◆ 白球つれづれ2017 ~第8回・侍ジャパン~

 ペナントレースが開幕して、まもなく1カ月が経とうとしている。最大の異変はパ・リーグ。何せ昨年のAクラスとBクラスが逆転。楽天、西武、オリックスが元気で、日本一の日本ハムが最下位に沈み、オープン戦を快走したロッテは貧打に泣き、巨大戦力のソフトバンクもエンジンがかかりきらない。

 このままの流れで最後まで推移するとは思えないが、どうしてこんな事態が生まれたのか? 原因は3月に行われたワールドベースボールクラシック(WBC)にある、と指摘する関係者は多い。

◆ パ・リーグでは……

 日本ハムの中田翔は開幕直後に右足内転筋挫傷でファーム調整を余儀なくされ、この23日の西武戦から戦列復帰したが打率は.176で本塁打ゼロ(数字は24日現在、以下同じ)だ。これに大谷翔平の離脱も含めると去年の破壊力など望むべくもない。

 ロッテの石川歩は開幕から3連敗で防御率7.62。「抑え方がわからなくなった」の言葉を残してファーム落ち。

 ソフトバンクでは若きエース・武田翔太が右肩に違和感を訴えてこちらも二軍調整中(1勝1敗、防御率5.91)。担当記者によれば「WBCの補充メンバーとして急遽、呼ばれたこともあって(一回り大きい)ボールの違いが影響したよう」と話す。

 打者では元気印の松田宣浩に快音が聞かれない。打率は.192で本塁打はゼロだ。

◆ セ・リーグの主軸も…

 セ・リーグに目を転じてみよう。こちらも侍ジャパンの主砲たちが苦しんでいる。昨年の本塁打、打点の二冠王である筒香嘉智(DeNA)は目下、20試合70打数アーチなしで打率も.243と低空飛行が続いている。WBCで.320、3本塁打、8打点と大活躍したのが遠い昔のようだ。

 ヤクルトの山田哲人も開幕ダッシュに失敗した一人。こちらも打率が伸び悩み.224で2本塁打だからこの調子がしばらく続くようなら3年連続のトリプルスリーに黄信号が灯りかねない。

◆ かつての代表コーチも「難しい面はある」

 一連のWBC後遺症とも言えるスランプはどうして起こったのか?2013年の代表チームのヘッド兼投手コーチを務めた東尾修に聞いてみた。

 「個人差もあるので一概には言えない」と断りながら担当の投手部門の調整の難しさを指摘する。

 「本大会に入るといつ投げるかわからないスクランブル発進も出てくる。本来、先発の投手がリリーフに回るケースもある。もちろんボールの違いに悩むやつもいる。通常の年より難しい面があるのは確か」

 投手なら巨人の菅野智之や西武の牧田和久、打者では巨人の坂本勇人、広島・菊池涼介らは侍ジャパンと変わらぬ働きを見せている。なるほど後遺症が全員に及んでいるわけではない。

◆ 疲労の蓄積…

 WBCの3月開催が決まると侍戦士たちは例年とは異なる調整を強いられる。ペナント開幕より1カ月以上早くベストコンディションに持っていくためには休養に充てるべきシーズンオフも返上の覚悟が必要だ。

 「特に前年、フル回転した投手は疲労の蓄積も残したまま早めの調整に入るのでオーバーワークに陥りやすい」とはある球団のスコアラー。石川歩や楽天の則本昴大らがこのケースに当てはまるかも知れない。

◆ 感覚のズレ

 中田翔の故障も無縁ではない。打者では外国人特有の「動くボール」と投球フォームのタイミングのズレを指摘する関係者は多い。

 今やメジャーでは主流となっているツーシーム主体の動くボールに対応するには従来のミートポイントより手前に引き付ける必要がある。さらに外国人投手は投球フォームが小さく、特に打席で足を上げる選手は差し込まれるケースが多い。この対策に腐心した後に国内に戻ると感覚のズレが生じてもおかしくない。

 「打席でのちょっとした“間”がズレている」と開幕直後に筒香嘉智は自分の打撃を分析した。激闘直後の疲労もあっただろう。加えて開幕のヤクルト戦では徹底した内角攻めに苦しんだ。

 一部には侍ジャパンのスコアラーも務めた志田宗大が大会期間中に筒香を観察してチーム(ヤクルト)に持ち込んだ、と分析する者もいる。

◆ 今後に向けて

 たかがまだ20試合程度。打者なら猛打賞の固め打ちを2~3度やれば打率は急上昇が可能な時期だ。しかし、大会がある度にこうした選手の後遺症が話題になるのも事実だ。

 選手会ではWBCと代表選手の影響を今後、個別にあたって調査するという。悲劇を繰り返さないためにはどんな対策が必要か?球界全体に課せられた宿題でもある。

文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

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