値千金の移籍第1号
まさに劇的な一勝だった。
5月9日、神宮球場で行われたヤクルト-広島の一戦。2回に広島が先制点を挙げるも、ヤクルトは4回に山田哲人と雄平の適時打で逆転に成功。しかし、8回に好投を続けていたブキャナンが二死から菊池涼介に二塁打を浴び、同点を許してしまう。
そして試合は2-2のまま延長戦へ突入。ヤクルトは石山泰稚が10回を無失点で切り抜けると、11回から近藤一樹が登板。昨季途中にオリックスからトレードで移ってきた右腕は、マウンド上で踊るようなフォームから真っ向勝負を挑み、広島打線をシャットアウト。四球ひとつを与えたのみ、2回・打者7人を無安打、2奪三振に封じる好投で流れを呼び込んだ。
すると12回裏、その近藤の打順のところに代打で登場したのが大松尚逸。昨オフにロッテを戦力外となり、今春のキャンプで行われたテストに合格して現役続行を勝ち取った苦労人だった。
広島の6番手・中田廉が投じた2ボール1ストライクからの変化球をうまくすくい上げると、打球はぐんぐん伸びてライトポール際のスタンドへ。興奮気味に一塁へと駆け出した男だったが、打球が無事にスタンドへ着弾したところを見届けると、冷静に冷静に...と言い聞かせるかのように左手の人差し指を振りながら控えめに喜びを噛み締めた。
移籍後第1号は値千金のサヨナラ弾。1年前にアキレス腱断裂の大ケガを負い、オフには戦力外というどん底を味わった男の一振りは大きな感動を呼んだ。
「いつか、こういう日が来ると信じてリハビリを続けてきましたんで、本当にうれしいです」。ヒーローインタビューで幸せを噛み締めた男には惜しみない拍手が送られ、「はじめまして!ヤクルトスワローズの大松尚逸です」と挨拶すると、最後まで勝利を信じて球場に残っていたヤクルトファンから大歓声が挙がった。
影のヒーロー
大松が放った劇的すぎる移籍第1号の裏で、実はもうひとつの“移籍第1号”があった。11回からの2イニングを完ぺきに抑えた近藤一樹の移籍後初勝利である。
かつてはオリックスでシーズン2ケタ勝利を挙げるなど、ローテーション投手として活躍してきた33歳の右腕。ところが、度重なるケガにも悩まされて2012年から2014年の3年間は未勝利に終わるなど、長く苦しい時期を過ごしてきた。
2015年に復活の1勝を挙げるも、昨年7月に八木亮祐とのトレードが決まり、ヤクルトへと移籍。ロングリリーフとして8試合に登板して防御率3.18と活躍を見せたが、勝利はおあずけのままシーズン終了を迎えていた。
そして迎えた今季の6試合目。強力広島打線を相手に自身の仕事を全うすると、自分に代わって打席に入った大松が一発。ド派手すぎる決着だったため近藤に注目が集まることはなかったが、勝利を呼び込んだ“影のヒーロー”は間違いなくこの男であった。
チームを支える『元パ・リーグ組』
近年は“再生工場”としても注目を集めているヤクルト。昨年の坂口智隆はその象徴的な存在で、事実上の戦力外からヤクルトに移ると見事に復活。5年ぶりに規定打席をクリアし、打率.295・155安打とかつての輝きを取り戻した。
また、パ・リーグからやってきた選手たちが多いというのも特徴的で、5月9日時点の一軍メンバーを見てみると8名もの元パ・リーグ戦士が名を連ねている。
【ヤクルト・一軍の“元パ・リーグ”組】※5月9日時点
▼ 投手
17 成瀬善久(元ロッテ)
68 山中浩史(元ソフトバンク)
70 近藤一樹(元オリックス)
▼ 内野手
2 大引啓次(元オリックス、日本ハム)
66 大松尚逸(元ロッテ)
▼ 外野手
42 坂口智隆(元オリックス)
64 榎本 葵(元楽天)
91 鵜久森淳志(元日本ハム)
日本ハムで右の大砲候補として期待されていた鵜久森は、戦力外となった後にトライアウトを経て2016年からヤクルトに加入。自身4年ぶりの本塁打を放つなど、打率.257で4本塁打と良い働きを見せた。
迎えた今季は4月2日のDeNA戦で代打サヨナラ満塁本塁打を放つなど、開幕カードから存在感を示し、最近では畠山和洋の離脱もあって一塁でのスタメン出場を増やしている。
ヤクルトを支える2つのキーワード、『復活』と『元パ・リーグ』から今後も目が離せない。