【伝わってくる雰囲気の良さ】
ノックは高学年と低学年に分かれて行われたが、朝もまだ早かったせいか、ボール回しでは子ども達の元気がちょっとないように見えた。すると大下監督がホームにいた子ども達にこう声をかけた。
「誰かがえぇ雰囲気にせんと、この練習終わらないよ。どうする?」
するとそこから子ども達が「行くぞー!」「こーい!」「ナイスキャッチ!」「今のはワンバウンドで良いからなー!」などと元気よく声を出し始めた。
子ども達の失敗やミスに対して叱責する大人の声もなく、失敗してもコーチ達が「OK!」「ナイスチャレンジ!」などとポジティブな声をかけ、子ども達も互いに声をかけ合っていた。
グラウンドの脇では、右手を骨折中のキャプテン向山君が、入部間もない2人の4年生を相手にゴロを転がして捕球練習を手伝ってあげていた。手で転がされたボールを捕ってネットに送球するという単調なメニューだが、ネットに入ったボールの数を競わせるなど、機転を利かせた向山君がゲーム要素を取れ入れたため、2人も競うように楽しそうに練習に取り組んでいた。
休憩中の子ども達の様子を見ていると、キャッチャーフライを誰が捕れるか競って遊んだり、休日に遊園地に遊びに行った子が「あとでみんなで食べてください」と監督にお土産のお菓子を渡したり、低学年の子ども達はコーチ達と虫取りに出かけたりと、チームの雰囲気の良さが伝わってきた。
かつては上手くなって欲しいという思いから、子ども達を厳しく指導し、追い込んでもいた。もちろん、指導する側も子ども達のことを思えばこそだったのだが、時代が変わり、そういった指導が受け入れられにくくなってきた。
子ども達が減ったことでそれに気付かされたチームは、今では楽しさを聞きつけて、近隣地域からも子ども達が集まるチームに生まれ変わった。
指導方針の舵を「野球を楽しく!」に大きく切ったことで、いま庭代台ビクトリーに再び活気が戻っている。
(取材・文・写真:永松欣也)