藤平尚真 ,
藤平は苦しいチームの救世主となるか(C)KYODO NEWS IMAGES

◆ ファンの心をがっちりつかむ初勝利

 楽天のドラフト1位ルーキー・藤平尚真が、8月22日のロッテ戦で待望のプロ初勝利を挙げた。

 思い返してみると、1年前の夏は“高校BIG4”の一員として寺島成輝(ヤクルト)や今井達也(西武)、高橋昂也(広島)と甲子園を盛り上げた怪物右腕。“BIG4”以外にも高卒で多くの注目投手プロの門を叩いたが、藤平は高卒新人として誰よりも早く白星を掴んだ。

 藤平は6月16日の阪神戦でプロ初登板・初先発。その後は間隔を空けて8月6日ロッテ戦で先発するも連敗を喫する。しかし、内容を見ると阪神戦は5回2失点、ロッテ戦も6回2失点ときっちり試合を作ることが出来ていた。

 そして迎えた3度目の先発。22日のロッテ戦では5回を2安打、7奪三振で無失点の見事な投球を披露。腕を柔らかくしならせて振り抜き、序盤から生命線のストレートが走る。高めのゾーンで空振りを奪うシーンも多く、連敗中だった楽天のファンからすれば、久しぶりに胸のすくようなゲームを見せてもらったのではないか。

 その投球はもちろんのこと、試合後のヒーローインタビューもまた、ファンの心をがっちりつかむものであった。

 はきはきと元気よく言葉を発する新人らしい受け答えのなか、「チームの連敗を自分が止めようという強い気持ちで(マウンドに)行った」という強気な一面。18歳という年齢を感じさせない頼もしさがあった。

◆ ペナントレースの正念場を迎えた楽天

 ちなみに、横浜高校出身の藤平だが、生まれ育ったのは千葉県。小学6年時には千葉ロッテマリーンズジュニアに所属していた。藤平にとって愛着のあるZOZOマリンスタジアムでの試合だったことも、この日の好投につながったのかもしれない。

 昨年のドラフト会議前には、ロッテOBの小宮山悟氏が粒ぞろいの指名候補投手を差し置いて「藤平の将来性に一番魅力を感じる」と述べている。ロッテと縁のある藤平への初白星献上に、地団駄を踏む思いをしたロッテOBやファンも少なくないのではないか。

 さて、プロとしての大きな一歩を踏み出した藤平には、今後も伸び伸びと成長してほしいと願う一方で、より大きな期待も寄せたくなる。

 いま、チームはまさに正念場。藤平の快投により連敗は止まったものの、その前週は西武・ソフトバンクとの上位直接対決に全敗。藤平が連敗ストップした22日以降も全敗で、ここ4カードの戦績は1勝11敗と苦しい戦いが続く。

 前半戦はバチバチの争いを繰り広げたソフトバンクとの差は「9.5」まで拡大。後ろには西武が1.5差まで迫ってきており、これ以上の足踏みはもう許されない。

 ここに来て不振に苦しむ打線が苦戦の大きな要因と言って間違いないが、先発陣の疲労も気になるところ。快調に白星を重ねてきたエースの則本昂大が今月は1勝3敗と苦しみ、岸孝之も1カ月以上白星から遠ざかる。快進撃を支えてきたローテの柱にほころびが見え始めているのだ。

 高卒ルーキーにこの危機を救え、というのはさすがに荷が重い。それでも、先週ただ一人の勝利投手になった藤平にはそんな期待も抱いてしまう。

 投打に疲れが見え始めるチームの中、フレッシュなドラ1ルーキーが救世主になるか。藤平尚真の投球に注目だ。

文=清家茂樹(せいけ・しげき)

【清家茂樹・プロフィール】 1975年、愛媛県生まれ。出版社勤務を経て2012年独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。野球好きが高じてニコニコ生放送『愛甲猛の激ヤバトーク 野良犬の穴』にも出演中。

この記事を書いたのは

清家茂樹

清家茂樹 の記事をもっと見る

もっと読む