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結果ではなく、過程に向き合える選手は伸びる

<短所と丁寧に向き合うことが重要>
では、選択ネイティブに必要なのはどんな指導なのか。
「自分で選んできたことに慣れている世代に、強制的に何かを教えたとしても、心には入っていかないように思います。逆に、興味関心を持ったものに対しては、ものすごいエネルギーを発揮する。時間をかけて緩やかでいいので、自分が成長している実感を得られるぐらいのスピードがちょうどいい。指導者はどうしても即効性を求めがちですけど、人間はそんな簡単に変わらないですから。上から詰め込んで教育しようとしても、本当のところはなかなか変わらないものです。それがわかってからは、イライラしたり怒ったりすることは格段に減りました。それに、監督の一言でコントロールできることなんてほぼないと思っています。変わってほしいなという希望は持ちますけど、期待はしません。そもそも、教育は〝縁〞と〝タイミング〞だと思っていて、ほかのコーチや保護者、チームメイトからのアドバイスや援護射撃があって、その子のやる気に火がつくこともあるわけです。監督ひとりで何かを成せると思うのは、大きな勘違いです」
変化は緩やかでいい。とはいえ、「3年夏」という大きな目標があるのも事実だ。宿題の提出期限が決められているように、納期は決まっている。
「『このスピード感では間に合わないんじゃない?』『ここを伸ばしていかないと、メンバー争いには食い込めないのでは?』という話は当然します。納期の中で仕上げることも大事なことですから」
高校2年半の限られた時間の中で、何をどう伸ばしていくか。「長所を伸ばす」という指導者もいれば、「短所を潰したほうがいい」と考える指導者もいる。
「『打てるけど、守備が苦手。守備のミスが怖くて、スタメンで使いにくい』という選手がいたとします。短所は明らかに守備。でも、バッティングが好きなので、自主練習ではバッティングが多い。そうなると、いつまで経ってもレギュラーは見えてきません。選手を見るときに大事にしているのは、『短所に対してどれだけ丁寧に向き合っているか』。短所が許容できる範囲を超えて、長所が発揮できない選手が多いのが現実です」
興味関心があることにはとことん突き進む、選択ネイティブ世代の特徴と言えるかもしれない。苦手なこと、嫌いなことを避けても、快適な生活を送ることはできる。ただ、勝負事、ましてや『日本一からの招待』を掲げているチームの一員としては、それでは自分の居場所を摑むことはできない。
2023年秋は県大会準々決勝で東陵に1対2で敗れ、3季続いていた甲子園出場が途切れることになった。
「敗因ははっきりしています。守れる選手が少なく、選手起用にバリエーションを出すことができませんでした。スケールが大きいチームであるのは間違いないですが、守りでミスがあるため、自滅する可能性がどうしてもある。そのため、冬は徹底的に守備練習に時間をかけました。あとは、低反発バットで長打を打つためのフィジカル強化。とにかく、守りの基準を上げていかないと勝負にならない。強がりでも何でもないですが、秋に負けたことによって、じっくりと守備と向き合うことができています。突貫工事をしなくていいのは、夏に向けて大きな意味を持ちます」
「あの負けがあったから」と言える夏になるかは、今後の取り組みにかかっている。「先に言っておきますが、守備の課題がクリアできれば、相当面白いチームになりますよ」
須江監督が考える面白いチームとは?
「その瞬間瞬間に、やりたいことを選択できる野球です。選択肢がいくつもあり、対戦相手や状況、選手の組み合わせによって選ぶことができる。これは、面白いですよ」
2021年夏に宮城大会4回戦で負けてからは、甲子園優勝、準優勝と、2年連続で夏のファイナルまで勝ち残った。これから、どんな夏の景色が待っているのか。
敗戦の悔しさを味わうたびに、ひとつずつ課題をクリアしてきた須江監督。2023年秋の負けによって、やるべきことがより明確になった。『敗者復活戦』を勝ち上がる準備は着々と整い始めている。
(続きは書籍でお楽しみください)
「甲子園優勝監督の失敗学」
大利実
KADOKAWA