中学で硬式野球をしていないと強豪高校で活躍することは難しい。高校野球で活躍したいのであれば中学では硬式をやっている方が有利。そんなことを耳にする機会が多くあります。実際のところはどうなのでしょうか? そこで、監督として4度の日本一に輝き、多くのプロ野球選手も育てた中学軟式野球の名門・星稜中学の田中辰治先生に軟式と硬式の野球の違いなどについてお話を伺いました。
——田中先生からみて、中学の軟式野球、部活の野球がクラブチームよりも優れていると考えている点はどんなところにありますか?
部活動という点においては教育の一環だと思っています。授業の延長ということもありますし、毎日同じ学校、同じクラスの仲間たちと学校生活を共にしてグラウンドで毎日一緒に練習をする。指導にあたるのも同じ学校の教師。そうやってみんなで行動を共にすることで、チームワークという点でまとまりやすい、というのが中学の部活動、教育の一環の良さだと思います。
軟式野球という点ではケガのリスクが少ないことが挙げられると思います。硬式ボールよりも軽いですから、成長期の子どもの肘、肩、腰などにかかる負担が少なくなります。
——逆に硬式のクラブチームの良さはどんなところにあると思いますか?
意識の高い子達が集まっているのだろうなと思います。また、クラブチームの監督さんはかなり勉強熱心でもありますし、技術においてもしっかり指導されているというイメージがありますね。
投げる時のリリースの感覚、バットで捉えた時の弾き方、バウンドの跳ね方など、いち早く硬式ボールに慣れることもできると思いますし、頭でも体でもそれが理解できているから高校に上がってもすぐにパフォーマンスを発揮できる子が多いのだと思います。
あとは学校の許可を必要とせず、保護者の許可だけで自由に活動ができるというのが羨ましいですね。中学の部活ですと、もちろん(活動に)学校長の許可は要りますし決められた範囲の中でしか活動ができませんから。
——軟式と硬式の「野球」の違いについてはどのように考えていますか?
まず守備の面からいえば、私は個人的には硬式の方が簡単だと思っています。その理由は、硬式ボールはそんなに跳ねないので、グローブをしっかり地面につけておいてバウンドをしっかり合わすことができればグローブの中にボールが入ってくれます。
軟式ボールは跳ねますのでバウンドを合わすことが難しいですし、待っているのではなく、目線をぶらさずに足を使って捕りいかなければいけません。ですから軟式の方が守備の面では難しいと思います。しかし、難しいからこそ、それを中学でやっておくことで(高校に上がったときに)硬式での守備が楽に感じられると思います。
——一昨年、プロ野球の開幕投手全員(外国籍選手を除く)が中学軟式野球出身だったことがちょっとした話題になりました。反面、プロで活躍している内野手の中学時代は硬式野球出身が多い印象があります。その辺りはどうお感じになりますか?
私はたまたまだと思います。軟式も硬式も上手い子は上手いですから。硬式をやっていたから内野手でプロになれたとか、そこにボールの違いはないと思います。もともと上手い子が中学硬式に集まっている結果であって、彼等が軟式野球をやっていても上手かったと思います。
——ピッチャーはどうでしょうか?
硬式ボールの方が球は速くなりますし、指にかかる分だけ軟式ボールよりも変化球もかかりやすくなると思います。だから中学生でも力のある、身体の大きい子は硬式ボールの方がより良いボールがいくと思います。ただ、軟式をやっていた子の方が肩・肘への負担をかけずに成長してきた分、高校での伸び代は大きいと言えるかもしれません。
——高校でも野球をすることを視野に入れている小学生であれば、身体の成長などをみて「まだ硬式を握らせるのは早い」と、敢えて中学で軟式野球を選択するというのも考えの一つですね。
そうですね。そういう選択もあると思います。
——「守る」と「投げる」について軟式と硬式の違いを伺ってきましたが、「打つ」という点ではいかがでしょうか?
軟式はボールの中が空洞ですのでインパクトのときに潰れやすくて飛びにくいという特徴があります。より良いスイングをしてもポップフライになってしまいますから、軟式特有の打ち方を教えてあげないと遠くに飛ばせません。
硬式の場合は中がコルクですから飛びやすいですし、トップからインパクトまでしっかり始動できれば、バットの先端であろうが根っこであろうがボールは飛びます。
——「軟式特有の打ち方」というのは本の中でも紹介されている打ち方ですね。
そうですね。ボールを呼び込んでバットに当たって潰れたボールをもう一度押し込むように振りきる、という打ち方ですね。
——本の中ではBCリーグの監督さんが選手たちに敢えて軟式ボールでバッティング練習をさせていた話が印象に残っています。
はじめはポップフライばかりでしたけど、ヒッティングポイントが後ろになって明らかに打球が変わってきて、「その感覚のまま硬式ボールを打ってみよう」とバッティング練習を始めると、軟式ボールを打つ前と見違えるほどに打球が遠くに飛んでいました。
——ということは、打つということに関しても、中学3年間でボールが飛びにくい軟式野球をやることは決して高校野球をやる上で遠回りになっていないということですね。
全く遠回りではないと思いますね。むしろ本当のバッティングの基本は軟式なんじゃないかと思っています。
後編に続きます。
部活動とクラブチーム、それぞれの良さ
——田中先生からみて、中学の軟式野球、部活の野球がクラブチームよりも優れていると考えている点はどんなところにありますか?
