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素振りは「イメージトレーニング」【デキる選手を育てる方法】

【習得レベル:★☆☆☆☆】
甲子園優勝校を追い詰めた元高校野球監督が「お父さんコーチ」になって考えたデキる選手を育てる方法!第6回目の今回は「素振り」について。伊豆原先生が素振りのメリット、デメリット、そして注意点などを解説しています。
<打撃練習の「質」と「量」>
少年野球において、素振りは最もポピュラーな練習方法のひとつです。ですが、ボールの軌道(コースや球種)やタイミング、バットの軌道などをイメージして振らなければ、ただバットを振り回しているのと変わりませんから、実はかなり難易度の高い練習なのです。
素振りは「技術練習」でもありますが、「イメージトレーニング」の一種とも言えるのです。
まずは素振りのメリット、デメリットを簡単に整理してみます。
<メリット>
・バットがあればいつでもどこでもできる
・一人でたくさん練習ができる
<デメリット>
・ボールを打っていないので実際のバッティングと乖離がある
・量を求め過ぎてしまうので、過度な動きで腰を痛めてしまう可能性が増加する
次に打撃練習の「質」と「量」について整理してみます。
① 練習試合
② 紅白戦
③ シート打撃
④ フリー打撃
⑤ ケージ打撃(トリカゴでのマシン打撃)
⑥ フロントトス
⑦ スタンドティー
⑧ 素振り
練習の「質」を考えると① の「練習試合」が最大となり、⑧ の「素振り」が最小となり、練習の「量」を考えると⑧ の「素振り」が最大、① の「練習試合」が最小となります。
私が高校野球の監督をしていたときは、チーム練習の時間ではできるだけ③ 「シート打撃」と④ 「フリー打撃」の練習を行うようにしていましたし、個人練習の時間には⑤ 「ケージ打撃(トリカゴでのマシン打撃)」、⑥ 「フロントトス」、⑦ 「スタンドティー」に近い練習を組み合わせるようにしていました。
ですので、学童野球の現場でもよく見かける、全員でカウントしながら「素振り」をするというような練習はしていませんでした。
<素振りは小学生には負荷が大きい>
「もっと強く素振りしなさい! もっと腰を回しなさい」
よく現場の指導者から聞く言葉です。ですが小学生に素振りを無理に多くやらせることは非常に危険です。
腰椎の回旋可能角度は5度くらいですので腰はほとんど回りません。回旋運動に使うのは胸椎(胸や肩付近)や股関節ですから、腰そのものを無理矢理回すとかなりの負荷となります。
「腰を回せ」という指導者の言葉によって、子ども達は回りもしない腰を無理に回そうとしてしまいますし、それによって「腰椎分離症」を誘発している可能性もかなり大きいのではないかと、個人的には感じています。「腰椎分離症」は直ぐに発症しなくても、小学生時代の無理が溜まって中学、高校で発症するケースもあります。

私が高校で監督をしていたときも、腰椎分離症に限りませんが、高校入学時のメディカルチェックで、肩、肘、腰に古傷が見つかることがしばしばありました。なかには骨折痕や、遊離軟骨が見つかることも少なくありません。いずれも小中学生の頃に故障したと思われます。本人は痛みを我慢していた場合もあれば、無自覚の場合もあります。
小学生に素振りをさせるなら、次のような言葉をかげてあげて欲しいと思います。
「しっかりお尻を回そう」
「前の肩と後ろの肩を入れ替えるように振ってみよう」

強く振るというよりは、結果として強く振れるようになることが大切だと思います。
最近ではチームによっては素振りを禁止するところもあるようです。ただ、選手個人の思いやチームの方針など、様々な考え方がありますので、私は一概に素振りが正しい、間違っているということはないと思います。ただ、精神論で「毎日100回振れ」など、数多く振らせることを強要することは、決してプラスに働かないと思います。
<元高校野球監督からのアドバイス>
素振りは数多く振ることを目的とせず、「現在の自分と向き合う時間」と捉えてほしいなと思います。上手く打てなくて悩んでいる時に、様々な球種、コースをイメージして素振りをして「もがいてみる」ことで、自分と対話するキッカケを掴んでほしいと思うこともあります。
上手くなるための練習ではなく、自分自身のメンタルを含めた思考を育てるイメージトレーニングとして素振りを取り入れてほしいと思います。
小学生で、野球が大好き、時間があれば外遊びとして壁当てや素振りをするような子どもは、その遊びでは負荷の強さが原因となるような怪我をあまりしません。遊びのなかでは無意識のうちに自分の身体をコントロールするからです。
何事にも適度な強度と量があります。平日に何もやらずに土日だけの練習だと故障する確率は増加します。平日に少しずつ個人練習をする。休日はチーム練習をメインに行い、個人練習の負荷を減らせると良いと思います。
(著:伊豆原真人/企画・編集:ヤキュイク)
伊豆原真人(いずはら・まさと)
野球指導者。高校数学科教員。令和4年12月で神奈川県立川和高校野球部監督を降りて令和5年4月に異動。現在は長男野球部の保護者としてサポートしながら幼小学生〜大学社会人まで幅広く指導中。高2、中1、小3の球児の父親。