「子どもを移籍させようか迷っています」そんな相談が最近ヤキュイクに多く届きます。「他の子よりも上手いのに試合に出してもらえない」「監督やコーチが好き嫌いで試合に出す子を決めている」など、その理由の多くは自分のお子さんが試合に出られないことにあるようです。
しかし、そのチームの監督、コーチの話も聞いてみないとお子さんが試合に出れていない本当の理由が分かりません。そのため編集部として適切なアドバイスをすることが難しい問題でもあります。
そこで今回は、子どもの移籍で悩む保護者の方に一冊の本を紹介します。昨年発売された『親がやったら、あかん! 80歳“おばちゃん”の野球チームに学ぶ、奇跡の子育て』(棚原安子/集英社)という本です。この本の中で、部員約140名の「山田西リトルウルフ」(大阪)を率いる“おばちゃん”こと棚原安子さんが、子どものチーム移籍について語られている章があります。出版社に特別に許可をいただき、その内容を紹介させていただきます。
ぜひ、参考にしてみてください。
多くの子どもたちを預かっていると、年に数回は保護者から「チームをやめようと思っています」という相談を受けます。理由は人それぞれなので、まずは話をしっかり聞いた上で私は「できるだけウルフで頑張れないか」と話をします。
やめたいと漏らすケースの多くは、試合に出られないことへの不満があります。
ウルフは団員数が多いため、どうしてもこの種の話が出てくるのです。ただ、本人より保護者が我慢できないケースもあります。「ウチの子もこれだけ頑張っているのに・・・・・・」という親心はわかりますが、時に保護者自身のプライドからものを言っているように感じることもあります。
私が何より大事にしているのは、子どもの気持ちです。本人が本音のところでどう思っているのか、ということです。
ある親子が「やめたい」と言ってきた時の話です。すでに他チームの見学にも行っていて、保護者の気持ちは固まっているようでした。それでも、私は本人に言いました。
「お前の人生なんやから、親に決めてもらうんやなくてお前が選んで決めろ。そうしたらおばちゃんはお前がチームを移っても、残るとなってもどっちも応援するから」
本人からはもっと試合に出たいという気持ちも伝わってきましたが、ウルフに対する愛着も口にし、迷っているようでした。試合に出たい気持ちはわかります。一方で試合に出られないなかでも、上を目指して努力することもまた大事なのです。
保護者のなかには「試合に出ることがこの子のため」と考える人もいます。たしかに試合経験を積むことで、選手は大きく成長します。しかし、悔しい思いを抱きつつもめげずに頑張ることも人間的な成長につながる貴重な経験になります。そのあたりを保護者が子どもにしっかり伝え、最後は本人が納得して結論を出す。決して保護者が誘導してはいけません。
別の親子が「やめたい」と言ってきた時は、こんな理由でした。チームや境遇に不満があるわけではなく、むしろ個人的な原因があり野球そのものをやめようか迷っていたのです。じつは本人と父親の間で「毎日100本の素振りをする」という約束をしていたのですが、子どもが段々と約束を守れなくなり、そこから野球自体も楽しくなくなっていった・・・・・・ということでした。そこで私はこう言いました。
「100本が無理なら、自分のやれる回数をもう一回、親に打ち出してみろ。これならできるという数を出して、もう一回約束をしてみろ」
するとその子は「50本ならできると思う」と言ったので、これを保護者に約束させました。そして「自分が決めたんやから、さぼらんな」と確認すると、その子は「はい」と答えました。無事、チームに残ることになったのです。はじめの「100本」という数がどんな流れで決まったのかはわかりませんが、再設定した「50本」のように自分で納得して決めた数なら、簡単には投げ出さないものです。やはりどんな決断でも子ども本人に決めさせることが大事だと思います。
チームをやめたいというケースでは、「チーム内でいじめられているのでやめたい」と相談を受けることもあります。保護者とすれば、心配になるのは当然です。
