◆ バットでもチームをリード
それはまさに良い時の主砲・筒香嘉智を見ているようだった。
6月17日、横浜スタジアムで行われたDeNA-オリックスの一戦。DeNAの1点ビハインドで迎えた6回、一死満塁のチャンスで打席には2年目の戸柱恭孝が入る。
打順的には6番も、昨季の打率は.226で本塁打も2本。今季もこの試合の前の時点で打率.213となっており、どちらかと言えばバットに期待が集まるタイプの選手ではない。
ところが、かんたんに2ストライクと追い込まれながらも、2ボール2ストライクとなってからの5球目・甘く入ったフォークを引っ叩くと打球はライトポール際に飛び込む逆転のグランドスラム。一振りで試合の流れを変えた。
なお、この日は続く7回の打席でもレフトへ技ありの適時打を放ち、計5打点をマーク。さらに前日にも決勝3ランを放っており、2日間で計8打点という大暴れでチームを連勝へと導いている。
◆ 35打点は主砲・筒香をしのぐチーム2位
交流戦を終えた現段階で、戸柱の打点は37に到達。これは昨季マークした23打点をすでに多く上回り、リーグで見ても9位という好成績である。チームでは53打点でリーグトップを走るロペスに次ぐ2位の数字であり、主砲・筒香(30打点)よりも上だ。
打率は.220と決して好成績とは言えないが、得点圏に限れば.365という凄まじい数字。規定打席に到達していないが、これは糸井嘉男(阪神/.375)に次ぐリーグ2番目に相当する好成績である。
さらに満塁まで絞ると、9打数5安打で打率.556、1本塁打、14打点。まさに“満塁男”。ラミレス監督はこの勝負強さを買って、6番で起用していたのだった。
開幕当初はもはやセ・リーグにおける捕手の“定位置”となっている8番がメインだった戸柱だが、5月に入って8番に投手を置くオーダーが浸透してくると、戸柱は6番に入ることが多くなった。5月18日の広島戦では5番を任され、この試合でもきっちりと打点を挙げている。
近年は“打てる捕手”が枯渇した結果、「本当に捕手に打力を求めるべきなのか」「捕手は守れればそれで良い」といった声まで聞かれるようになった。だが、やはり“打てる捕手”は魅力的である。
特に投手が打席に立つセ・リーグの場合、いわゆる“安牌”が投手ひとりなのか、それとも捕手も含めたふたりになるのかによって、相手バッテリーに与えるプレッシャーに大きな違いが生まれる。8番・9番でほぼ自動的に2アウト、ではなかなか打線につながりも生まれない。
1年目から120試合以上に出場を果たしている戸柱だけに、キャッチング技術やリードに関しては首脳陣も一定の評価を与えている。そこにバットでも貢献できるとなったら、DeNAの“不動のレギュラー”として、その存在は揺るぎないものに変わるだろう。
攻守両面でチームをリードする2年目捕手・戸柱恭孝に注目だ。
文=清家茂樹(せいけ・しげき)