ニュース 2021.07.09. 15:51

【本から学ぼう】『肉離れのリスクが高い走り方』(「走塁革命」秋本真吾/竹書房)

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多くのトップアスリートに走り方の指導を行い、阪神タイガースで臨時ランニングコーチも務める秋本真吾さんの著書『走塁革命』。「盗塁の一歩目は真下に着地する/地面を蹴る意識は必要ない/着地姿勢が悪いとスピードは落ち、肉離れにもつながる」など、野球に役立つ様々な走りのアドバイスが満載の一冊です。
今回はそんな本の中から、出版社様のご厚意によりヤキュイク読者も関心が高い「肉離れ」をテーマにした節をご紹介させて頂きます。




■肉離れのリスクが高い走り方


「くの字の姿勢」で、「身体から遠い場所」に、「かかとから着地」する。

この3点セットが揃うと、どうしてもハムストリングスの肉離れのリスクが高まる傾向にあります。以前、阪神タイガースの新人合同自主トレで、30メートル走の計測の1本目に肉離れを起こした選手がいました。また、阪神のトレーナーさんからは「PP走(外野のポールとポールの間を走る)で太ももの裏を痛める選手が多い」という話も耳にしていました。どちらにも共通していたのは走り方の問題であり、そこを直していかなければ、復帰したとしてもまた痛める可能性があるのです。

では、どのようなメカニズムで、肉離れが起きるのでしょうか。自分の現役時代、さらにスプリントコーチになってからの経験を踏まえると、着地する場所に大きな原因があると考えられます。

2018年に発表された論文『疾走中における肉離れについて』(国立スポーツ科学センター・奥脇透)に、興味深い内容が記載されています。この論文によると、肉離れの動作要因として挙げられているのが、次の4つです。

①上体の前方傾斜角度(*過度な前傾姿勢)
②大腿の振り上げ角度(*太ももを高く上げすぎる)
③下腿の振り出し(振り戻し)角度(*ヒザから下を振り出す)
④左右の足の間隔(*着地足ともう一方の足の距離が開く)

すべての要因が絡み合っているとは思いますが、私が数多く目にしてきたのが③です。ヒザから下を遠くに振り出すことによって、着地のあとに身体の近くに振り戻そうとする動きが必ず入ります。このとき、太ももの前側にある大腿四頭筋は縮もうとする一方で、裏側のハムストリングスが必要以上に伸びすぎて、筋肉が断裂してしまうのです。これは、この論文にも書かれています。

さらに、かかとから接地するリスクについても記載があり、私が現場で感じていたことと論文の内容がリンクしていると感じました。

私自身も、現役時代にハムストリングスの肉離れを経験しました。当時は「ケガしてしまった......最悪だな」ぐらいにしか思っていませんでした。なぜ、肉離れが起きてしまったのか? 何が原因だったのか? そこまで突き詰めて考えていなかったのです。

でも、今はその理由が分かります。今でも、走っている最中にハムストリングスに違和感が出始めたときには、すぐに自分の走りを撮影してフォームを確認します。すると案の定、ヒザから下の振り出しが目立ちます。そこで痛める理由がわかり、修正しようとします。この「知る」ことが大切であると考えます。

とはいえ、選手からすると、今まで慣れ親しんだ走り方を変えるのは簡単なことではありません。しかも、シーズンが始まれば、目の前のプレーに集中するわけで、走り方を考えている余裕はなくなってきます。

統計を取っているわけではないですが、野球の試合において肉離れの事例としてよく見るのが、一塁を駆け抜けるときです。特にアウトかセーフかギリギリの打球のとき、歩幅をできるだけ広げて、一塁ベースに早く到達しようとする選手が多いように感じます。当然、身体から遠いところに着地することになり、ハムストリングスへの負担が強まることになるわけです。

走りを改善するには、シーズンオフにどれだけ走りと向き合えるかが大事になってきます。そして、シーズンに入っても、日々のアップから正しい走り方を意識することです。それが結果的に、選手寿命を延ばすことにつながっていくと思います。

今の事例を子ども達に置き換えてみると、身体の遠くに着地しても引っ張り込む力がまだ弱い分、筋肉に大きな負荷はかかりにくいと推測できます。逆の視点で見れば、筋力が弱い年代だからこそ、正しい姿勢、正しい着地を身につける絶好のチャンスとも言えるのです。

【目次紹介】


■第1章
ピッチ×ストライドを実現するための理論
ピッチ×ストライド=相反する2つのことを実現させる
姿勢を制する者が走りを制す
ストライドは自らの力で広げるものではない
地面を蹴る意識は必要ない
アキレス腱の反射を最大限に活用する
スタートのポイントは「一歩目を欲張らない」
子どもたちの腕振りは「小さい前ならえ」
ほか

■第2章
プロ野球選手に見られる走り方の特徴
「くの字」では地面に力を加えられない
肉離れのリスクが高い走り方
ストライドが広い野球選手
足が後ろに流れる野球選手
PP走で肉離れをしないために
ほか

■第3章
走り方を改善するためのドリルとトレーニング
<アキレス腱の反射を生かしたジャンプ>★正しいジャンプが速い走りにつながる
<正しい着地の体得>★足元に目印を置くのが効果的
<腕振り改善ドリル>★腕振りはタイミングがすべて
<ジュニア向けのトレーニング>★ジュニア期は土台作りに力を入れる
<走りの準備につながるストレッチ>★筋肉は伸びてから縮む ほか

■第4章
「盗塁」におけるリード姿勢とスタートの切り方
スタンディングスタートを応用する
一歩目を遠くに踏み出しすぎない
意識的に二塁ベースに向ける必要はない
盗塁の達人から学ぶ
<初速を高めるドリル>★前傾姿勢を作るアイテム「ハーネス」
シャッフルも外野守備も考え方は同じ
ほか

秋本真吾×近本光司 スペシャル対談

「走塁革命」(秋本真吾/竹書房)より
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