まず大事なのはその「いじめ」の程度です。子どもが心を深く痛めるほど深刻なものなら、私たちはいじめた子の問題に対処しながら、チームを離脱した方が本人のためになると判断することもあります。しかし、ウルフでは多くの大人で子どもを見ていて、活動日も基本は週末のみ。いじめがエスカレートする環境とは思えないため、深刻な状況ではないと判断すれば保護者にこんな話をします。
「これからはいつも以上に子どもさんのことを注意して見ていきますから、もう少し頑張ってみませんか?」
私自身、小学校から高校までいじめを受けてきた経験があり、そのつらさは身をもってわかっています。同時にいじめを乗り越えた時に、自分自身が本当に強くなれた経験もあります。
子どもは子どもの世界で、日々いろいろなものと戦っています。乗り越えられるなら、頑張って乗り越えさせてやりたい。そんな気持ちが私にはあります。それでも、大事なのはやはり本人の気持ちです。ここをきちっと確認します。
「おばちゃんもしっかり見ててやるから、もう少し頑張ってみるか? 頑張れるか?」
「あかんと思ったら言いに来たらええからな。どうや?」
不安を抱えている子どもにとって、事情をわかり、自分を見てくれている者がいるということは大きな安心材料です。そのことを本人にしっかり伝えて、本人が「頑張ってみる」と前向きな気持ちになれば、あとは周りの大人が全力で支えてやることです。
保護者とすれば気が気でないでしょう。子どもが悩み、困っている姿を見ればすぐに手を差しのべたくもなります。そこで子どもの話を聞き、アドバイスを送りながら手を差しのべたい気持ちを我慢することも時には必要です。親もつらいですが、子どもが直面している困難な状況からすぐに離すのではなく、見守りながら、親も一緒に戦うのです。大きな壁を子どもが乗り越えた時には、親子ともども強くなっているはずです。
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「親がやったら、あかん! 80歳“おばちゃん”の野球チームに学ぶ、奇跡の子育て」(棚原安子/集英社)より
しかし、そのチームの監督、コーチの話も聞いてみないとお子さんが試合に出れていない本当の理由が分かりません。そのため編集部として適切なアドバイスをすることが難しい問題でもあります。
そこで今回は、子どもの移籍で悩む保護者の方に一冊の本を紹介します。昨年発売された『親がやったら、あかん! 80歳“おばちゃん”の野球チームに学ぶ、奇跡の子育て』(棚原安子/集英社)という本です。この本の中で、部員約140名の「山田西リトルウルフ」(大阪)を率いる“おばちゃん”こと棚原安子さんが、子どものチーム移籍について語られている章があります。出版社に特別に許可をいただき、その内容を紹介させていただきます。
ぜひ、参考にしてみてください。
【親が先回りしてもろくなことにならない】
子どもに悩ませ、自分で決めさせるべし
多くの子どもたちを預かっていると、年に数回は保護者から「チームをやめようと思っています」という相談を受けます。理由は人それぞれなので、まずは話をしっかり聞いた上で私は「できるだけウルフで頑張れないか」と話をします。
やめたいと漏らすケースの多くは、試合に出られないことへの不満があります。
ウルフは団員数が多いため、どうしてもこの種の話が出てくるのです。ただ、本人より保護者が我慢できないケースもあります。「ウチの子もこれだけ頑張っているのに・・・・・・」という親心はわかりますが、時に保護者自身のプライドからものを言っているように感じることもあります。
私が何より大事にしているのは、子どもの気持ちです。本人が本音のところでどう思っているのか、ということです。
ある親子が「やめたい」と言ってきた時の話です。すでに他チームの見学にも行っていて、保護者の気持ちは固まっているようでした。それでも、私は本人に言いました。
「お前の人生なんやから、親に決めてもらうんやなくてお前が選んで決めろ。そうしたらおばちゃんはお前がチームを移っても、残るとなってもどっちも応援するから」
