このポスター、西武ファンなら見覚えがある人も多いのではないだろうか。目を引く色にプレー中の選手とキャッチコピー。そして背景には何やらたくさんの文字が書いてある。「SNSなどでファンの方にもすごく反響をいただいていて」と話すのは、球団の事業部・プロモーショングループの盛雄城さんだ。これまでのポスターとは一味違った今年のポスターには、どんな想いが込められているのだろうか。
「一度原点に返ろう」。このポスターはそんな想いで作られているという。
「去年までは選手を起用して、イベントの告知など、球団が伝えたいことを一方的に盛り込んだ内容が多かった。今年は球団が伝えたいことももちろんありますが、原点に返って、選手自身をしっかり伝えたい。そして、それを見たお客さんがさらに周りの人にも伝えていってもらえるようなものにしたい」
さらに、アプローチするターゲット層も変えた。「コアなファンの方というよりは、ライトな方。野球やスポーツに少しでも興味がある方など、ライオンズを好きという一歩手前の段階の人たちに、ライオンズを気になってほしい」という狙いがある。
ファンに囲まれる栗山巧ⒸKYODO NEWS IMAGES
しかしこのポスター、コアなファンにもすごく反響があるように感じる。そう伝えると「そうなんですよね」盛さんは笑う。
「ライト層に対して伝えていくに当たって、どういうコミュニケーションの仕方が良いかと考えた時に、すでにコアなファンの方がいるので、その人たちから伝えていってもらったほうがいいんじゃないかと思いました。僕ら(球団側)がライトな層にいきなり『ライオンズファンになってください』といっても効果がないのではないかと」
ターゲットはライト層だが、そのためには、既にいるライオンズファンの力を借りる。「コアなファンの方が、職場だったり、学校だったり、家族だったり...周りの方に伝えて、話題になってほしい」
真の目的はライト層を取り込み、ファンを増やすこと。ただ、このポスターはコアなファンの琴線に触れ、刺さるようなものにして、そこから伝播させていくという狙いがある。
このポスターの見どころは、なんといっても背景にある文章だ。
「ライト層の方には実績や記録のことを並べてもあまり伝わらない。なので選手の中身の部分、人柄だったり、エピソードだったり。そういう内面に触れる要素もできるだけ入れるようにしています」
例えば「信号待ちで見かけた少年ファンに自分から声をかけ、サインボールを渡した」(栗山巧)、「野球選手になっていなかったら国語の先生になりたかった」(秋山翔吾)といった具合にだ。
内容だけでなく、「取り扱い説明書みたいにはしたくなかった」と、言い回しにも工夫を凝らしている。「全体的に崩した言い方というか、フランクな語り口で書いてもらうようにしています」
この文言を考えているのは一人のデザイナーだという。「担当しているデザイナーさんは、野球ファンではありますが、ライオンズのファンではなかったんです。ターゲットであるライト層に近い存在だったので、そういった目線で書いてもらっています」
いい意味でデザイナー任せ。「僕たちがあまり口出しすると、球団の色が強くなってしまう。ライオンズ色に染まっていないデザイナーさんのフラットな目線で選手の特徴を伝えることで、ライト層には届きやすいのかな」
さらに、ユーモラスな“ルビ”にも注目が集まっている。「一流(トリプル3狙えるほど)」「幻惑(けんもほろろ)」「名策士(マインドゲーマー)」「胸が躍る(パルスビート)」「人柄も完璧(中身イケメン)」...。これもデザイナーの“遊び心”だという。「無茶苦茶なことをいっている」という面白“ルビ”こそがファンの心をつかんでいる。
ユーモラスな“ルビ”に注目ⒸSEIBU Lions
また、この文章を読んでもらうために、掲載場所も変えた。去年までは電車の中吊り広告と駅のポスターのどちらにも使用していたが、今年からは駅のポスターのみに絞って展開。「媒体の特性的に、電車の中のポスターは自分のタイミングでじっくり読めないことが多い。じっくり読んでほしいと考えた時に、駅であれば電車待ちの時間とか、止まって自分のタイミングで見られるので」と説明する。
西武鉄道の駅に掲出されているポスターⒸSEIBU Lions
文章に注目してほしいと話す盛さんだが、「まずは色で目を引いてもらって、選手がいて、メインコピーがあって、これだけでも遠くで分かってもらえれば」という。「よく見たらなんか書いてあるなと、読み込んでもらって、共感してくれれば」
色で目を引くⒸSEIBU Lions
