待望の1勝
こみ上げるものを我慢することができなかった。
6月7日のZOZOマリンスタジアム。7回2失点の力投で今シーズン初勝利を挙げた中日・大野雄大は、お立ち台の上で涙を流した。
マイクを向けられても、ひとこと目が出てこない。言葉を発することが出来ず、ついに左手で顔を覆う。レフトスタンドから大野コールが湧き上がると、男は「勝つのって難しいと、改めて感じました」と言葉を絞り出した。
この試合前までの成績が、9試合で0勝5敗。防御率は6.60。開幕投手から一転、志願の中継ぎ転向に、二軍での再調整…。これまで味わったことのないスランプにもがき苦しみ、苦しみ抜いた末に掴んだ1勝目だった。
「まだ1勝5敗なので…泣いているのは情けないんですけど…」。自分でもそう語ったように、『エースがひとつ勝ったくらいで泣くな』というのが中日ファンの総意だろう。それでも、ようやく第一歩を踏み出した左腕に対する温かい拍手と声援は、最後まで止むことはなかった。
取り戻した攻めの姿勢
開幕前にWBCが開催された2017年シーズン。大野は侍ジャパン入りを熱望していたが、メンバーリストに名前は載らなかった。
オープン戦では5試合の登板で0勝1敗も、防御率は2.05という安定した投球を披露し、2年連続で開幕投手の大役を射止める。ところが、その開幕戦で巨人相手に6回6失点で敗れると、続く2戦目のDeNA戦でも5回5失点と試合を作ることができず、2連敗スタートとなってしまう。
その後、3戦目の巨人戦では8回途中まで2失点の力投を見せながら勝ち星はつかず。続く阪神戦でも6回1失点の好投を見せたが、この試合でも勝ち負けはつかない。ここから長いトンネルが始まった。
再び阪神に挑んだ4月28日の試合で、7回6失点の炎上。5月6日の巨人戦でも6回途中3失点で敗戦投手となると、そこから中継ぎに持ち場を変更する。
ところが、中継ぎ転向から2戦目の5月14日・ヤクルト戦。9回の頭から登板した大野は、相手の犠打失敗などもあって二死を奪いながら四球3つで塁を埋め、最後は荒木貴裕に満塁弾を被弾。サヨナラ負けを喫し、二軍に降格した。
一軍復帰戦の5月31日も、強力ソフトバンク打線につかまり6回6失点。ここでも自信を取り戻した姿は見られなかったが、背水の覚悟で臨んだ6月7日のロッテ戦ではがむしゃらに立ち向かう姿勢を披露する。
「後先考えずに、5回で降りても仕方ないと思って、初回から思い切っていきました」と大野。攻めの姿勢を取り戻した左腕はロッテ打線を7回まで4安打に封じ、7奪三振の好投。四球を1つに抑えただけでなく、3ボールまでもつれたのも3回だけ。首脳陣が求めたストライク先行で強気に攻める投球を見せてくれた。
とはいえ、自身でも語っていたとおり、「まだ1勝5敗」。ここから出遅れた分を取り戻し、さらに貯金を作っていくことが求められる。それがエースの宿命なのだ。
ファンもこの日ばかりは温かく見守ってくれたが、次回からはそうはいかないだろう。求められるのは“結果”だけ。涙の1勝をキッカケに、逆襲開始となるか…。大野雄大のこれからの投球に期待したい。