薮田和樹 ,
今や勝ち頭としてチームを支えている薮田和樹(C)KYODO NEWS IMAGES

◆ 白球つれづれ~第21回・若鯉たちの“危機バネ”~

 先日、「元祖赤ヘル」で元監督の山本浩二と会った。

 古巣の話題になると開口一番「(大型)連敗さえしなければ、もう大丈夫じゃろ」と余裕のV宣言だ。なるほど、24日現在の成績は56勝31敗2分。貯金は今季最多の25に膨れ上がっている。2位・阪神とは9ゲーム差の独走。残りのペナントレース54試合を勝率5割で乗り切れば、83勝とちょうど優勝ラインが見えてくる。

 すでに巨人は先のDeNA戦にエースの菅野智之と田口麗斗をぶつけてくるなど、Aクラス浮上を見据えたローテーションを編成。中日の指揮官・森繁和に至っては「広島がどんどん勝ってくれ。その分、2位以下が団子状態になってうちにもチャンスが出てくる」とすでにクライマックスシリーズ狙いを隠そうとしない。

◆ 若き力が躍動!

 今でこそ反論の余地もないが、開幕前には個人的に広島の連覇は難しいと予想していた。その最大の根拠は投手陣の不安にある。

 まず第一に、大黒柱であった黒田博樹が昨季限りで現役を引退。その前年にはエースの前田健太をメジャーに流失しており、立て続けに柱を失っていることが大きなマイナス要因となるのは火を見るより明らかだった。

 さらに、昨年の野村祐輔とジョンソンの“好成績”も不安要素のひとつ。野村は16勝3敗で最多勝と最高勝率のタイトルを獲得。ジョンソンも15勝7敗で沢村賞受賞。つまりこの何が不安なのかと言えば、これだけの数字は“出来過ぎ”に近く、2年連続は望めないだろうということ。

 「タナ・キク・マル」を中心とした打線は強力でも、野球の勝敗の大半は投手力にかかっている。しかも、開幕直後にはジョンソンが咽頭炎と体調不良で戦列を離脱。どう見ても苦戦必至の台所事情だった。

 「確かに開幕前は投手陣に不安もあった」とヘッドコーチの高信二は振り返る。

 しかし、その上で「ウチは若い選手の競争が激しい。チャンスは与えるのでそれをモノにするかどうかは選手次第。今ある戦力をどう伸ばして戦うか?を常に意識しています」このあたりが育成上手と言われる広島の真骨頂なのだろう。

 そんな状況の中で現れた最大の“孝行息子”こそ、薮田和樹である。2014年のドラフト2位入団ながら昨年までは2年間で4勝止まりの未完の大器が、今季は5月の交流戦から先発に起用されると無傷の6連勝。今月22日の中日戦も安定した投球で9勝目をマークした。

 しかも、ここまで敗戦は1つのみ。昨年の野村並みの貯金をチームにもたらしている。これまではコントロールに難があり先発ローテ入りは見送られてきたが、その弱点が解消されると最速153キロの快速球と自慢のシンカーで三振の山を築き、黒田の穴を埋めてしまう。

 さらに昨年4勝の2年目・岡田明丈が8勝(4敗)、同じく昨年は右ひじ痛などで不本意な成績に終わった大瀬良大地も、ただいま6勝無敗だ。薮田を併せた3人で実に23勝5敗。チームに貯金18をもたらすとは誰が予想できただろう。

◆ ジョンソン再離脱も不安なし?

 広島投手陣を支える力はこれだけではない。薮田の1年前に同じ岡山理大付属高から亜細亜大を経て入団した九里亜蓮も、ここまで先発・中継ぎとして生きのいい働きを披露。高卒8年目を迎えた今村猛も、新ストッパーとして昨年の中崎翔太の代役を果たしている。

 前述した野村は勝ち運にも恵まれず、ここまで5勝4敗と去年ほどの数字に届きそうにはないものの、ここまで名前を挙げてきた20代の若き投手たちが軒並み奮闘。激しいチーム内競争が、黒田の引退やジョンソンの出遅れといった危機をどこかへ吹き飛ばしてしまったのだ。

 また、若手投手たちの躍進の裏には打線の援護も見逃せない。何せチーム打率.281はセ・リーグどころか12球団トップ。96本塁打、484得点、そして71盗塁もリーグ断トツだ。打線が投手を育てる――。今では先発が6回を2~3失点なら、かなりの確率で白星となるのだから頼もしい。

 チーム内競争と強力打線の援護…。加えて、関係者はもうひとつの“広島ならではの強み”を付け加える。

 「ウチはよほどのことがない限りFAでの補強はしません。上から蓋をするようなチーム作りより、下から伸びてくる芽の育成に重点を置くからです」。

 23日、ジョンソンが今度は左太もも裏の筋損傷を負い、2度目の登録抹消が決まった。昨年までなら一大事だったかもしれないが、今の若き赤ヘル投手陣を見ていると致命傷とは思えない。こちらは開幕前の不明を恥じるばかりである。

文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

【荒川和夫・プロフィール】 1975年スポーツニッポン新聞社入社。野球担当として巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)等を歴任。その後運動部長、編集局長、広告局長等を経て現在はスポーツライターとして活動中。

この記事を書いたのは

荒川和夫

1975年スポーツニッポン新聞社入社。野球担当として巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)等を歴任。その後運動部長、編集局長、広告局長等を経て現在はスポーツライターとして活動中

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