「111」からのスタート
2年前のいまごろ、背番号は3ケタだった。
砂田毅樹が育成1位の指名を受けてベイスターズに入団したのは2014年。2年目の15年6月には早くも支配下登録を勝ち取り、その年のオフには左腕の代表的な背番号「47」を与えられた。
昨年の春季キャンプ、砂田はこう息巻いていた。
「(16年は)最低2ケタは勝ちたい。“最低”というところに注目してほしいんですけど、10勝じゃなくて最低2ケタは勝ちたいんです。やっぱり『47』をつけるからには、10勝で喜んでるようじゃダメだと思う」
しかし、現実は思うようにはいかなかった。
開幕ローテーションに入り、前半戦だけで7度の先発機会を与えられたが、その時点での成績は1勝2敗、防御率4.30。「最低2ケタ」は遠くにかすんだ。
新たな役割の下で
8月に入り新たに与えられたのは、中継ぎという役割だった。当初はビハインドの場面での登板だったが、適性を表すにつれ、シーズン終盤には重要な局面でマウンドに送り込まれることが多くなっていった。
そして今シーズン、21歳の左腕は勝ちパターンの一角に組み込まれた。4月16日に明らかとなったブルペンの配置転換により、セットアッパーとして右腕の三上朋也とともに8回を任されることとなったのだ。
4月の終わり、アレックス・ラミレス監督はインタビューの中で砂田についてこう語った。
「間違いなく彼にはリリーフがいちばん似合っている。いま、セントラル・リーグにいる左のリリーフの中でベストなピッチャーだと思っている」
その評価を伝えると、砂田は表情を変えずに言った。
「監督からは、奄美での秋季キャンプの時からそう言われています。『中継ぎをやれば、お前はトップをとれるぐらいの実力はある』と。今年のオープン戦では結果が残せなくて、ファームでも打たれてばかりでしたけど、それでも神宮での開幕前日練習の時に『結果は気にしていない。公式戦になったらお前はやってくれる』と話しかけてくれた。そう言ってもらえて自信になりました。そのおかげで(シーズンに入ってから)思いきり自分の投球ができていると思います。」
欠くことのできない存在に
実際、ここまでの安定感は抜群だ。すでに15試合に登板して、防御率は1.42(5月9日終了時点)。直球に力が増して、スライダーにも磨きがかかった。「いまはかなりベストな状況」と、砂田は納得の表情を見せる。
「右打者の内角にしっかり投げ切れるようになったのは、自分でもすごくいい傾向だと思います。去年はそれができなくて打たれてしまうことが多かったので」
だが、成長の秘密はそれだけではなさそうだ。
中継ぎという役割それ自体が、砂田を育てている。
「コーチの木塚(敦志)さんからも、常に試合展開を読んでおくようにと言われてるんですけど、中継ぎに入ってから野球を自分なりに見るようになりました。試合展開だったりチームの状況だったり、見えてくるものがたくさん出てきた。それがいい方向につながっているのかなと思います」
中継ぎとして活躍し、ブルペンに欠かせない存在となりつつある砂田だが、心の奥底には先発復帰への思いを残している。
「先発を諦めたわけではないですし、また先発をやる可能性もなくはない。でも、いまは中継ぎでチームの力になれてると自分でも思えています。それに、これから先やっていくために必要なことをたくさん経験できているので、中継ぎをやって本当によかったなと思います」
そう語る砂田の表情は、鼻息の荒かった1年前に比べて、ずいぶん大人びて見えた。