トレード締め切り日に衝撃の移籍
プロ野球の補強期限となる7月31日の朝、衝撃の一報が飛び込んできた。
日本ハムが谷元圭介を金銭トレードで中日へと放出。先日のオールスターゲームにも出場したリーグを代表するリリーバーの移籍とあって、当該チーム以外のファンも驚きの声を挙げた。
中でも多かったのは、当然ながら日本ハムファンの“悲鳴”だ。167センチという小柄な体格で9年間・通算351試合に登板。昨季まで3年連続で50試合以上に登板し、今季もここまで36試合とフル回転でチームを支え続けてきた男だけに、ファンからは「なぜ…」という悲しみの声から「何を考えているのか」といった怒りの声までが噴出している。
徹底した経営方針
では何故このようなことが起こったのか…。最も大きな要因としては、日本ハムが貫く独自の経営方針にある。
NPBの12球団の中でも特にドラスティックな経営で突き進んでいる日本ハム。これまでもトレードでチームの顔だった糸井嘉男を放出したり、最近でもかつてのリーグMVP左腕であった吉川光夫をトレードで放出したことは記憶に新しい。
選手の“年俸”と“年齢”の兼ね合いに関しては特に厳しく、昨オフもFA権を取得していた陽岱鋼をあっさりと放出。人気や実力を持った選手も手放してでも、金額を抑えつつ若手を育成していくという路線が最近は色濃くなっている。
そこで今回の谷元である。32歳という年齢に推定1億円の年俸。そして今年6月には国内FA権を取得した。今季ここまでの活躍からも年俸アップは必至で、そこでトレードでの放出という決断に至った。
オフにFAを控える主力選手をシーズン中にトレードで放出するというのは、メジャーでは一般的な考え。ポストシーズンに進出する望みが薄くなった下位チームは積極的に“売り手”に回り、主力選手と引き換えに資金や有望株を得ようとする。
だが、日本ではそもそもトレード自体が少なく、『活躍の場がない選手のためのもの』というイメージの方が強い。そのため、ネガティブな印象を受ける人の方が多いように思う。
今回の谷元に関して日本ハムのファンからは怒りの声も挙がったが、チームは決して谷元を『戦力として見ていない』から放出したのではない。来季以降を見据えたうえで、チームの再建へ必要な代償としてバリバリ主戦の右腕を放出したのだ。
チームの成功と、ファンの気持ち
とはいえ、明確な目的を持った球団の方針だったとしても、受け入れられないと思うファンの気持ちもよく分かる。
2008年のドラフト7位で日本ハムに入団した小さな右腕は、中継ぎというタフな持ち場で9年もの長きに渡ってチームを支え続け、ついにはオールスター選手にまでなった。
“困ったときの谷元”としてファンからも信頼されていた選手。それを「チームの強化のためです」と言われても納得はいかない人がほとんどだろう。特に最近はファンも悲しむ移籍・退団が多かっただけに、「自分が応援している選手もいつかは…?」と不信感を抱くのも仕方がない。
ファンとしては応援するチームが強くあってほしいと思うのが当然で、秋には共に喜びを分かち合いたいと思うもの。ファンを喜ばせるためには勝利が一番なのは間違いないが、チームの強化もやり方次第ではファンを失望させてしまう可能性もある。
何にせよ突然すぎる別れはファンにとってもつらく、悲しいもの。ファンはこの悲しみの先に歓喜があることを信じて応援するしかなく、球団は絶対にその想いに応えなければならない。
昨年の日本一から一転して苦しい戦いを強いられている日本ハムだが、このトレードによってオフの動きにもより注目が集まる。なにせ主砲の中田翔もFAが控えており、大谷翔平も海外移籍の噂が絶えない状況。そんな中でどのようにチームを立て直していくのか…。独自路線を突き進む日本ハムの動向から目が離せない。