写真はプレー中のものを使用。今回のポスターは改めて撮影することはしていない。実際に選手を見る機会は、ほとんどがプレー中。観戦に来た時に「ギャップを生みたくない」というのが本心だ。「選手本人たちも言っていましたが、プレーしているときのほうがかっこいい」。プレー中の写真の中から本人“らしさ”が一番伝わる写真を選んだという。
さらに、一部のファンの間で「ライオンズカラーを意識している」と話題になっている背景色は「偶然の産物です」と明かす。「色で興味を引いてもらいたかったので、パステルカラーを使いつつ。浅村さんの場合は自身が好きな黄緑色。栗山さん、中村さんの場合はライオンズの土台を表現したかったので、ライオンズの青を使おうと。秋山さんの場合は、ライオンズフェスティバルズ期間中の掲出ということもあり、『炎獅子』の赤を使用しました。それが偶然ライオンズカラー(青・緑・赤)になって。結果的にファンの方にそういうふうにとらえてもらえているようですね」
このポスターは球団からの一つの提案なのである。「『ダゲキングは中村さんでしょ』って秋山さんも言っていたんですが、こちらの意図としては、試合を構成する要素は本塁打だけじゃない。1個1個のヒットだって大事な要素。それを積み上げて日本記録を持っているので、『ダゲキング』というキャッチコピーをつけました。本塁打や奪三振以外にも野球の面白さはありますよという提案になっている」と説明する。
秋山自身も「見どころは球場に来て、来てくれた方が見つけてくれると嬉しい」と話していたという。
最近では、秋山がヒットを打つたびにツイッター上で「#ダゲキング」というハッシュタグが盛り上がる。これまでも中村や栗山が無安打に終わった日などには「今日の骨(牙)はダメでした」といったツイートが見受けられるなど、盛さんは「去年までとは圧倒的に違う」と実感しているという。
また、SNS上だけではない。メットライフドームに隣接する球団事務所の前には巨大なポスターが設置されていて、その前で写真を撮るファンも多い。
球団事務所前に掲出されている巨大ポスターⒸSEIBU Lions
「第1弾(浅村)が出た時は、新キャプテンや待望の背番号『3』というわかりやすいトピックスがあったので、ファンは喜んでくれているのかと。でも、第2弾(牧田)が出た時に『絶滅危惧種が面白い』『文章が良い』などの声を聞き、いい反響があるなと実感しました」
今後の展開を聞くと「悩ましいですよね」と頭をかく。「候補がありすぎて...」
ただ、ファンも次のポスターを心待ちにしているのがわかる。「ファンの方も予想してくれてたり。次で終わりとか、あと2回とか。選手の起用や色に関しても色々予想している方もいて。それだけ話題にしてくれることはすごくうれしいですね」
「どうなるかは掲出を楽しみにしてください」と笑みを浮かべる。話題の選手ポスター、次回は8月中旬ごろを予定しているというが、いったいどんなポスターが登場するのか、今後の展開が楽しみだ。
原点回帰
「一度原点に返ろう」。このポスターはそんな想いで作られているという。
「去年までは選手を起用して、イベントの告知など、球団が伝えたいことを一方的に盛り込んだ内容が多かった。今年は球団が伝えたいことももちろんありますが、原点に返って、選手自身をしっかり伝えたい。そして、それを見たお客さんがさらに周りの人にも伝えていってもらえるようなものにしたい」
さらに、アプローチするターゲット層も変えた。「コアなファンの方というよりは、ライトな方。野球やスポーツに少しでも興味がある方など、ライオンズを好きという一歩手前の段階の人たちに、ライオンズを気になってほしい」という狙いがある。
コアファンからファン予備軍へ
しかしこのポスター、コアなファンにもすごく反響があるように感じる。そう伝えると「そうなんですよね」盛さんは笑う。
「ライト層に対して伝えていくに当たって、どういうコミュニケーションの仕方が良いかと考えた時に、すでにコアなファンの方がいるので、その人たちから伝えていってもらったほうがいいんじゃないかと思いました。僕ら(球団側)がライトな層にいきなり『ライオンズファンになってください』といっても効果がないのではないかと」
ターゲットはライト層だが、そのためには、既にいるライオンズファンの力を借りる。「コアなファンの方が、職場だったり、学校だったり、家族だったり...周りの方に伝えて、話題になってほしい」
真の目的はライト層を取り込み、ファンを増やすこと。ただ、このポスターはコアなファンの琴線に触れ、刺さるようなものにして、そこから伝播させていくという狙いがある。
ユーモラスな文章は必読!