部活動という点においては教育の一環だと思っています。授業の延長ということもありますし、毎日同じ学校、同じクラスの仲間たちと学校生活を共にしてグラウンドで毎日一緒に練習をする。指導にあたるのも同じ学校の教師。そうやってみんなで行動を共にすることで、チームワークという点でまとまりやすい、というのが中学の部活動、教育の一環の良さだと思います。
軟式野球という点ではケガのリスクが少ないことが挙げられると思います。硬式ボールよりも軽いですから、成長期の子どもの肘、肩、腰などにかかる負担が少なくなります。
——逆に硬式のクラブチームの良さはどんなところにあると思いますか?
意識の高い子達が集まっているのだろうなと思います。また、クラブチームの監督さんはかなり勉強熱心でもありますし、技術においてもしっかり指導されているというイメージがありますね。
投げる時のリリースの感覚、バットで捉えた時の弾き方、バウンドの跳ね方など、いち早く硬式ボールに慣れることもできると思いますし、頭でも体でもそれが理解できているから高校に上がってもすぐにパフォーマンスを発揮できる子が多いのだと思います。
あとは学校の許可を必要とせず、保護者の許可だけで自由に活動ができるというのが羨ましいですね。中学の部活ですと、もちろん(活動に)学校長の許可は要りますし決められた範囲の中でしか活動ができませんから。
——軟式と硬式の「野球」の違いについてはどのように考えていますか?
まず守備の面からいえば、私は個人的には硬式の方が簡単だと思っています。その理由は、硬式ボールはそんなに跳ねないので、グローブをしっかり地面につけておいてバウンドをしっかり合わすことができればグローブの中にボールが入ってくれます。
軟式ボールは跳ねますのでバウンドを合わすことが難しいですし、待っているのではなく、目線をぶらさずに足を使って捕りいかなければいけません。ですから軟式の方が守備の面では難しいと思います。しかし、難しいからこそ、それを中学でやっておくことで(高校に上がったときに)硬式での守備が楽に感じられると思います。
身体の成長に応じて軟式、硬式を選ぶべき
——一昨年、プロ野球の開幕投手全員(外国籍選手を除く)が中学軟式野球出身だったことがちょっとした話題になりました。反面、プロで活躍している内野手の中学時代は硬式野球出身が多い印象があります。その辺りはどうお感じになりますか?
私はたまたまだと思います。軟式も硬式も上手い子は上手いですから。硬式をやっていたから内野手でプロになれたとか、そこにボールの違いはないと思います。もともと上手い子が中学硬式に集まっている結果であって、彼等が軟式野球をやっていても上手かったと思います。
——ピッチャーはどうでしょうか?
硬式ボールの方が球は速くなりますし、指にかかる分だけ軟式ボールよりも変化球もかかりやすくなると思います。だから中学生でも力のある、身体の大きい子は硬式ボールの方がより良いボールがいくと思います。ただ、軟式をやっていた子の方が肩・肘への負担をかけずに成長してきた分、高校での伸び代は大きいと言えるかもしれません。
——高校でも野球をすることを視野に入れている小学生であれば、身体の成長などをみて「まだ硬式を握らせるのは早い」と、敢えて中学で軟式野球を選択するというのも考えの一つですね。
そうですね。そういう選択もあると思います。
本当のバッティングの基本は軟式にあり
——「守る」と「投げる」について軟式と硬式の違いを伺ってきましたが、「打つ」という点ではいかがでしょうか?
軟式はボールの中が空洞ですのでインパクトのときに潰れやすくて飛びにくいという特徴があります。より良いスイングをしてもポップフライになってしまいますから、軟式特有の打ち方を教えてあげないと遠くに飛ばせません。
硬式の場合は中がコルクですから飛びやすいですし、トップからインパクトまでしっかり始動できれば、バットの先端であろうが根っこであろうがボールは飛びます。
——「軟式特有の打ち方」というのは本の中でも紹介されている打ち方ですね。
そうですね。ボールを呼び込んでバットに当たって潰れたボールをもう一度押し込むように振りきる、という打ち方ですね。
——本の中ではBCリーグの監督さんが選手たちに敢えて軟式ボールでバッティング練習をさせていた話が印象に残っています。
はじめはポップフライばかりでしたけど、ヒッティングポイントが後ろになって明らかに打球が変わってきて、「その感覚のまま硬式ボールを打ってみよう」とバッティング練習を始めると、軟式ボールを打つ前と見違えるほどに打球が遠くに飛んでいました。
——ということは、打つということに関しても、中学3年間でボールが飛びにくい軟式野球をやることは決して高校野球をやる上で遠回りになっていないということですね。
全く遠回りではないと思いますね。むしろ本当のバッティングの基本は軟式なんじゃないかと思っています。
後編に続きます。
(取材・永松欣也/写真・本人提供)