本人からはもっと試合に出たいという気持ちも伝わってきましたが、ウルフに対する愛着も口にし、迷っているようでした。試合に出たい気持ちはわかります。一方で試合に出られないなかでも、上を目指して努力することもまた大事なのです。
保護者のなかには「試合に出ることがこの子のため」と考える人もいます。たしかに試合経験を積むことで、選手は大きく成長します。しかし、悔しい思いを抱きつつもめげずに頑張ることも人間的な成長につながる貴重な経験になります。そのあたりを保護者が子どもにしっかり伝え、最後は本人が納得して結論を出す。決して保護者が誘導してはいけません。
別の親子が「やめたい」と言ってきた時は、こんな理由でした。チームや境遇に不満があるわけではなく、むしろ個人的な原因があり野球そのものをやめようか迷っていたのです。じつは本人と父親の間で「毎日100本の素振りをする」という約束をしていたのですが、子どもが段々と約束を守れなくなり、そこから野球自体も楽しくなくなっていった・・・・・・ということでした。そこで私はこう言いました。
「100本が無理なら、自分のやれる回数をもう一回、親に打ち出してみろ。これならできるという数を出して、もう一回約束をしてみろ」
するとその子は「50本ならできると思う」と言ったので、これを保護者に約束させました。そして「自分が決めたんやから、さぼらんな」と確認すると、その子は「はい」と答えました。無事、チームに残ることになったのです。はじめの「100本」という数がどんな流れで決まったのかはわかりませんが、再設定した「50本」のように自分で納得して決めた数なら、簡単には投げ出さないものです。やはりどんな決断でも子ども本人に決めさせることが大事だと思います。
チームをやめたいというケースでは、「チーム内でいじめられているのでやめたい」と相談を受けることもあります。保護者とすれば、心配になるのは当然です。
まず大事なのはその「いじめ」の程度です。子どもが心を深く痛めるほど深刻なものなら、私たちはいじめた子の問題に対処しながら、チームを離脱した方が本人のためになると判断することもあります。しかし、ウルフでは多くの大人で子どもを見ていて、活動日も基本は週末のみ。いじめがエスカレートする環境とは思えないため、深刻な状況ではないと判断すれば保護者にこんな話をします。
「これからはいつも以上に子どもさんのことを注意して見ていきますから、もう少し頑張ってみませんか?」
私自身、小学校から高校までいじめを受けてきた経験があり、そのつらさは身をもってわかっています。同時にいじめを乗り越えた時に、自分自身が本当に強くなれた経験もあります。
子どもは子どもの世界で、日々いろいろなものと戦っています。乗り越えられるなら、頑張って乗り越えさせてやりたい。そんな気持ちが私にはあります。それでも、大事なのはやはり本人の気持ちです。ここをきちっと確認します。
「おばちゃんもしっかり見ててやるから、もう少し頑張ってみるか? 頑張れるか?」
「あかんと思ったら言いに来たらええからな。どうや?」
不安を抱えている子どもにとって、事情をわかり、自分を見てくれている者がいるということは大きな安心材料です。そのことを本人にしっかり伝えて、本人が「頑張ってみる」と前向きな気持ちになれば、あとは周りの大人が全力で支えてやることです。
保護者とすれば気が気でないでしょう。子どもが悩み、困っている姿を見ればすぐに手を差しのべたくもなります。そこで子どもの話を聞き、アドバイスを送りながら手を差しのべたい気持ちを我慢することも時には必要です。親もつらいですが、子どもが直面している困難な状況からすぐに離すのではなく、見守りながら、親も一緒に戦うのです。大きな壁を子どもが乗り越えた時には、親子ともども強くなっているはずです。
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「親がやったら、あかん! 80歳“おばちゃん”の野球チームに学ぶ、奇跡の子育て」(棚原安子/集英社)より