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バットが変わったからといって指導が変わるのは違う|笹木郁男監督(横浜球友会)

2025年から一般用の「高反発バット」の使用が禁止(子ども用の高反発バットの使用は認められている)になり、これまでよりも打球が飛ばなくなることが予想されています。それでも横浜市にある学童軟式野球クラブ「横浜球友会」では木製バットで試合に臨むポリシーを大事にしています。3年前から本格的に取り組んでいるバーティカルスイングと併せて、監督の笹木郁男さんにお話を聞きました。


<高反発バットは百害あって一利なし>

横浜球友会が木製バットで打つことにこだわるのは、「当たれは飛ぶ」ようなバットの性能に頼るのではなく、正しいバッティング技術を身につけて欲しいと考えているから。

「高反発バットは百害あって一利なしだとずっと思っていました。そもそも6年生だけでチームを組めるチームも少なくなっているなかで、例えば早熟で体の大きい6年生が高反発バットで捉えた強烈な打球が投手に飛んだら単純に危ないですしね」

木製バットには折れたら危ない、折れたらお金がかかるといった声もある。これに対して笹木監督はこう話す。

「学童野球レベルのピッチャーの球速であればほとんど折れません。うちのチームがお世話になっているメーカーのバットはオーダーしても1本8000~10000円くらいで、1、2年は十分に持ちます。正しい技術が身につくだけでなくコスパ的にも木製がいいと思っています」

バッティング練習は木製バットを使うだけではなく、前回紹介したように「バーティカルスイング」いわゆる「縦振り」を意識して行われています。

バーティカルスイングと言えばドジャースの大谷翔平選手やヤンキースのアーロン・ジャッジ選手が代表的ですが、笹木監督が理想とするのはNPBではソフトバンクの近藤健介選手。

「去年NPBで唯一打率3割を超えた日本の選手は近藤選手だけです。タイトルもたくさん獲っていますし日本で最高のバッターである近藤選手を見習わない理由がないですよね」

そんな近藤選手の身長は171cm。プロ野球選手の中ではかなり小柄な部類に入りますが、それは大谷選手やジャッジ選手のような立派な体格、圧倒的なフィジカルがなくてもバーティカルスイングで結果を残すことは可能ということなのかもしれません。

それでもこのスイングに否定的な指導者はアマチュアにもプロにも多くいます。小学校時代にバーティカルスイングを身につけても、中学のチームでは「なんだその打ち方は!」「最短距離でバットを出せ!」と言われる場面もあるかもしれません。

「もちろん、そういったチームもあります。でも、そもそも『最短距離でバットを出せ』という指導を私は否定していませんし、このスイングはバッティングの〝引き出しの一つ〟だと思っていますから、それも仕方ないと思っています」

<「俺はどうしても勝ちたいから金属で打ちたい」>

わざわざ木製バットを使うこと、中学、高校で否定されるかもしれないスイングを練習すること。そのことに対して保護者の理解はあるのでしょうか?

「そこはもう保護者にも座学もやって、プリントも配って説明もして、理解してもらっています。今はYouTubeでもバーティカルスイングの動画とかたくさんありますから、保護者も事前にそういうのを見ていて興味を持ってきてくれるようになりましたし、親も一生懸命理解してくれようとしています」

だが、理解はしてくれたとしても、我が子のチームが勝って欲しいと思うのは親ならば当然のこと。実際にこんな事もあったという。

「大会を勝ち進んでいくと『金属バットを使った方が勝てるのでは?』『使っちゃダメなの?』そんな声もあったと聞いています(笑)。保護者の皆さんの気持ちも良く分かります。このときは保護者のまとめ役の方が『うちはこういう方針でいくと決めて練習をしてきたのですから木製でいきましょう』とまとめてくれました」

勝ちたいのは親だけでありません。試合では木製バットで臨むのが横浜球友会のスタイルですが、子どもも揺れたことがありました。横浜市の200チームが参加した大会での予選トーナメントでのこと。「金属で打ちたい」という子が2人出てきたのです。

「普段は勝つことにそんなにガツガツしているチームじゃないんですけど、子ども達が珍しく『勝ちたい!』という感じで。それで子ども達で話し合って、『木製でやってきたんだから木製でやろうよ』『いや、俺はどうしても勝ちたいから金属で打ちたい』とか、子ども達だけで喧喧囂囂の議論をしていて(笑)。その様子を見て、子ども達って凄いなぁと、成長ぶりに感心したというか。だからその試合では子どもの考えを尊重して金属で打ちたい子には金属で打たせました。『でも決勝トーナメントに行ったら木製で打とうぜ!』って言って。実際、決勝トーナメントでは全員木製で打って、それで3位にもなることができました」