ニュース 2022.12.08. 18:12

【静岡県立富士高校】幼児向け「野球教室」の取り組み

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昨年、静岡県立三島南高校を率いて春の甲子園に出場した稲木恵介監督は、今年度から静岡県立富士高校に転任が決まった。
三島南高校時代は、永年にわたって野球部の生徒が幼稚園や保育所を訪問して野球の楽しさを教え、興味を持ってもらうための「野球教室」を実施してきた。昨年のセンバツもそうした地道な普及活動が評価され「21世紀枠」で出場が決まったのだが、稲木監督は、学校を変わっても普及活動を引き続き行った。




■高校生が企画した野球教室


10月25日朝、富士高校のグラウンドには「すみれ認定こども園」の子供たちがスクールバスから降り立った。これまでは幼稚園や保育所に高校生が訪問して教室をすることが多かったが、今回は高校のグランドで行うことになった。



準備体操の後は、4つのグループに分かれて体験教室。「尻尾とり」「ひも付きテニスボールを打つ」「軽いキャッチボール」と言うプログラムだが、稲木監督は最初に子供たち、引率の先生方に挨拶をするだけで、あとは選手たちが子供たちに向き合い、進行する。
最初は双方ともに堅苦しい空気だったが、次第に表情もほぐれてくる。
特に選手のユニフォームのズボンにつけた布を子供がとる「尻尾とり」は、幼児と高校生の垣根を取り払い、その距離をぐっと近づけるうえで有効だ。
ここから少しずつ「野球」に近づくアプローチとなる。

■富士高校ならではの取り組み


稲木監督は、前任校と今の富士学校の違いを語る。

「三島南高のときからそうでしたが生徒には『枠だけ作るから』あとは自分たちで計画してみよう、運用してみようと投げかけました。
計画シートを見ても丁寧にプランニングしていることがわかります。子供たちへの接し方も丁寧なんじゃないでしょうか。



富士高校は1979年の夏と1987年の春に甲子園に出ています。プロ野球選手も輩出している伝統校ですが、同時に偏差値は県内トップクラスで、学校自体がこの地域の優秀な人材、社会のリーダーを育てるという使命を帯びています。オール進学で東京大学など旧帝大、東京六大学に進む生徒も多いんです。だから野球だけでなく学習面でもそうですが、使命感を持った指導が必要だと感じています。
グラウンドは共有でしかも狭いんです。でもその環境から甲子園に行っている。与えられた環境で工夫、努力をすることができるんですね。今のエースは勉強はトップクラスです。
勉強が中心ですから制約は大きいですが、そんな環境でどうやって勝負しようかをずっと考えてきた学校です。
結局、頭の使い方なんじゃないかと思います。
そういう意味では、今回の野球教室でも、彼らの『創意工夫』が活きてくるんじゃないかと思います」


■園児が熱中できる難易度を見つけるのが難しかった




キャプテンの中澤樹君は、

「稲木監督が野球の未来について語ったときに、自分たちにできることは無いかと思いました。監督は『この取り組みを続けてきて、前の学校(静岡県立三島南高校)では甲子園に出場し、プロ野球選手も出した』と話されました。
僕はこれまで、野球のプレーのことばかり考えていましたが、野球人口の減少を防ぐのに少しでも役立てるなら是非やりたいし、素晴らしい取り組みだと思いました。
子供たちに笑顔で接することや目線を合わせることなどは、稲木先生から渡された振興活動のプリントで共有しました。
子供たちへの説明は、多すぎると飽きてしまうため、最小限に抑えて、なるべく多くの遊びをしてもらって、うまくいったときの楽しさを伝えられるようにしました。子供たち一人ひとりできることの差があるので、難しすぎるとつまらないし、簡単すぎると飽きてしまうので、園児が熱中できる難易度を見つけるのが難しいと感じました。
教えたことを一生懸命やろうとしてくれたり、実際にできるようになっていく過程を見るのはとても楽しく嬉しかったです。
僕にとっては、将来、人に寄り添えるようなことをしていきたいと思うきっかけになりました。こういった体験の中で養えた視野の広さなどは、野球の練習の中でも活かされてきていると感じています」

子供たちだけでなく、選手の成長をも促す。野球教室のメリットは大きいのだ。(取材・文・写真:広尾晃)
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