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結果ではなく、過程に向き合える選手は伸びる

甲子園優勝を成し遂げた名将たち。その道程には失敗や後悔、苦い敗戦があった——。昨年発売された『甲子園優勝監督の失敗学』(KADOKAWA)の中から、少年野球の指導者の方にも参考となる部分を抜粋して紹介します。今回は仙台育英・須江航監督の章の一部を紹介します。


仙台育英に入学する時点で、中学生世代ではトップクラスの能力を持っている選手がほとんどである。高校の監督に就く前は、「高校野球では能力の高い選手が活躍する」と思っていたというが、実際に指導するようになると、違う考え方が見えてきたという。
「どんなに能力があっても、取り組み方が良くなければ、やっぱり伸び悩みます。もっと、能力で突き抜けることがあると思ったのですが、そんなに甘くはない。自分自身が今やるべきことがわかっていて、それこそ失敗を生かし、地道に取り組める選手は少しずつであっても成長していきます」

指導者から見て、失敗を生かせる選手とそうではない選手の差はどこに感じるのだろうか。
「失敗という〝結果〞そのものには向き合わず、失敗につながった〝原因〞にちゃんと目を向けられることです。つまりは、できたこと、できなかったことの結果ではなく、『打てなかったのはあの練習が悪かった。もう少し別のやり方で取り組む必要がある』と、過程に目が向くかどうか。結果が出たときにも、『あの練習が良かったから、もっと続けていこう』と思えるかどうか」取り組みの過程があってこその結果。結果だけを気にしてしまうと、いつまで経っても、成果は上がらない。
「たまたまかもしれませんが、仙台育英の監督になってからずっと感じているのは、取り組みの質が高い選手が最後の夏に活躍していることです。それが良い文化になり、後輩たちに受け継がれている。昨年で言えば、髙橋、湯田はどこに出しても恥ずかしくないお手本のような取り組みをしていました。2年生のときに悔しい思いをした住石(孝雄/専修大)も本当によく努力をする子で、それが最後の甲子園で報われました。うちは本当によく練習をする選手が多い。その姿は尊敬に値します」

須江監督のほうから一方通行で、「あれをやりなさい、これをやりなさい」と強制的に指示を出すことはほとんどない。監督と選手の1対1の面談などで、長所や短所を客観的に捉える力を養い、自分に合った練習メニューを選手自身が選択していく。
「練習に選択権があり、主体的に取り組める環境がなければ、なかなか〝過程〞には目が向いていかないと思います。主体的だからこそ、自分がやってきたことを振り返ることができる。指導者にやらされている練習であれば、なかなかそうはならないと思います」

須江監督は、今の高校生のことを〝選択ネイティブ〞と表現する。小さい頃から、何かを選ぶことに慣れてきた世代という意味だ。
「高校生だけでなく、大人であっても、本当に納得したことでなければ、心を入れて取り組まないですよね。特に今の高校生は、〝選択ネイティブ〞でいろんなことを選べる環境で生きてきています。わかりやすく言えば、テレビ番組ひとつとっても、自分の部屋にテレビがあったり、スマホやパソコンでアマゾンプライムやネットフリックスを視聴して、見たいものを選ぶことができたりする。ぼくが子どもの頃は、プロ野球を見たくても、父親が好きだった『水戸黄門』や『大岡越前』が流れていた記憶が残っています」

何ともわかりやすいたとえである。今はテレビがなくても、スマホさえあれば、プロ野球中継もドラマも見ることができる。便利すぎる世の中になった。