◆ 白球つれづれ2026・第2回
新年早々のスポーツ紙を読んでいると、小さな記事に目がとまった。
1月5日に行われたソフトバンク球団の鏡開き行事に、王貞治会長が欠席したというものだ。軽い風邪とのことで深刻な病状でないようなのは何よりだが、御年85歳。それなのに、年々仕事量が増えているのが何とも気がかりだ。
「僕はマグロ。動いていないと死んでしまうんだ」あるインタビューに王さんはこう答えている。まんざらジョークとばかりは言えないほど、昨年は多忙を極めた。
ソフトバンクの球団会長として、自室でゆっくりできる人ではない。
キャンプでは、身振り手振りで打撃指導を始める。ホームゲームでは試合後に監督、コーチから選手までをベンチ裏で出迎えて労う。
地元の福岡と東京の二重生活。球団会長よりハードな「野球人・王貞治」としての業務も多い。
日本プロ野球名球会の顧問から、ライフワークである世界少年野球財団の理事長として、毎年、世界の野球少年を招いて大会を開催するなど振興に心血を注ぐ。
さらに昨年からは新たな組織も立ち上げた。
プロアマに捕らわれない、野球界の将来を見据えた「球心会」の設立である。
少子化による野球人口の減少を前に、プロとアマチュアが知恵を絞って、子供向け体験イベントや、ボールパーク構想を広げていこうと言う壮大なフロジェクトだ。
「これまでもプロアマの問題はいろいろなところで話し合われてきたが、それぞれがバラバラで横のつながりが足りない」。
サッカーを例にとるなら都道府県のサッカー協会から、中学、高校、大学、社会人、さらに日本代表やJリーグまでが統括されているのに対して、野球は高校、大学、社会人のアマチュアとプロ組織が一枚岩の組織と言えない。過去に両者間でトラブルもあって、互いの垣根は高かったが、もはやそんなことを言っている時代ではない。いかに総力を結集して野球の魅力を再発信していこうとの思いが込められている。
まるで“王コミッショナー”と言ってもおかしくない八面六臂の活躍。そこには球界全体のリーダー不足の実情も浮き彫りになっている。
現役時代は巨人の黄金期に868本の本塁打世界記録を樹立、長嶋茂雄氏とのONコンビは長く球界を牽引してきた。早実高では甲子園の優勝投手としてアマ球界にも燦然と輝く実籍も残している。
巨人を離れた後はダイエー、ソフトバンクの監督としてパ・リーグ人気にも寄与。これほどの影響力を残す野球人はいない。
本来であれば、次の世代のリーダーとして期待された星野仙一元楽天監督も逝去、落合博満氏やイチロー氏らはリーダーのタイプではない。
王さんは2006年に胃がんの手術で胃を全摘出する苦しい時期があった。今では年齢的なものもあるが、現役時代と比べてかなり体重は減り、小さくなった。それだけにハードワークは禁物なのだが、人から頼まれたものはよほどのことがない限り断ることがない。勤勉を絵にかいたような人なのだ。
そこへ昨年は文化勲章の受賞と言う慶事から、生涯の盟友・長嶋茂雄氏の死去と言うショッキングな出来事まで加わり心身の疲労はいかばかりだったか。
26年の球界は懸案事項が山積みだ。
メジャーへの流失が進むほど、年俸格差は浮き彫りになり、今では日本のドラフトを経ないで直接MLBを志望する若者が増えている。クライマックスシリーズの新アドバンテージ問題や近い将来ではロボット審判問題も議論される。
アマ球界では酷暑対策や高校野球の7イニング制も喫緊の課題となっている。王さんが必死に取り組もうとする球界改革の熱量に対して、コミッショナーを初めとする球界関係者の危機感がそこまであるように思えない。
いつまでも王貞治と言う稀代のスーパースターに頼ってばかりではいけない。
村上宗隆、岡本和真や今井達也選手らが海を渡る。新たなスターの欲しい球界だが、構造的な改革もまた迫られている。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)