藤浪晋太郎
阪神・藤浪晋太郎(C)KYODO NEWS IMAGES

◆ 白球つれづれ~第19回・怪物ロードに異変~

 プロ野球のオールスターゲームがこの14、15日に行われる。

 目下、パの三冠ロードをひた走る柳田悠岐(ソフトバンク)対菅野智之(巨人)の一騎打ちや奪三振王・則本昴大(楽天)の剛速球を筒香嘉智(DeNA)がいかにして攻略するか? 大谷翔平(日本ハム)のバットからも目が離せない。だがスターの競演の場に本来いるべき男が今年はいない。

 阪神の藤浪晋太郎。ただいま二軍で無期限調整中である。

◆ まさに“乱調”

 エースの姿が一軍のマウンドから消えて久しい。5月26日のDeNA戦で今季3敗目を喫すると、プロ5年目にして初の二軍降格を命じられた。この時点で3勝3敗、防御率2.66は決して悲観する数字ではない。しかし、監督の金本知憲らの心証を悪くしたのは、その時点でリーグワーストとなる36個の四死球だった。

 開幕直後のヤクルト戦では畠山和洋の頭部に死球を与えたのをきっかけに両軍入り乱れた乱闘にまで発展、この試合だけで5回を9四死球の大乱調だ。肝心なところでストライクが入らない。そればかりか自慢の快速球がすっぽ抜けて危険球ではベンチも安心してゲームを任せられない。

 高校野球では大阪桐蔭高のエースとして史上7校目の春夏連覇。プロ入り後も高卒新人として入団以来3年連続の2ケタ勝利は松阪大輔(当時西武)以来14年ぶりと怪物ロードを順調に歩み続けた藤浪に今、何が起こっているのだろうか?

◆ 見つからない出口

「少年野球から今までストライクをとるという当たり前に出来たことが出来ない」

「メンタルどうこうよりフォーム的におかしくなったところを自分で治せない」

 藤浪自身が現状をこう語っている。

 投手とは繊細な「人種」とよく言われる。ちょっとした体重移動や指先の感覚のズレで本来の投球が出来なくなる。ある阪神0Bは「球団発表の数字(身長1メートル97、体重89キロ)よりも現在の体は大きくなっている。こうした肉体の変化に技術が追いつかないのでは?」と一因を挙げる。

 また、ある関係者は“イップス説”を指摘する。イップスとは精神的な障害などで自分の思い通りの動きが出来なくなる運動障害のこと。つまり、前述した畠山への頭部死球などのショックが尾を引いて本来の投球が出来ないということだ。

 他にも2015年は最多奪三振のタイトルを取るなど14勝7敗の好成績を収めたがシーズン終盤に右肩の違和感を訴えている。この影響もあり昨季は初めて7勝止まりに終わった。

 かつて、甲子園の優勝投手はプロで大成しない、と言われた時期がある。高校時代から肩を酷使するケースが多いからだ。いずれにせよ、大エース候補の若虎が出口の見つからない迷路にはまり込んでしまった。

◆ 復活が待たれる虎のエース

 今月に入ってもショッキングなニュースが舞い込んできた。7月2日のウェスタンリーグ・中日戦に先発した藤浪はここでも石垣雅海に対して頭部死球を与えて危険球退場、この時点で7四死球7失点では当分、一軍からのお呼びもかかりそうにない。こんな惨状に僚友であるエースのR・メッセンジャーは意味深長な言葉を寄せている。

「まだ若いから、トレーニングも大事だがコーチのアドバイスを聞かないといけない」

 プロ入り以来、順調に怪物ロードを登ってきた藤浪は自分の信じる道を歩んできた。アドバイスも必要がなかったかも知れない。過去に1球の死球、1球の被本塁打で投手生命を狂わせた者はいくらもいる。藤浪にはそうなってほしくない。阪神の宝は球界の宝でもあるからだ。

 「一強二中三弱」のセ・リーグペナントレース。金本阪神は辛うじて首位広島の 背中を追う立場。大逆転劇に藤浪の復活は絶対的な条件となる。鳴尾浜でのミニキャンプがいつ終わるのか?は現時点でわからない。だが、大谷翔平と並ぶ160キロの剛速球と奪三振ショーをファンは待ちわびている。初めて迎えたプロの曲がり角。藤浪晋太郎の夏はいつにもまして暑い。

文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

【荒川和夫・プロフィール】 1975年スポーツニッポン新聞社入社。野球担当として巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)等を歴任。その後運動部長、編集局長、広告局長等を経て現在はスポーツライターとして活動中。

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