますが、5分なら集中できます。時間管理をマネージャー中心にさせています。うちはグラウンドが広いので、いろんな場所を使って同時並行で練習できるんです」
山口兄が目指しているのは強くなることだけではない。
「そのうえで”野球ってこんなに面白いんや”と思ってほしいんです。
高校時代に野球で頑張っていた子でも、大学に行ったらやめてしまうケースが多いんです。僕は大学でも、そして一生野球を好きでいてほしいと思っています」
野球部の活動をさらに有意義なものに
部員は高校が6人、中学3年は11人いる。一時期は連合チームで大会に出場していたが、来年以降は単独で試合ができる。
「実力的にはまだまだですが、中学に硬式野球の経験があるいい選手がいるんです。中学部にも監督はいますが、僕が見ることができるので、この世代で強くしていきたいと思います」
新型コロナ禍で、昨年は奈良女子大附属も満足に練習ができなかった。
「1回目の緊急事態宣言の時は、練習はできなくなりましたので、その間はオンラインで打撃指導をしました。6月から再開しましたが、今年に入ってまた隣の大阪で緊急事態宣言が出たので、活動を縮小しています。
率直に言って、野球部の活動は重視されていません。少し練習時間が超過すると学校から『やりすぎじゃないか』と言われてしまう。部活に対しては理解があるとは言えないですね。僕としては部活の意義、重要性を理解してもらえるようにしたいし、子供たちの学校生活にも還元できるようにしたいです」(取材・文・写真:濱岡章文)
*新型コロナ禍で奮闘する指導者兄弟(下)に続きます。