長らく甲子園から遠ざかっていた名門中の名門を、わずか就任2年で20年ぶりの聖地に導き、今夏は52年ぶりのベスト8進出も果たした高松商業・長尾健司監督。そんな長尾監督の書籍『導く力 自走する集団作り』(竹書房)より、第五章『心技体を磨き上げる』の一部を紹介します。
2021年夏の甲子園2回戦で智辯和歌山に敗れたあと、マスコミのみなさんから、「智辯和歌山との差はどこにありましたか?」と聞かれた。「いや、もう、全部です。打つのも投げるのも差がありすぎます」と答えたところ、「そこを何とか、ひとつだけ挙げてほしいのですが」と突っ込まれたので、イチローさんの名前を出した。
「智辯和歌山には、イチローさんが来たからじゃないですか」
「では、高松商にイチローさんが来ていたら勝っていましたか?」
「そりゃそうですよ、イチローさんが来ていたら、うちだって負けられませんよ。智辯和歌山の選手は、『イチローさんに教わったあとに練習の意識が変わった』と記事で読みました。うちに来てくれたら、うちだって練習が変わりますよ!」
その30分後、部長の三好先生から、「長尾先生、ネットのニュース見ましたか?」と声をかけられた。すぐにスマホを開いて、ニュースを確認すると、驚きの見出しが目に飛び込んできた。
「高松商、イチローさんに来てほしい! 監督ラブコール!」
ちょっと待ってほしい。びっくりである。「ラブコール」と言えば、そうなのかもしれないが、こんなに大きな扱いになるとは思ってもいなかった。半分は冗談で言ったのだが……。
話はここで終わらなかった。翌日、イチローさんに通じている野球メーカー(高松商のOB)の方から、「記事を読んで、イチローが喜んでいるらしいですよ」と連絡があった。本当ですか……。そこから話がどんどんと進んでいき、イチローさんの秘書から直接連絡が来るようになった。
「イチローも喜んでいるので、ぜひ日程を調整して伺いたい。ただし、選手には当日になるまで一切言わないでください。外にも漏らさないでください」
大変なことになった。1億円を積んだとしても、絶対に来てくれないであろうイチローさんが高松商の指導に来てくれる。本当に、高松商でいいのだろうか。調整の結果、日程は12月11日と12日、場所はレグザムスタジアムと決まった。
さらに、秘書の方からはこんな要望もあった。
「イチローは高校生相手であっても、完璧に体を仕上げてきます。監督さんもお願いしますね」
夏の甲子園で指揮を執っていたときの体重は98キロ。人生でもっとも重い。イチローさんが仕上げてくるのなら、自分もできることをやる。ずばり、ダイエットだ。こんな縁がなければ、ダイエットをしようとは決断しなかっただろう。「16時以降、何も食べない」とマイルールを決めて、3カ月で20キロの減量に成功した。最初のうちは空腹がきつかったが、そのうちに快感を覚えるようになった。体重が減っていくのが楽しい。空腹を感じたときには、水で凌いだ。以前は、練習が終わって21時頃に帰宅してから、夕飯をお腹いっぱい食べていたので、どんどん体重が増えてしまったのだ。
体重が減ったことでノックの打球が飛ばなくなったのが気にはなるが、あのまま食べていたら100キロは確実に超えていたであろう。思わぬ、「イチロー効果」に感謝したい。
■考えもしなかったイチローさんからの直接指導
2021年夏の甲子園2回戦で智辯和歌山に敗れたあと、マスコミのみなさんから、「智辯和歌山との差はどこにありましたか?」と聞かれた。「いや、もう、全部です。打つのも投げるのも差がありすぎます」と答えたところ、「そこを何とか、ひとつだけ挙げてほしいのですが」と突っ込まれたので、イチローさんの名前を出した。
「智辯和歌山には、イチローさんが来たからじゃないですか」
「では、高松商にイチローさんが来ていたら勝っていましたか?」
「そりゃそうですよ、イチローさんが来ていたら、うちだって負けられませんよ。智辯和歌山の選手は、『イチローさんに教わったあとに練習の意識が変わった』と記事で読みました。うちに来てくれたら、うちだって練習が変わりますよ!」
その30分後、部長の三好先生から、「長尾先生、ネットのニュース見ましたか?」と声をかけられた。すぐにスマホを開いて、ニュースを確認すると、驚きの見出しが目に飛び込んできた。
「高松商、イチローさんに来てほしい! 監督ラブコール!」
ちょっと待ってほしい。びっくりである。「ラブコール」と言えば、そうなのかもしれないが、こんなに大きな扱いになるとは思ってもいなかった。半分は冗談で言ったのだが……。
話はここで終わらなかった。翌日、イチローさんに通じている野球メーカー(高松商のOB)の方から、「記事を読んで、イチローが喜んでいるらしいですよ」と連絡があった。本当ですか……。そこから話がどんどんと進んでいき、イチローさんの秘書から直接連絡が来るようになった。
「イチローも喜んでいるので、ぜひ日程を調整して伺いたい。ただし、選手には当日になるまで一切言わないでください。外にも漏らさないでください」
大変なことになった。1億円を積んだとしても、絶対に来てくれないであろうイチローさんが高松商の指導に来てくれる。本当に、高松商でいいのだろうか。調整の結果、日程は12月11日と12日、場所はレグザムスタジアムと決まった。
さらに、秘書の方からはこんな要望もあった。
「イチローは高校生相手であっても、完璧に体を仕上げてきます。監督さんもお願いしますね」
夏の甲子園で指揮を執っていたときの体重は98キロ。人生でもっとも重い。イチローさんが仕上げてくるのなら、自分もできることをやる。ずばり、ダイエットだ。こんな縁がなければ、ダイエットをしようとは決断しなかっただろう。「16時以降、何も食べない」とマイルールを決めて、3カ月で20キロの減量に成功した。最初のうちは空腹がきつかったが、そのうちに快感を覚えるようになった。体重が減っていくのが楽しい。空腹を感じたときには、水で凌いだ。以前は、練習が終わって21時頃に帰宅してから、夕飯をお腹いっぱい食べていたので、どんどん体重が増えてしまったのだ。
体重が減ったことでノックの打球が飛ばなくなったのが気にはなるが、あのまま食べていたら100キロは確実に超えていたであろう。思わぬ、「イチロー効果」に感謝したい。