このポスターの見どころは、なんといっても背景にある文章だ。
「ライト層の方には実績や記録のことを並べてもあまり伝わらない。なので選手の中身の部分、人柄だったり、エピソードだったり。そういう内面に触れる要素もできるだけ入れるようにしています」
例えば「信号待ちで見かけた少年ファンに自分から声をかけ、サインボールを渡した」(栗山巧)、「野球選手になっていなかったら国語の先生になりたかった」(秋山翔吾)といった具合にだ。
内容だけでなく、「取り扱い説明書みたいにはしたくなかった」と、言い回しにも工夫を凝らしている。「全体的に崩した言い方というか、フランクな語り口で書いてもらうようにしています」
この文言を考えているのは一人のデザイナーだという。「担当しているデザイナーさんは、野球ファンではありますが、ライオンズのファンではなかったんです。ターゲットであるライト層に近い存在だったので、そういった目線で書いてもらっています」
いい意味でデザイナー任せ。「僕たちがあまり口出しすると、球団の色が強くなってしまう。ライオンズ色に染まっていないデザイナーさんのフラットな目線で選手の特徴を伝えることで、ライト層には届きやすいのかな」
さらに、ユーモラスな“ルビ”にも注目が集まっている。「一流(トリプル3狙えるほど)」「幻惑(けんもほろろ)」「名策士(マインドゲーマー)」「胸が躍る(パルスビート)」「人柄も完璧(中身イケメン)」...。これもデザイナーの“遊び心”だという。「無茶苦茶なことをいっている」という面白“ルビ”こそがファンの心をつかんでいる。
また、この文章を読んでもらうために、掲載場所も変えた。去年までは電車の中吊り広告と駅のポスターのどちらにも使用していたが、今年からは駅のポスターのみに絞って展開。「媒体の特性的に、電車の中のポスターは自分のタイミングでじっくり読めないことが多い。じっくり読んでほしいと考えた時に、駅であれば電車待ちの時間とか、止まって自分のタイミングで見られるので」と説明する。
プレー中の写真を使用「ギャップ生みたくない」
文章に注目してほしいと話す盛さんだが、「まずは色で目を引いてもらって、選手がいて、メインコピーがあって、これだけでも遠くで分かってもらえれば」という。「よく見たらなんか書いてあるなと、読み込んでもらって、共感してくれれば」
写真はプレー中のものを使用。今回のポスターは改めて撮影することはしていない。実際に選手を見る機会は、ほとんどがプレー中。観戦に来た時に「ギャップを生みたくない」というのが本心だ。「選手本人たちも言っていましたが、プレーしているときのほうがかっこいい」。プレー中の写真の中から本人“らしさ”が一番伝わる写真を選んだという。
さらに、一部のファンの間で「ライオンズカラーを意識している」と話題になっている背景色は「偶然の産物です」と明かす。「色で興味を引いてもらいたかったので、パステルカラーを使いつつ。浅村さんの場合は自身が好きな黄緑色。栗山さん、中村さんの場合はライオンズの土台を表現したかったので、ライオンズの青を使おうと。秋山さんの場合は、ライオンズフェスティバルズ期間中の掲出ということもあり、『炎獅子』の赤を使用しました。それが偶然ライオンズカラー(青・緑・赤)になって。結果的にファンの方にそういうふうにとらえてもらえているようですね」
球団からの一つの提案
このポスターは球団からの一つの提案なのである。「『ダゲキングは中村さんでしょ』って秋山さんも言っていたんですが、こちらの意図としては、試合を構成する要素は本塁打だけじゃない。1個1個のヒットだって大事な要素。それを積み上げて日本記録を持っているので、『ダゲキング』というキャッチコピーをつけました。本塁打や奪三振以外にも野球の面白さはありますよという提案になっている」と説明する。
秋山自身も「見どころは球場に来て、来てくれた方が見つけてくれると嬉しい」と話していたという。
「#ダゲキング」で大盛り上がり
最近では、秋山がヒットを打つたびにツイッター上で「#ダゲキング」というハッシュタグが盛り上がる。これまでも中村や栗山が無安打に終わった日などには「今日の骨(牙)はダメでした」といったツイートが見受けられるなど、盛さんは「去年までとは圧倒的に違う」と実感しているという。
また、SNS上だけではない。メットライフドームに隣接する球団事務所の前には巨大なポスターが設置されていて、その前で写真を撮るファンも多い。
「第1弾(浅村)が出た時は、新キャプテンや待望の背番号『3』というわかりやすいトピックスがあったので、ファンは喜んでくれているのかと。でも、第2弾(牧田)が出た時に『絶滅危惧種が面白い』『文章が良い』などの声を聞き、いい反響があるなと実感しました」
気になる今後は?
今後の展開を聞くと「悩ましいですよね」と頭をかく。「候補がありすぎて...」
ただ、ファンも次のポスターを心待ちにしているのがわかる。「ファンの方も予想してくれてたり。次で終わりとか、あと2回とか。選手の起用や色に関しても色々予想している方もいて。それだけ話題にしてくれることはすごくうれしいですね」
「どうなるかは掲出を楽しみにしてください」と笑みを浮かべる。話題の選手ポスター、次回は8月中旬ごろを予定しているというが、いったいどんなポスターが登場するのか、今後の展開が楽しみだ。